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【CALメンバー紹介】官能小説家、紫月ルイカの魔性の世界

♦︎作家としての紫月ルイカを知るために


令和時代の新しい文学
を発信する文芸グループCAL(Classic Anthology Library)は2022年に結成され、皆様の熱い御支援のおかげで2024年で2周年を迎えました。
この度、「吸血鬼」をテーマにした第4回配本となるアンソロジー小説をデザインエッグ社より今秋発売予定です。
今回は出版記念といたしまして、第4回企画にご参加くださった寄稿者様の中から、官能小説家の紫月ルイカ様について御紹介させていただきます。

紫月様は『特選小説』(2023年7月号)に「獣たちの淫らな羽」が掲載され、「サンスポ性ノンフィクション大賞」にも入選されるなど、性愛をテーマにした小説ですでに人気を集めている作家です。
今回のCALの吸血鬼企画には幻想性とエロティシズムが混然一体となったような作品が多く、紫月様の存在はCALにとって必要不可欠な存在でした。
本特集記事ではそんな紫月様へのインタビューを踏まえて、作品の魅力に迫りたいと思います。

♦小説を書き始めたきっかけ


紫月様は子どもの頃から本を読むことが好きで、小説に何度も救われる経験をされました。
成長するにつれ、普段の日常生活では表現できない「ドロドロした官能的な感情」「辛いこと、苦しいこと」を文学によって表現できる楽しさに気付いたそうです。
イメージしたこと、現実にはできないことを文章にして、現代社会の閉塞感を打破できるような何かを読者様と共有できればと考えるようになっていかれました。
編集長も強く共感したのは、「限りある人生で何か残しておきたい」という紫月様の強い使命感です。
現代のSNS社会において自分の文化的なDNAを残す方法は非常に多くありますが、その中で今、あえて「小説」という長い歴史を持つ古典的なジャンルを追求されている点は率直に素晴らしいと感じました。

紫月ルイカ
作家
Classic Anthology Libraryメンバー
©RUIKA SHIZUKI 2024

♦︎紫月ルイカにとってエロティシズムとは何か?


この普遍的な問題について紫月様にインタビューしてみたところ、エロティシズムは彼女にとって「未来に希望を持てるもの」なのだと言います。
「生き辛い現実から逃れて、生きていてよかったと思えるもの」――そこに官能小説が描き出す性愛の普遍性があるのだと。
これは性を禁忌として抑圧するのではなく、生命サイクルの一環としてニュートラルに捉える上で重要な考え方だと思います。
筆者が紫月様の考え方に触れて想起したのは、フランス革命前に流行していた「リベルタン文学」でした。
伝統的なキリスト教の道徳的観念が支配的だった18世紀のフランスでは、性を抑圧し続けてきた結果、官能小説が密かに人気を博すという現象が見られました。
リベルタン文学はクレビヨン・フィスの『ソファ』、ディドロの『不謹慎な宝石たち』などに始まり、聖職者の秘められた欲望を描いた『カルトゥジオ会修道院の門番であるドン・B***の物語』など、エロティシズムをテーマにした小説を指しています。
その頂点に君臨するのがサドの『閨房哲学』ですが、この物語の中で放蕩児ドルマンセは、あらゆる性的逸脱はすでに自然界に存在しており、恐ろしいものは何一つ存在しないと語っています。
これは紫月様が筆者に御伝え下さった、エロティシズムは「新しい自分や未知の発見」にもつながり、人生の幅を広げてくれるものだという肯定的な考え方とも通底すると思います。
極端に何かを抑圧すると、フロイトが述べたように「抑圧されたものの回帰」が他の何かによって代替的に形成されてしまうので、すべてを自然の中に初めから存在していたものとして、過剰なバイアスを加えずに捉えておいた方が良いということなのかもしれません。

紫月ルイカ
作家
Classic Anthology Libraryメンバー
©RUIKA SHIZUKI 2024

♦︎紫月ルイカの描く吸血鬼小説「密愛ノイローゼ」の魅力


紫月様にお気に入りの作家についてお聞きしたところ、金原ひとみ、嶽本野ばら、水無月詩歌という三名の作家様を挙げてくださいました。
金原ひとみについては、筆者も十代後半の頃に『蛇にピアス』、『アッシュベイビー』、『オートフィクション』などを発売後すぐに購入するほど熱心に読んだ記憶がございます。
その後、金原ひとみがバタイユの哲学について語っているのを知り、やはりあの強烈な文学世界の背景には哲学があったのだなと再認識しました。
紫月様による、今回の吸血企画のための御寄稿作「密愛ノイローゼ」にも、やはり性を媒介にした唯一無比のメッセージ性を感じます。
詳細については本編に譲らせていただきますが、ここではその魅力の一端について御紹介しておこうと思います。

この物語の大きなテーマとして浮かび上がっているのが、リベルタン文学においても重要な問題系の一つを構成していた「マゾヒズム」です。
ヒロインの女性は、身動きが取れないような苦しさを与えられる状況下において、同時にその苦しさを与える存在に深い愛情を寄せてもいます。
「密愛」とはその愛すべき対象に限りなく密着していることであり、またそれによってストレスを与えられていること、つまり「ノイローゼ」になるような負荷を与えられているということを意味しています。
重要なのは、この状況が誰もが共感する普遍的な問題として提示されている点です。
人はストレス過多な状況に置かれている時、往々にして日常に何らかの「出口」を探し求めるものですが、「密愛ノイローゼ」にもやはりその出口が描かれています。
興味深いことに、その出口の先で彼女を待ち受けているのは、現実よりもさらに恐ろしく、またそれに比例してさらに大きな快楽をもたらす禁断の世界となっています。
どこに逃れようとしても、苦しさと快感が同時に押し寄せてくる刺激的な物語です。
一方で、そんな日常に対して紫月様による冷静な省察が加えられているところに、古典的なリベルタン文学にも通じる紫月様の文学の魅力があると感じています。

今回の特集記事では、主に「吸血鬼企画」に御寄稿くださった作品「密愛ノイローゼ」を中心にして紫月ルイカ様の魅力を御紹介させていただきました。
紫月様の最新の御活動は、彼女のXアカウントでも日々更新されていますので、ぜひともフォローと御支援をよろしくお願いいたします。
CALの最新情報はCAL公式アカウントでも随時発表していきますので、どうぞご期待下さい。

※本記事に掲載させていただいた御写真は、すべて御本人様の使用許可を得た上で掲載させていただいております。








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