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「ブラック・フォン」今時こんなに潔くネタバレしてるキャッチコピーあるか?

どうも、安部スナヲです。

夏と言えばホラー。なんて言うと何だか、いかりや長介がドリフのコント前に言う台詞みたいですが、今回は殺人的酷暑のさなか、気になるホラー映画が公開されたので、同じ殺されるなら映画の中でと思い、涼みがてら観て来ました。

【ひとり、またひとり】

映画の舞台は1978年の米コロラド州デンバー。

とある地域では少年の失踪事件が多発していました。

主人公フィニー(メイソン・テムズ)はそんな町で、アル中&DVの父テレンス(ジェレミー・デイヴィス)と、気丈でお兄ちゃんおもいの妹グウェン(マデリーン・マックグロウ)と暮らしています。

あまりガラのよろしくない地域らしく、フィニーが通う学校の子供達も荒くれ者が多い。

どちらかというと気が優しくておとなしい彼は、そんな荒くれ同級生らに殴られたり、からかわれたりしています。

一方、彼の味方になってくれるお友達もいます。

野球の名打者であり、女の子にモテモテのブルース・ヤマダ(トリスタン・プラボン)は、フィニーの投手としての実力を買っています。

校内でいちばん喧嘩が強いロビン(ミゲル・カザレス・モラ)は、フィニーが寄ってたかってイジメられそうになると助けてくれて、励ましの言葉をかけてくれます。

ところが、そんないいヤツらに限って彼の前から姿を消します。

ブルース、ロビン、2人は少年失踪事件の新たな被害者になってしまいました。

抑止力であってくれたロビンがいなくなったことで、イジメっ子たちのフィニーへの攻撃は加速します。

そんなフィニーの最強の味方はなんと言っても妹のグウェン。

彼女、本当に強いんです。

フィニーがボコられている現場に駆けつけて相手の頭を石で殴るわ(殺す気か!)反撃にあってもめげません。

さながらじゃりん子チエのようなグウェンですが、彼女はどうやら予知夢を見る力があるらしく、それが失踪した少年たちの朧げな手がかりになります。

そうこうしているうちに、とうとうフィニーにも「その時」が訪れます。

一連の失踪事件はコイツの仕業だと噂されているインチキマジシャン風殺人鬼グラバー(イーサン・ホーク)

ヤツに遭遇したフィニーは、黒いバンに押し込まれてそのまま拉致。地下室に監禁されてしまいます。あちゃー。

【ハートウォーミング系ホラー?】

さて、ここから主題となる「黒電話」について触れます。

フィニーが監禁された地下室。その冷たいコンクリートに囲まれた密室には壁にポツンとダイヤル式の黒電話が掛かっています。

断線していて通信不能である筈のこの電話が何故か鳴るのです。

恐る恐る電話に出てみると、受話器の向こうからフィニーに話しかけるのは…

一応ネタバレに配慮し、このあたりで寸止めにしますが、この映画の場合、予告編を見るとある程度想像がついてしまうのと、そもそもキャッチコピーで「密室に鳴り響く、『死者からの電話』」と言ってしまってます。これ如何に!

ともあれ、この映画が一筋縄でいかないのはここからで、実はホラーを装ったええハナシなんです。

そんな映画はいくらでもあるといえばありますが、この映画はより多層的なのが面白いんです。

例えば往年のスティーヴン・キング作品(特に「イット」がいちばん近いかも)に通底する背筋がゾワァーっとする怖さレベルを保ちながら「ミザリー」「ショーシャンクの空」みたいな監禁・脱獄サバイバルのハラハラ感もあり、全体としては「スタンド・バイ・ミー」的なジュブナイル特有の繊細さや甘酸っぱさに覆われています。

そして物語が進むに連れ、何だか勇気づけられたり、ジワジワとハートウォーミングになり、気がついたら泣かされています。

こうやって照らし合わせると、あらためてめっちゃスティーヴン・キングだなと感じました。

あ、ところで知ってますよね?
スティーヴン・キング。

【子供の打たれ強さを描く】

監督のスコット・デリクソンは2005年に発表された短編集「20世紀の幽霊たち」に収録されているジョー・ヒルという作家の「黒電話」を読んだ時から、映画化を考えていたといいます。

今さらシラこいですが、その作家があのモダンホラーの巨匠スティーヴン・キングの実子であることは、あとから知ります。

デリクソンはその小説に、自身が子供時代を過ごした、70年代半ばのデンバーの状況を重ね合わせ、脚本のC・ロバート・カーギルとともに物語を膨らませました。

当時のデンバーは、イジメや暴力に対する統制や秩序が希薄で、連続殺人事件も多発していたといいます。

デリクソン自身、そんな物騒な環境下、色んな恐怖やトラウマに苦しみながら、子供時代を過ごしたようです。

パンフレットの記事で彼はこう語っています。

「子供時代につきものの心の傷だけでなく、子供に備わってる回復力も描いてる。そんな作品を作ってみたかったが、その感覚を体現してくれるような物語を見つけられなかったんだ。『黒電話』に出合うまではね」

フィニーとグウェンをはじめ、この映画に登場する子供たちも、常にどこか忌々しい環境に怯えながらも、とても打たれ強く生きていて、そこにグッと来ます。

そしてその打たれ強さを象徴する、生々しく痛々しい喧嘩や折檻のシーンも見どころのひとつです。

デリクソンは、それら暴力描写に関しても自身が子供時代に経験した粗暴さを再現するべく、スタント・コーディネーターに「禁じ手なしの悪質さが欲しい」と伝えたそうです。

まあ、こんな恐ろしい指示を出してるのを聞いた子役たちにとっては、デリクソンこそがグラバーみたいなもんでしょうがね。怖すぎるやろ。

【ホラーの醍醐味】

この映画の制作会社「ブラムハウス・プロダクションズ」は、低予算で優れたホラー映画を作る会社として、今や映画界において重要なポジションにあります。

最近の代表作をあげてみてもジョーダン・ピールの「ゲット・アウト(2017)」「アス(2019)」リー・ワネルの「透明人間(2020)」と傑作ぞろい。どれも尋常じゃない「コワ面白さ」です。

監督や制作陣はちがっていても、どの映画も主にカメラワークとデカい音で怖がらせる、所謂「ジャンプスケア」が秀逸です。

例えば何か不気味な気配を感じてその気配の方を映す、でもそこには何もない。だけどやっぱり何かあるような気がしてもう一度そこを映すと、オバケがドーン!キャー!ビックリしたぁーΣ(゚д゚lll)みたいな。

ジャンプスケアはビックリポイントまでの「来るか?来るか?」という溜めが重要なのですが、前述した作品をはじめとするブラムハウス映画の多くは、どれも空間の見せ方とか、パンのスピードやカットインのタイミング、そういう基本的なカメラワークを細かく加減する事で絶妙な緊張感を作り出しています。

あとは特殊メイクや小道具など、予算はかけないが物理的な工夫をコツコツ積み重ねることで、怖さを演出しています。

「ブラック・フォン」もそういった王道的なホラー手法で何度もドキッとさせられながらも、ストーリー展開はハートウォーミングなので、ホッコリもさせられます。

よくホラー映画では「心臓の弱い方はご遠慮ください」という注意書きを見ますが、この映画の場合は「ドキッ」と「ホッコリ」のバランスによって心臓にサウナと水風呂のような効果を齎し、逆に自律神経の乱れなどを改善してくれるかも知れません。そんなワケあるかぁ。ダメだこりゃ。

出典:

映画「ブラック・フォン」公式サイト

映画「ブラック・フォン」公式劇場パンフレット

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ブラック・フォン : 作品情報 - 映画.com

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