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【#NIKKEI】「みんなの銀行」の独自色はどこにあるのか

 引用した記事の内容は、スマートフォンを中心にサービスを構築する「スマホ銀行/デジタルバンク」がとして、「みんなの銀行(福岡フィナンシャルグループ)」がサービスを開始したというもの。日本第一号の取り組みとして注目を浴びているようだが、どうも既存のインターネットバンキングと似通っている印象を受ける。この点について考えていきたい。


みんなの銀行とは

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 「みんなの銀行」とは、福岡フィナンシャルグループによる、デジタルバンキング、のことで、デジタル(現状スマホ)で金融サービスが完結することが基本指針となる。また、BaaS(Bank as a Service)を標榜しており、将来的には様々な分野と連携することで、金融サービスと提供することを目指している。なるほど、確かにコンセプトは新しい。
 具体的なサービスを見ていく。1.実質、複数の預金口座(通常の普通口座の機能は1つ)、2.他行の口座も含めた現金の動きの管理(表・グラフ)、3.バーチャルカード(デジタル上のカード)のデビットカード、基本的にこの3点。さらに月額600円のプレミアム会員が用意されており、これに入会すると、コンビニATMの出金手数料および振込手数料が一定程度無料になるほか、預金残高以上の引き落としがあった際に上限5万で貸してくれる。現状、提供されているサービスはこれが全てである。全てを満たしている銀行は確かに少ないし、スピード感も若干遅くなるが、実績やブランドの安心感を含めると、メガバンクは優秀だなと再認識させられる。
 みずほ銀行は、支店口座とインターネット口座の2つが作成可能、バーチャルデビットカードも作成可能。三井住友銀行は、他校の講座も含めた現金の動きを管理できる。三菱UFJ銀行はGoogle PayおよびApplePayに対応したデビットカードを作成可能。私が記憶している情報であれば、少なくともこうした機能を各メガバンクは保有している。リアル店舗で現金を取り扱っているが、デジタル分野を無視しているわけではない、アプリを中心としたサービスの提供は、様々な名称で行われているのである。
 また、アーキテクチャと呼ばれるシステムの設計思想にも特色がある。大きく3つあるのだが、1つ目が新聞などメディアで取り上げられているBtoCの銀行機能、2つ目が他社と連携することによる価値共創(エコシステム)、3つ目がシステム開発に係るBPO、である。1と3に対する疑問は少ないだろう。何をやるかが明確であるし、技術的にも実現可能であることは現行の「みんなの銀行のアプリ」、「メガバンクのグループに係るアプリ」より容易に推察できるだろう。しかし、2はどうだろう。ここが一番のポイントである。連携企業によって価値が左右されるにも関わらず、「みんなの銀行の公式ホームページ」および「ふくおかフィナンシャルグループのIR資料」には何ら記述されていない。しかしながら、みんなの銀行の標榜するBaaS(Bank as a Service)は連携なくして達成できないはずである。
 まとめると、デジタル完結と他社連携、を軸としながらスマホアプリを中心に価値提供する銀行である。また、他の銀行との最も大きな違いは直接課金が存在し、ホームページを見る限りでは、これが大きな収益源(ただし、加入1年目は無料のため無利益)、となるだろう。金融を単に機能としてではなく、サービス(UXに注力など)としての側面を強めて提供することで、付加価値として対価を得るモデルとも言える。

メガバンクのシステムにおけるアーキテクチャ

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 ポイントは、サービス指向アーキテクチャ(SOA)とAPI(Application Programing Interface)である。
 SOAは、いわゆるモデュールアーキテクチャのことで、システム内における様々な機能一つ一つを取り外したり、くっつけたり、できるような設計構造のことである。

インテグラルアーキテクチャのイメージ(従来型のシステム)
 ケーブルとコンセント部分の脱着ができず、修理や改善を行う際、複雑な処理が必要となる。

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モデュールアーキテクチャのイメージ(SOA:昨今の主流)
 ケーブルとコンセント部分の脱着ができ、修理や改善を行う際、部分的な処理が可能。実際、コンセント部分は、大きさやワット数などの変更・不具合時の交換が可能である。

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みずほ銀行による、システムアーキテクチャの違い、のイメージ

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 このSOAの機能部分の一つに、APIという連携専用の接続部分を備えている。これにより、様々な機能拡張を他者と連携して行うことができる。例えば、マネーフォワード(家計簿アプリ)は銀行と連携して、銀行アプリの機能向上に貢献している。おそらく、これが「みんなの銀行」の標榜するBaaSである。
 このように、メガバンクのシステムは、多少の違いはあれども、みんなの銀行とほぼ同じような設計思想に基づいて開発されており、著しく劣るものではない。また、APIによる機能拡張についても明確にデジタル戦略の柱として、IR資料などで公開されている。となれば、できること、で考えると、ほぼ同じではないか、という仮説が成立する。

考究(みんなの銀行の差別化について)

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 システムアーキテクチャの側面から考えると、確かにメガバンクとできることは変わらず、一見「みんなの銀行」に優位性は無いように思える。しかし、個人的に期待しているポイントが2点ある。APIと人材の2つの視点で差別化について考えるものとした。
 APIについて、メガバンクの基本方針は綿密な精査などを経て、連携先企業を決めることが予想される。先に上げた資料には三菱UFJ銀行のみオープンAPIとなっているが、実際、そこまで連携できるアプリ数が多い印象はない。これを本当の意味でオープンにしたり、また、アプリ内アプリ、という形でアプリ数を増やすことで、優位性を獲得できるのではないか、ということである。アプリ数は非常に重要である。顧客を増やし一定の経済規模を獲得、その後、アプリ開発のしやすい環境を整えることで、BaaSが達成できるのではないだろうか。
 次に、人的資源である。実は、デジタル人材と非デジタル人材とでは評価指標が異なっている。非デジタル人材は経験と勘によって目標を決め、失敗を許さず、完璧な物を作る。デジタル人材は仮説を設定し、失敗によってデータを収集し、継続的な改善を行う。当然、デジタル系の銀行に求められているのは、デジタル人材である。となれば、UXに優れたアプリケーションやデジタル完結でのサービス設計のできる「みんなの銀行」の人材は優位的である。しかしながら、経営指針が抽象的すぎて何を目指しているのか、分かりにくいように感じる。さらには、ふくおかフィナンシャルグループの事業拡張の予定では、物理カードの発行、が記載されており、既にデジタル完結、の理念が揺らいでる。少なくとも日本では色々言われながらも、AppleがiPhoneからイヤフォンジャックを無くすようなブランドとしての強さはない。親会社の顔色を伺いながら、インターネットバンキングの下位互換(若干の機能優位性有り)にとどまるのか。これからの動向に注目したいイノベーションである。





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