【短編小説】赤月夜の薔薇
月は銀緑色に輝くのが普通であろうが、燃えるように赤く輝く月の頃は、凍てつく砂漠の夜を、襤褸をまとった白い人影が果ての果てまで一人歩くという噂が旅人達の間に行き交う。
紅黒くガサガサと蠢くサソリをブーツで捻り潰し、ターバンで口元を覆い直し、砂避けのマントをかき合わせて俯くと、男は足を早めた───次のオアシスまでもう少し───
さて、噂の白い人影であるが、月が赤く燃える夜、必ず一人の時にそれは現れるそうだ。そして必ず後ろ姿で現れ、こちらを振り返る事もなく、ただ目の前を歩くのみ