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映画『M3GAN/ミーガン』感想 AIをきちんと描くライトホラー

 これなら怖いのが苦手な方でも、安心して食べられますね。映画『M3GAN/ミーガン』感想です。

 玩具会社の開発者であるジェマ(アリソン・ウィリアムズ)は、子どもの友達且つ、教育者になれる人間のようなAI人形「M3GAN(ミーガン)」を開発している。そんな時、ジェマの姉夫婦が交通事故で亡くなった報せが入り、遺された姪のケイディ(バイオレット・マッグロウ)をジェマが引き取ることになる。仕事しかしてこなかったジェマには、哀しみに暮れるケイディへの接し方がわからなかったが、ケイディのためと一念発起し、ついに「ミーガン」の実働品を完成させる。ミーガンは、会話はもちろん、自立した学習機能も備え、ケイディはミーガンとの生活に夢中となり、その姿は上司のデヴィッド(ロニー・チェン)へのプレゼンにも効果絶大で、ミーガンの商品化は急ピッチで進み始める。ジェマはミーガンへ、あらゆる出来事からケイディを守るよう命令をしたが、その命令はミーガンを大きく暴走させていく…という物語。

 映画プロデューサーのジェイソン・ブラムと、『ソウ』『マリグナント』の映画監督としても知られるジェームス・ワンが共同製作をして、ジェラード・ジョンストーンが監督を手掛けたホラー作品。本国アメリカでは、「ミーガン」が不気味に踊る予告のシーンがTikTokでバズるなどして、新たなホラーアイコンとして迎えられているそうです。
 
 一応PG12という指定にはなっているものの、昨今のホラー作品の中ではかなりライトな部類になると思います。ホラーを初めて観る方にも観やすいつくりになっている作品です。グルメリポートで言うところの、「甘いものが苦手な人でも大丈夫」みたいなコメントが出てくる映画だと感じました。
 悪い意味ではなく、子供向けのホラー作品のような感じもするんですよね。ケイディがミーガンに夢中になるのが、次第に依存的になっていく姿は、スマホ・タブレット・ゲームにのめり込んで依存症となる姿に重ねているし、お気に入りの人形に襲われてしまうというのは、児童書小説や漫画のホラーでは定番中の定番ともいえるものです。
 
 そこに、昨今でも議論に上がっている「AI」を付け加えて現代風にしているのが、この作品の特徴ですね。AIやロボットが暴走して人間に牙を向けるという展開もSFでは定番のものですが、「ChatGPT」「生成AI」の出現により、それがフィクションではなく、よりリアルなものとして受け止められるようになった現状にマッチした作品だと思います。
 
 ただ、そのAIロボットの暴走までの描写が、しっかりと理論的な脚本で描かれているので、正直ホラー的なインパクトは薄くなっている気がしました。ミーガンがケイディを傷つけようとする人間に襲いかかるのは既定路線ですが、その理屈も、自己学習機能に任せっきりにしたという結果になっていて、結局のところ、この作品で起こった事件は「ヒューマンエラー」なんですよね。どんなに便利で性能の素晴らしい機械も、人間の使い方次第という至極真っ当なメッセージになっています。
 もちろん、皮肉的に込められたメッセージだとは思いますが、スリラー、ホラーとして描くなら、もっと原因不明の恐ろしさがプラスαで欲しいと思ってしまいました。
 
 ミーガンの可愛さ、恐ろしさがこの作品の売りではありますが、意外とちゃんとしたAIロボットの顔がほとんどで、はみ出すような怖さ、怖さの過剰で笑っちゃうようなところは少ないんですよね。はみ出すのは、予告映像にもある四つん這いダッシュと、動画でバズったダンスシーンですが、それだけとも言えます。もっとたくさん色々な顔が見たかったし、もっとはみ出した方が、恐怖と共に「このAI、どこでこんなこと学習してんだよ」とツッコミながら楽しめたと思うんですよね。
 
 公開前にあらすじを知ったとき、一番初めに連想したのが楳図かずおの短編漫画である『ねがい』という作品だったんですよね。人形だけが友達だった男の子が、現実の友達が出来たことで、人形と遊ばなくなり、その人形に襲われるという物語で、恐怖と共に、その人形の哀しさも描かれている傑作短編です。
 今作にも、その要素を勝手に期待してしまっていたんですけど、ケイディのミーガンへのスタンスは、この『ねがい』ほどはウェットでは無かったんですよね。本当の友達というよりは、やっぱりお気に入りの人形という存在であり、依存的にはなるけれども、それはあくまでゲームやスマホの道具への依存に近い感じがします。きちんと現代を描いているといえばそうなんですけど、決別のシーンも、もっと何か感情的な描かれ方があってもいいのにと残念な気持ちもありました。
 
 ミーガンにホラーアイコンとしてのキャラクターを求めるなら、もっと感情を学習して、性格の個性が出てくるところまで描くのもありだったと思いますが、リアリティをしっかりさせ過ぎているように思えます。その割には、意味もなくダンスさせたり、サングラス取る仕草をさせてみたりと、何というか中途半端なんですよね。もっとミーガンというキャラで遊ばせても良かったのではと感じてしまいました。
 ただ、続編も製作決まっているようなので、キャラとしての遊びは今後に残してあるのかもしれません。


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