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インターネットの世界

画面の向こう側に映る、毎週末のように遊んだ友人達。スピーカーから流れるライブで見ていたアーティストの配信。PCの画面を閉じればただ孤独で空虚な空間だけが残る。飲み会でひとしきり遊んだ後よりもずっと寂しくて虚無感に襲われるのは何故だろう。

自分は平成に生まれ、平成を生きてきた。幼稚園の頃、叔父の折りたためないガラケーを見て興奮した。ケーブルがないのに電話が出来る。この小さなボタンで電話番号が打てる。数字もよくわかってない私はそれをただただいじくって遊んでいた。それから小学3年生の時にDSを手にした。タッチペンで入力出来る事が楽しくて仕方がない。どうぶつの森で、タッチペンで作ったTシャツを並べる。ボタンを入力する以外に文字や画像を入力する方法があるなんて、と驚いた記憶が強い。小学5年生の頃、兄と共有のノートパソコンを渡された。辞書を引いて調べていた事を一言入力すれば様々な結果が出てくる。地図を検索すれば世界のどこへでも行ける。SNSに登録し、見知らぬ誰かとインターネット上でやり取りを交わす。不思議で新鮮で面白かった。2ch、ニコニコ動画、YouTube、アメーバピグ、Twitter。学校で友人が少なかった私はインターネットの世界にあっという間に馴染んでいった。PCを開く事が当たり前になっていた。
中学2年生の3月11日、自宅でアメーバピグをしている時に不思議な地震が起きた。友人と「変な地震だね」と話していたら、「テレビ見て、大変な事になってる」と言われテレビを付けたら人が津波に流されている光景が映っていた。アメーバピグではかなりの数の人と友人になっていたが、その頃仲良かった福島県の女の子はそれ以降一切ログインをしなくなった。今も、彼女が何をしているのか、本名も分からず、生きているのかさえ知らない。それからアメーバピグを退会した。それがキッカケかは分からない。単純にブームが過ぎたからだったような気もする。
いつからかインターネットで知り合った人と現実でも会うようになった。二度と会う事はないだろう福島県の女の子がずっと頭の中に居て、ブロックしてしまえば、退会してしまえば、通信が途切れてしまえば、終わってしまう関係性が嫌だった。本当は、現実もインターネットも簡単に関係性を切れてしまう事を、仲の良い期間というのは一過性のもので過ぎ去ってしまえば簡単に忘れられてしまう事を、当時の私が大切にしたい人が何処にも居ない事を、知っていたけれど。
スマートフォンが普及し、手放さない日は無くなった。インターネットと現実はいつからか境目がなくなり、そこに存在する事が当たり前の日常に変わった。平成という時代において、IT革命は切り離せない。そしてその革命の上に私達は生きている。たまには全てのデジタル機器を捨てて鬼ごっことかしたい。1年前の私は、そんな事を言ってたと思う。

令和に変わり、オリンピックを控えていたはずの2020年になってから4ヶ月経つ。

会いたい人と会える事が当たり前ではなくなった。会える場所が存在する事が当たり前ではなくなった。阪神淡路大震災も同時多発テロも東日本大震災もあった時代に生きてきた。それでも、私は私が選択を迫られて責任を持たなければいけない環境下の中で、会いたい人に「会えない」社会を、応援したい人を応援する事を「選択」しなければならない社会を、混乱する社会により崩壊していく経済の中で一番最初に切り捨てられるものが愛している「文化」である事を、知らなかった。
批判ばかりする人々を避けた。自分が望む形ではない政策を行う母国を嫌った。何よりも、力がなく知識のない自分を恨んだ。

かつて東日本大震災の時に、二度とログインしなくなったアカウントを見て空虚を味わった事は忘れられない。インターネットという場所がどれほど簡単に日常と切り離せてしまう場所で、現実とは異なり人生の延長線上に立つことも出来ず、他者の生きてきたその後の世界を知る事は容易ではない。便利になっていく世の中が不便だと感じていた。けれど今、インターネットがある世界に救われている。社会について早急に情報を得る事ができる。会いたい人々に会えない分画面越しに会話が出来る。なくしたくない文化や場所をボタン一つで守る事が出来る。自己嫌悪を未来に繋げていこう、そう思えたのだった。

インターネットは 君に愛を伝えるために生まれた
ミッドナイトタイムライン/Have A Nice Day

平成を生きて良かった。孤独ではないと感じられる時間があるだけでも大きく違う。景気が良い頃を知らない時代を生きてきたが、その時代を誇りに思えた。


いつか、令和という時代を誇らしげに話せる日が来ますように。
その時はスマホを置いて、みんなで鬼ごっこしよう。


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