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『クチナシの花』

こんなに不快感満載の小説になる予定はなかった。
こんなに登場人物だれ一人として好きになれない小説ある?
オススメしません(笑)


「ねえ、あなたの書く小説って、どうして毎回母親が亡くなるの?」
「別に。深い意味はないよ」
「いーや、絶対意味があるはずよ。なに、お母さんのこと嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ。なんでそうなるの」
「だって~。たまに母と子のやり取りが出てきても、ぜーんぶ男の子。母と娘のやり取りって出てこないじゃなーい」
「たまたまでしょ」
「さっきから何よ~。そっけない返事ばっかり。お母さんと話したくないわけ~?」
「もうなんでそうなるの。そっちこそなに? 正直うざいよ、それ」
「うざいって、母親に向かってなんて口利くのよ。やっぱり嫌いなんだ」
「嫌いじゃないって言ってんじゃんッ!」
「怒鳴らなくてもいいでしょう?」
「しつこいからじゃん」
「でも、絶対何か意味があると思うのよね。ないって言い張るのは、考えることを放棄しているだけよ」
「そう考えるのは勝手だけど、それをこっちに押し付けないでよ」
「『考えるのは勝手』ってことは、図星ってことね」
「はあ?」
「ほらそれ、図星の時の反応!」
「うざっ」
「まーたすぐそういうこと言う~。若いってやーねえ」
「…………」
「……あんた、そのトラウマ乗り越えないと、一人前の小説家になんてなれないわよ」
「トラウマって何?」
「それは自分で気付かないと意味がないわよ~」
「いや、気付くも何も、トラウマを抱えてる自覚すらないんだけど?」
「それは見て見ぬフリしてるだけね」
「あっそう、どうでもいいわ」
「ほらまら! 見て見ぬフリ!」
「いや、見て見ぬフリじゃないでしょ、見えてないから何も」
「見ようとしないからでしょ~」
「別に見る必要性を感じないし」
「あんた、それ相当ヤバいわよ」
「ヤバいってなに?」
「まあ、そのうちわかる日がくるわよ」
「わかるも何もそもそもなんの話かわかんないから、わかる日なんてこないよ」
「それも含めて、ああこのことかってわかる日がくるのよ」
「いや、わかんないから教えてよ」
「今はわかんない時なのよ」
「あっそう、どうでもいいわ」
「ヤバいヤバい」
「ねえ、それやめて。フツーにイライラするんだけど」
「イライラするのは図星だからよ」
「いや、意味がわからん」
「あ、ほら、また考えるの放棄した。あんたは自分が傷付かないようにって深く物事を考えないように予防線張る癖があんのよ」
「まあ、そういうところはあるかもね。でもそれの何が悪いの?」
「物事の本質が見えないわよ。そうやって、人の言葉を自分事として考えないで、そういう人もいるんだね~って受け流すでしょ」
「そういう人もいるんだねって考え方はするよ。でもすべてを自分の事として考えないわけじゃないよ」
「あんたの聞きたいことだけ聞いてたら、あんたの価値観が狭いままだって言ってんのよ。あんたが悪いことだと思っていることが本当は悪いことじゃないかもしれないのに、それにずっと気付けない」
「私が良いと思ってなかったことを、良いって、悪いことじゃないって、言ってくれる人だって周りにいるよ。そういう人の声はちゃんと聞いてる」
「ふーん?」
「なに? 何が言いたいの? さっきから全部抽象的すぎて、全然入ってこないんだよ。『トラウマ』とか『ヤバい』とか『本質』とか『価値観』とか、何が言いたいのか全然伝わってきてないよ? ただただ不快な思いをさせられてるだけ!」
「不快なのは図星だからよ」
「はあ~それも。『図星』も抽象的。何がどう図星なのか説明がない。説明する気がないじゃん」
「そうやって突っぱねるから人の話を聞けないって言ってるの」
「あーはいはい」
「ほら、それ」
「じゃあ言わせてもらうけど、聞けないのはお母さんの言葉だけだから! 他の人の言葉はちゃんと聞いてます」
「それはどうかな~」
「もういいよ、お母さんがお酒入ったら毎回こうなるの忘れてた」
「全然酔っぱらってませんから」
「酔ってるかどうか関係ないから。こういう飲みの場でこういうことになりやすいってこと」
「まあそれはあるかもね」
「それを忘れて私も腹立つからって意固地に言い返したのはごめんね?」
「思ってもいないごめんねとか言わないでくれる?」
「いや、もうなんなの!? 本当に思ってるのに、そういうふうに言われたらもう何言っても意味ないじゃん!」
「じゃあお母さんはもう何も言うなってことね? お母さんはただあんたに幸せになってほしいだけなのに」
「別に何も言うなとは言ってないじゃん。ただ、お互い性格が似てるし、意固地になってるから、これ以上話しても平行線だよ。不快にさせ合ってるだけ」
「不快にさせ合ってるとは思ってないけど」
「そうですか。私は不快だけどね! 私の幸せを考えてくれてるのは解るよ。でも抽象的なことばかり言って何一つ具体的に言ってくれないから、私がまだまだ若くて何も解ってない子供だからって、ただただ上から圧を掛けられているようにしか感じないの! まあ母と娘、女同士の親娘関係って独特だから仕方ないよ」
「子どもも持ったことないくせに解ったこと言うな」


 その言葉が衝撃的すぎて、それ以降、母の声は聞こえなくなった。
 普段の母なら言わないだろう言葉。
 親娘関係の独特さは、娘の立場でもわかるよ。書物とか映画とか幾らでも勉強できるツールはあるし、というか、娘の立場のほうが実感して解っていたりするよ。あなたも娘だったのにもう忘れちゃった?
 あなたたち親娘を見ていると、このままだと自分もあなたとこういう親娘関係になってしまう将来が訪れるだろうなっていつも思っていたの。おばあちゃんもお母さんも頑固だし、私もその血を引いて頑固だから。
 まあ、そんなことどうでもいいよね。
 とりあえず、それ、立派な子なしハラスメントだから、その言葉だけは反省してよ、お母さん。フツーに傷付くよ。

 お酒が入っていて何言ったか覚えてなかったりする? 私はぜんぶ覚えてるよ、嫌ってくらい反芻するよ。ほかに何も手に付かないくらい思い出しては苦い思いをするよ。お望み通りですか?
 でも私お母さんのことよく知ってるから、覚えてさえいれば、最後のあの言葉をいちばん後悔しているのはお母さんだよね。
 だからまだそこにいるの?

「幸せになってほしい」ってあなたは言ったけれど、私が今不幸だとでも思ったの? それは心外だな。
 大丈夫だよ、安心してよ。
 私は、とても幸せです。
 だから、もう安心して成仏してよ。

 私は、飲み干したビールの空き缶に水を溜めて、クチナシの花を供えた。




(2,612文字)


#ズボラ完璧主義者aeuの100日間の挑戦
#day062

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