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映画『SNS-少女たちの10日間-』感想 ネットが増幅させた人間の醜さ


 観てて、結構キツくなる作品でした。映画『SNS-少女たちの10日間-』感想です。

 チェコスロバキアにおいて、とあるドキュメンタリー撮影が開始される。巨大な撮影スタジオに作られた3つの子ども部屋。そこに集められた幼い顔立ちをした3名の女優(実年齢は18歳以上)。彼女たちは、12歳と偽りSNSにアカウントを作成して、友達募集をするという任務を与えられていた。アカウントを立ち上げ、即座に連絡が来たのは何と成人男性ばかり。彼女らは、チャットやビデオ通話で男たちとコミュニケーションを取るが、予想を上回る未成年者への性的搾取の実態を目の当たりにする…というドキュメンタリー。

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 チェコスロバキアで、「ネット上で行われる未成年児童への虐待」を検証する目的で撮影されたドキュメンタリー映画。撮影された映像が突き付ける現実の、あまりの酷さに世界中が騒然となった作品と話題です。
 前評判は聞いていたので、ある程度覚悟をして臨んだつもりでしたが、聞きしに勝る酷さで、結構ダメージを食らってしまいました。刺激的な作品には耐性があるつもりでしたが、自分も男性という「当事者」であるという事実が、罪悪感を生み出しているように思えます。

 冒頭の、アカウント作成直後から多数の中年男性からアクセスやメッセージが届くところなんかは、ブラックジョーク的な下ネタを嗤いものにするくらいの気持ちで、まだ観ていられたんですよね。けれども、その後も延々と続く性的なメッセージ、ビデオ通話で見せつける性器の露出、口説きですらない言葉の数々、そしてそれらが、12歳の少女とわかって向けられているという事実が、どんな残酷なグロいシーンよりも、吐き気をもよおしてきます。
 そしてそれが、男性が持つ性欲の発露という、自分自身も持っている部分でもあるというのがおぞましく感じられてきてしまうんですよね。

 ただ、ここに出てくる変態男たちの行動が、性欲によるものだけかというと、そうではないと思うんですよね。いわゆる小児性愛者「ロリコン」と呼ばれる人たちとも違うと、作中でも分析されています。
 結局、自分よりも弱い(と思い込んでいる)立場の人間を相手に、いいように服従させたいという支配欲に近いものがあると思います。それと性欲が結び付いて、歪な欲望感情となっているように感じました。

 ビデオ通話の映像で、相手男性の顔にはボカシがかけられているんですけど、このボカシのかけ方が画期的で、目元と口元のみにはボカシが無くて見られるようになっているんですね。このボカシにより、そのおぞましい表情や、どんな視線を投げかけているのかがはっきりとわかるようになっています。エイフェックス・ツインの露悪的なアー写に見えるような気がしました。

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こんな感じ

 ただ、撮影方法や作品の意義自体には疑問となる部分もちらほらとありました。性的メッセージを投げかけてくるところで、既に犯罪的だと思うんですけど、その後で、ヌードモデルの身体をコラージュさせて女性たちの裸体写真として与えるのは、ちょっとエスカレートし過ぎのように感じられます。
 警察も介入して、囮捜査目的で逮捕のためならばわかるんですけど、あくまでドキュメント撮影の範囲内でこれをやるのは、行き過ぎのように感じられるですよね。それと、女性たちもコラ画像で自分の裸じゃないからOKなのかという疑問があります。見た男性にとっては本物かどうかって関係なくないですかね?

 男性たちと直接会って、ドッキリ的な形で溜飲を下げる場面がクライマックスではありますが、これも何か軽い悪戯的な仕返し程度で、違和感がありました。この時は撮影スタッフがいるから当然大丈夫ですが、作品を観て実際の少女たちが悪戯的な遊び目的で変態と会って、相手を激高させないとも限らないと思うんですよね。

 男たちの変態性という一連の流れから、救いとしてマトモな男性との交流が出てきますが、これにしたって、こういうコミュ力が高くて、良識ある人間の方がさらに注意すべき存在ですよね。こういう男の方が、実際に会って交流していったら、どう豹変するかわからない怖さがあると思うんですよね。

 結果としてこの作品が何を成し遂げたかというと、ネット性犯罪の事実を列挙させただけのような気がするんですよね。もちろん、注意喚起にはなっているんですけど、それはもう結構昔から言われていることではあるんで、こういう事例を知らない人は、もはや少ないんじゃないかと思うんですよ。
 撮影の結果を警察に報告したことで、いくつかの事例が捜査対象となったそうですが、結末として持ってくる割には、焼け石に水だと思います。今後、どう対処すればよいかまでは提言出来ていないんですよね。

 もう少し、変態たちの問題点、支配欲の構造や、ネット社会への弊害にまで掘り下げるべきだったんじゃないかと思うんですよね。結局、この作品の事例は、変態性を持つ一部の特殊な人間が起こした事件ではなくて、人間誰しもが持つ他人には見せられない「絶対悪」の部分を、ネット環境が可視化した上に、増幅させて、はけ口になった結果だと思います。
 性被害だけでなく、差別発言、暴言、誹謗中傷などが溢れている現在のSNSも、同じ要因だと思うんですよね。ネットを使いこなすには、人間自体がもっと上質な生き物にならないといけないんじゃないかと思います。ただ「上質」の定義が千差万別なので、まだ混乱の時代が続きそうですが。


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