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今の生活を楽しむために揃えるもの

昔からインテリアは好きで、いつも洗練された雑誌やインスタ、ブログなどを眺めてはワクワクしている。

ひとり暮らしをはじめたのは大学のころ。
小さなアパートだったし経済的な余裕もないので、憧れるような家具を買うことはできなかったが、小物だけは好きなものを集めていたように思う。

でも、どうせ引っ越すのだからと家具の類をきちんとそろえることはなかった。
最低限のベッドや実家から持ってきたデスク、小さなテーブルはあったけれど、衣服を入れる場所は確か無印良品が当時扱っていた段ボールでできた衣装ケースだったと記憶している。
昔はミニマリスト的発想から程遠かったので、それはやがて服でパンパンになり、耐久性がないために形状が歪んでひどいことになっていた。何とも貧相だ。

それから10年近く経ちジンバブエに赴任した。
二年間を過ごしたタウンハウスは、たまたまアフリカンアメリカンとタイ人の夫婦の所有する物件だった。特に奥さんはインテリアにこだわりがあったようで、家具からカーテンまでおしゃれにまとめていてきれいな家だった。(向こうではたいていの家が家具家電付きで貸し出される)

ただ、残念なことにわたしの趣味とは程遠いインテリアだったのだ。

わたしは、明るく光が通るナチュラル素材のシンプルなカーテンが好きだけれど、その部屋には派手な黄色の模様が鈍く光るどっぷりした重厚なドレープのカーテンが釣り下がり、わたしが好きではないベロア素材のソファに、分厚いテーブルクロスが作り付けになったテーブルに…。とにかく存在感のある強いインテリアの趣味が、シンプルナチュラル好みのわたしの趣味とはまるで違ったのだ。
なのに、インテリアが好きな自分は、何故か毎日溜息をつきながら好きではないインテリアの中で暮らしていた。

それからさらに年月が経ち、仕事を通じて知り合ったある方のお家に遊びに行く機会があった。
国際協力業界では、二年ないし三年のスパンで途上国を渡り歩く生活になることが多く、必然的に引っ越しの機会は多い。
しかし、彼女が家族を連れて暮らすアフリカ某国の家は、おしゃれな家具に囲まれてとても居心地が良かった。聴けば、それらの家具はオーダーメイドやセミオーダーだそう。

彼女も、アフリカ諸国に何か国か赴任していたが、なんと赴任先の国でわざわざお気に入りの家具職人を探して、気に入った家具を作ってもらうそうだ。

多くのひとはきっと、どうせ二年か三年もすれば引っ越すのにと考えがちだと思うが、日本から遠いアフリカの国でも、短いあいだでも、本当に気に入ったものを使って暮らすためにそこまでするのか!と目から鱗が大バーゲンだった。

そしてようやく気付いた。

わたしも人一倍好きな家具やインテリアがあるのに、どうして今まで全くそれを生活に取り入れようとせず、好きでもないものに囲まれて暮らしていたのだろう。

どうせ引っ越しするから?
そんなものいつになるかわからないし、引っ越すことになったらどうするか決めればよいではないか。
自分の限られた人生の時間、今の生活を楽しむために好きな家具を買えばいいでしょう?

この考え方に行きつくまでに長い年月を要してしまったが、帰国したわたしは、東京で借りていた小さな部屋に入る範囲で素敵な家具を探し始めた。
さすがに日本では家具職人を見つけてオーダーして作ってもらうというのは少しハードルが高そうだが、ネットで気に入った家具店を見つけ、セミオーダーでサイズを変えてもらって注文した。

福岡にあるそのお店から購入したものは、テレビ台(テレビを長年持っていないのに?とは突っ込まないでほしい)、キャビネット、そして念願のソファだ。

どれもとても気に入って、もうかれこれ10年以上は愛用している。

実は昨日、そのキャビネットをお友だちに引き取ってもらった。
とても気に入って大切に使ってきたけれど、手に入れてから12年と少し。
状況が変わり手放すときが来たと思えたので。

引き取ってくれたお友だちやその家族は喜んでくれたようで、そのことだけでもわたしが自分の人生を楽しむために好きなものをそろえた価値はあるというものだ。

家具ひとつでこれほど幸せになるのだったら、やはり妥協はしたくない。
自分が愛し、一緒に暮らすことのできる家具は、すなわち自分の人生を一緒に過ごす静かなパートナーでもあるのだから。

いつの日か、アフリカの好きな国に家を持ち、お気に入りの家具職人を探してすてきなダイニングセットをつくってもらうというのが、わたしの密かな夢である。

エッセイ100本プロジェクト(2023年9月start)
【12/100本】

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