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イギリス広告規制ルールー日本との違い解説



改善に繋がらない広告の炎上


日本ではTwitter上での広告の炎上が話題になることが多いですね。

公共広告で萌え絵が使われていたり、
女性の表象や男女の対比表現があったり。


度々広告のジェンダー表現が物議を醸してSNSで炎上する日本の状況とは反対に、イギリスでは、広告が炎上することは少ないです。
広告炎上が少ないだけではなく、炎上後の対応に失敗して企業イメージが悪くなることも少ないです。


https://twitter.com/EnjoCheck/status/1712041198448148550?s=20

イギリスで広告の炎上対策がしっかりしている理由について
広告規制ルールとその作られ方、監査機関の存在と役割、市民の役割に焦点を当てて説明します。

①広告規制機関

イギリスの広告審査機関の役割

広告監査機関(JARO)があり、市民からの苦情を受け付け、
内容、表現、広告の影響、掲載先の媒体の適正など、広告とその影響の良し悪しを審査します。
悪いと判断されれば、広告主に広告撤去を命じます。

基本的にはこの機関の権力の強さが、広告規制に一役買っています。

日本の広告審査機関

日本でも、JARO(広告審査機関)が存在し、苦情の受付と審査を行いますが、
審査対象は価格の表示や薬の効果の表示など誇大広告が中心で、
ジェンダー表現などの文化表象、動物愛護に関わる撮影上のガイドライン、子供や社会的弱者への影響などの倫理は対象となっていません。

消費者に迷惑や被害を及ぼすウソや大げさ、誤解をまねく広告を社会から無くし、良い広告を育む活動を行っています。消費者からのご意見をもとに、JAROは公平なスタンスで広告を審査し、問題のある場合は広告主へ広告の改善を促しています。
JAROではみなさまから、広告と実際のくい違い、大げさな表示・まぎらわしい表現のほか「この広告が好き」「感動した」など、広告に対するご意見を広く受け付けています。

JARO https://www.jaro.or.jp/about/works.html

広告に感動した、等の意見を募集するよりも、
ジェンダー表現などの文化表象、動物愛護に関わる撮影上のガイドライン、子供や社会的弱者への影響などの倫理について扱ってほしいものです。

https://youtu.be/2VnmHLB7AnM  
広報用の動画でも広告の「嘘」がメイン。

実際に今までJARO(広告審査機関)が審査した広告を見てみても、
医療や食品分野での誇大広告だけで、倫理よりも法律を守る文脈が強いです。

広告トピック(JARO)

イギリス広告審査員の構成と収益


広告審査機関は広告主への忖度が起きない仕組みになっています。
市民から苦情を受けた広告の功罪を決める審査員は、偏りがないよう4人は広告業界から、8人は多様な業界から定期的に採用。

ASA広告審査メンバー

審査機関の運営の資金として、広告掲載料の0.1%を広告主が負担することで運営できているそう。1974 年にできたこのシステムは審査機関が審査費を徴収するのではないため、独立性は保証されています。
このように運営のための資金を受けとるのにも広告掲載先の媒体という第3機関を通し手忖度が起こらないようにしています。

一方で、2021年のイギリスの広告審査機関についての論文で、
『審査員によって忖度される傾向アリ』という報告がされており、
一層 厳しさを感じます。

日本の広告広告審査員の構成と収益

日本のJAROは会員企業からの会費で運営されているとのこと。
⺠間の団体であり、広告主が会員になっている場合は、判断に忖度が起きないのか、どのようにタイおプしているかはかかれていません。

過去の審査事例を見ても、大企業の広告例はありませんでした。
規制やルール、政府のサポートがない中では
これが最大限の努力の結果と思われます。

②広告ルール

基本的に、多くの国では広告を規制するのは「自主規制」です。
自主規制とは、広告主は有志で倫理に配慮して広告を作ってくださいね、というスタンスです。
ある程度のルールは用意しておいて、
広告内容の責任は広告主にあり、広告が嫌われれば広告主の責任だよね、という考えです。ルールを破った広告主には罰則も処罰もありません。

日本の自主規制ルール

日本ではこの自主規制ルールが大まか(誇大広告はダメ、健全な広告を作ろう)です。一般社団法人 日本広告業協会が出している広告倫理綱領を見て見ます。

綱領
・広告は、真実を示し、社会の信頼にこたえるものでなければならない。
・広告は、関係法令や倫理規範を遵守するとともに、人権を尊重し、公正な表現を行うものでなければならない。
・広告は、健全な社会秩序や善良な習慣をそこなうものであってはならない。
・広告は、品位を重んじ、明るく、すこやかな生活づくりに貢献するものでなければならない。
・広告は、生活者利益を優先する情報を提供するものでなければならない。
・広告は、効果的で、効率的なコミュニケーションを通じて、最適なソリューションに貢献するものでなければならない。
クリエイティブ・コード
・広告は、創造性を追求し、人々の心に喜びや感動を与えるものにしよう。
・広告は、社会の規範や秩序の上に立って表現の可能性を追求しよう。
・広告は、創造性を尊び、第三者の権利を侵害してはならない。
・広告は、虚偽や誇大な表現をすることなく、真実を伝えなければならない。
・広告は、あいまいな用語や内容で、誤解を招くような表現をしない。
・広告は、他をひぼう、中傷してはならない。
・広告は、人権に配慮し、不当な差別的表現をしてはならない。
・広告は、品位を保ち、不快な印象を与える表現をしない。
・広告は、幼少年の健全な成育の妨げにならないように配慮しよう。
・広告は、簡潔な表現を用い、わかりやすく、受け入れやすいものにしよう。

一般社団法人 日本広告業協会広告倫理綱領 JAAA 

インターネット広告倫理綱領(2000年制定)
 広告は社会の信頼にこたえるものでなければならない
 広告は公明正大にして、真実でなければならない
 広告は関連諸法規に違反するものであってはならない
 広告は公序良俗に反するものであってはならない

一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会(JIAA)

社会の信頼にこたえるもの、公序良俗に反するもの、品位、健全、等、
定義があいまいな言葉が多く使われています。

広告炎上ではこの曖昧さが物議を醸すので
何を健全とするのか、広告主が社会を考えているのか、という事がはっきり決まっていなければ、炎上予防としては機能しにくい。

イギリス:自主規制ルールが明確

日本の自主規制ルールとは反対に、
英国では広告内容のルールが詳しく具体的。
アルコール薬物タバコギャンブル暴力車の運転客体化身体イメージ子供、動物など広告が映す・扱うカテゴリごとにルールが示されています。

例えば、客体化についての項目では
・製品とは関係のない性的表現でモデルを使用すること、
・モデルの顔を隠し体に焦点を当てる事
などが禁止されています。

実際に、女性を不必要に客体化しており、ルール違反であると判断が下された過去の広告例も示されています。

Church & Dwight UK Ltd t/a Femfreshの広告。性的であり、女性を客体化していると判断された動画広告の一部分


特に、女性と男性の表現についてのガイドラインについては
とても詳細かつ具体的で
女性差別&女性の客体化を許さない態度が見えます。

https://x.com/EnjoCheck/status/1712044300677046456?s=20

あらかじめルールを明確にしておけば、広告が倫理に反するかわかりやすいという事ですね。
このルールの明確さが撤去指示を出しやすい事も要因になっています。

イギリス:ルールの決め方

因みに、このルールは誰が決めているのかというと
学術的な文献、監修の専門家の意見を元に作られています。

例えば、
動物を広告に使う時のガイドラインでは, 英国獣医師協会が監修して下記のようなルールを作っています。

動物を適切な環境にいさせること
動物は適切な栄養バランスを持つ食べ物を提供すること動物には、正常な行動に十分なスペースや適切な刺激が用意する事
健康に悪影響を受けたり、苦痛を経験させないようにする事
安全である事
提示された状況で怪我、痛み、ストレスなどの危険にさらされない事

英国獣医師協会

他にも、専門家に意見を聞いてルールの制作、定期的な更新にあたっています。
例えば、ギャンブルについてのルールは、2014年に施行になりましたが、ギャンブル広告に関する学術研究結果を元に、2022年にルールが更新されています。

このように大学での研究結果を元に
随時ルールを更新していく事で、広告ルールが時代に取り残されないようになっています。

③広告周りの文化

イギリス市民は悪い広告を許さない?!

広告規制に真剣なイギリスですが、
その背景には、広告に対しての市民の厳しい目があります。

例えば、ADFREECITIESという団体。
違法広告を塗りつぶしたり、苦情を出したりするだけでなく、

「地獄バスツアー」なる、英国全土を回る、
市民に有害な広告に対しての反対運動も運営されています。


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