アリさんとキリギリス

物語創作に役立つ書評:「アリさんとキリギリス」

ご覧いただきありがとうございます。この書評は以下のnoteで示したフォーマットで書かれています。詳しく知りたい方は是非、参考にしていただけると幸いです。

物語創作に必要な3つの要素(コンセプト・人物・テーマ)を「アリさんとキリギリス」から抜き出します。

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コンセプト→(ストーリーの土台となるアイデア。「もし~だとしたら?(what if ?)」という問いで表すとはっきりわかる。)


もし、人間を「アリとキリギリス」に例えたら?

イソップ寓話「アリとキリギリス」のあらすじはこのようなものだ。

夏の期間中、アリたちは冬の食料を蓄えるためにせっせと働き続けました。
一方、キリギリスはヴァイオリンを弾いたり歌を歌ったりして過ごしました。そして冬が来て、キリギリスは食べ物を探しましたが、見つかりませんでした。キリギリスはアリたちに食べ物を分けてもらおうとしましたが、「夏には歌っていたんだから、冬には踊ればいいんじゃないですか?」と拒否され、飢え死んでしまいました。

本書ではアリとキリギリスを擬人化し、人間特有の思考やそのベースとなる価値観の対立構造を当てはめています。キリギリス的人間は自由を重視し、アリ的人間は規律を重視するいった具合に。
イソップ版は「どちらが善か悪か」が主眼である一方、本書は両者の「違いを明確にする」だけで、善悪は安易に判断できない。というのがポイントです。

正反対の思考回路を持つ、アリとキリギリスの代表的な価値観は以下のように紹介されています。

アリ:貯めることが価値、物事を二つに分けて明確に線引き、問題解決型、etc…
キリギリス:使うことが価値、物事を上から俯瞰する、問題発見型、etc…

価値観が異なれば、日々の行動が変わってきます。いままでの時代はアリ的な行動が評価されていましたが、近年、今まで悪い見本とされてきたキリギリス的な行動が改めて注目されているように思います。

本書では、アリ的人間と、キリギリス的人間の違いを豊富な具体例を用いて説明しています。自分自身の日々の行動や、価値観、考え方がキリギリスに近いのかアリに近いのか、確かめながら読み進めていくと、楽しめます。自分人間の知性のあり方に対する観察と考察が述べられていて勉強になりました。

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人物の世界観→(人の世界観は社会の価値観や政治、好み、信条などに培われ、その人の態度や習慣に表れる。)


「銀座で山を買おう」

本書では、一九八四年の吉幾三さんの大ヒット曲、『俺ら東京さ行ぐだ』が取り上げられています。「テレビもラジオもなかった」少年時代の故郷を自虐的に表現した曲の中で、「銭コア貯めで銀座に山買うだ」という歌詞があります。

ピアノもギターもカラオケもない田舎で育った人間が思いつく、都会で買いたいものは「山」。
山を買えることが価値だと考えられている世界で育った人間は、他の価値観を持った世界でも山を買うことに価値を見出してしまう。

ほかにもやってみたいことは、ベコ(牛)を買ったり、馬車を引いたり…..人間は自信が思うようより周囲の価値観に振り回されてしまうようです。

また、自分がアリ的人間に近ければ、「アリのように生きることが人生!」という世界観となり、自分がキリギリス的人間に近ければ「キリギリスのように生きることが人生!」という世界観になるのではないでしょうか。

本書では「銀座で山を買おう」としてしまう歌詞から、世界観の違う世界がいくつも存在していること、人物はそれぞれ異なる価値観をもっていることに、気づくのが難しいということを読み取っています。

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人物のアーク→(ストーリーの中で体験する学びや成長。自分にとって最も厄介な問題をいかに克服するか。)


アリとキリギリスは対立を避けて補完し合う関係になれる

自己主張が激しく個人主義で集団の秩序は気にしないキリギリスは、「組織の論理」や「多数派の論理」の思考回路を持つアリにとって疎ましい存在になってしまう。
基本的に組織での生活には向いていないキリギリスはアリたちと対立してしまいます。

本書では「自分にない次元(価値観)があることを常に意識しているか」がアリとキリギリスの違いだと述べられています。コミュニケーションにおいて、自分と異なる価値観をいきなり否定してかかり「相手がおかしい」と感じるアリと、「何か自分が理解できないことがあるようだ」という気づきにつなげるキリギリスが対立するのは当然かもしれません。

しかし、アリとキリギリス、互いの違いを認識したうえで上手に役割分担さえできれば、両者の長所を生かしながら共存していくことが可能となる。組織や仕組みなど、―つの「系」の川上部分を立ち上げるのがキリギリスのミッション、その後軌道に乗ってからその仕組みを動かすのがアリのミッションという形で分けることで互いの特性を生かすことができます。

本書では、アリの得意なこと、キリギリスの得意なことを把握すること、お互いがお互いの理解を深めることの重要性をわかりやすく学ぶことができます。

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人物の内面の悪魔との葛藤→(心のネガティブな側面。認識や思考、選択、行動を左右する。「知らない人と話すのが怖い」といった欠点は内面の悪魔の影響で表れる。)


相手の価値観を理解せずに自分の価値観で善悪を判断してしまう。

人間は基本的に、おせっかいな生き物なのかもしれません。
なんとなく、自分のほうが経験があると思ったり年下だから…..といった理由からアドバイスしたくなる時があるかもしれません。

筆者は、人間の善悪判断における、内面の悪魔を以下のように表現しています。

人が「あるべき論」や善悪を語るときには、知らないうちに自分が育った環境や経験から生まれた価値観を引きずり、それが唯一絶対のものだと思いがちです。したがって、他人が第三者として当事者に「物申す」ことがいかに無責任かつ無知や偏見に基づいたものか、それに気づくのは非常に難しいのです。そこではろくに事実もつかんでいないことに加えて「そもそもの前提となる価値観」すら見当外れになっておりそれに気づいてもいない可能性が高いのです。

あとから、偏った見方をしてしまっていたことにも気づけないかもしれない…..。
人間の思考の癖という悪魔は、姿を見せずに悪さをしているのかもしれません。

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テーマ→(簡単に言えば、テーマとは「ストーリーが意味すること」だ。世の中や人生との関わりだ。)


アリとキリギリスの違いは、前提となる価値観の違いのみである

価値観の違いを理解することで対立することなく、アリとキリギリスはコミュニケーションが取れる。
一人の人間の中にも、アリ的価値観とキリギリス的価値観は共存し、しかも価値観はグラデ―ション的に分布していて、アリ的価値観、キリギリス的価値観で2分割できない….

人間は往々にして、部分を全体だと思い込んでしまったり、自分で勝手な前提を置いてしまったり…..
人間の知性は厄介な特性を持ち、それが原因で対立が起きている。

本書では、自分を見つめなおす機会をアリとキリギリスから得ることができる。面白い体験をくれる本です。

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本書は以下の本です。



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