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エコシステム・サブスクが新技術を普及させる

 新技術や新製品が最初から普及することは基本的にない。確かに、新技術を用いた新商品は基本的に高額である。しかし、全てが高いというわけではない。コンビニでは毎週のように新商品が並べられている。ソフトドリンクで言えば、通常の商品が約120円、新商品が約150円、単価で考えれば決して高額ではない。このように新技術を用いた新商品が全て高いというわけではないが、金額に依らず普及はしにくいというのが現状である。
 一方で、瞬く間に普及した製品も存在する。それは、Apple WatchとAir Podsより観察することができる。これは、単にこれらの製品が普及したことを意味するのではない。スマートウォッチと完全ワイヤレスイヤホンの市場が形成され、ジャンルとしての普及である。
 この背景には、昨今、注目されているサブスクリプションおよびエコシステムが鍵を握ることになる。


イノベーター理論(キャズム)とは

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 キャズムとは、新技術を市場に普及させる際、その過程に心理障壁に起因する溝、を指す。顧客の心理態度について5つの層に分けることができる。緑色の部分は新技術へ対する受容度が高い層である。ある程度のリスクを許容し、メリットが不透明でも受容する。積極的に新しいものを取り入れて、自らがその価値を判断するのである。ここでキャズム、大きな溝が存在し、暖色系の層へとなる。この層はリスクへ対する受容度が低い層である。リスクやメリットを正確に判断するまでは購入に至ることはない。最後にネイビーの層となるが、こちらは決して購入しないそうと判断いただきたい。
 そして、キャズムへ対する対応策、として有名なものが2つある。一つ目は、ホールプロダクトを用意すること、である。新技術を用いた新しい製品は、利用環境が整っていない場合が多い。そのため、必要な製品を揃えることで環境を整えるのである。二つ目は、他のアーリーマジョリティ(暖色系の層)の事例を作ること、である。リスクやメリットについて、同じように正確に判断したい層で成功例を作ることで、情報を伝播させ、製品を波及させるのである。特に、影響力の強い企業やインフルエンサーなどが良いとされる。こうした顧客での成功事例は比較的情報が伝播しやすく、また影響力も高い。

サブスクリプションとは

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 サブスクリプションについては、既にご承知の方も多いかもしれないが、軽く説明しておく。
 サブスクリプションとは、定額でソリューションを提供し、継続的に収益化するビジネスモデル、のことである。ソリューションとは、お客様の仕事に対して必要な製品を複数提供することで、課題そのものを解決することである。また、通常の所有権ではなく利用権を販売し、リースのように低価格で販売するものである。契約期間は様々だが、一ヶ月単位で更新するものが多い印象だ。
 サブスクリプションの主な効果として、3つ挙げるものとする。一つ目は、継続的な売上の獲得、である。概ね会員制のビジネスであるため、継続利用により安定的に売上を獲得ができる。また、定期顧客の囲い込みも同時に可能である。二つ目は、新規顧客の獲得、である。リースに近い形で利用権のみを販売するため単価自体は低価格であることが多い。そのため、導入コストとしては比較的低くなり、新規顧客を見込むことができる。三つ目は、データの収集、である。所有権はサービス提供者が保持したまま、利用権のみを販売(貸出)するため、利用に関する情報を収集することができる。このデータは、製品の性能向上や顧客との関係性向上に利用することができる。

(ビジネス)エコシステムとは

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 エコシステムとは、同時消費の組み合わせに焦点を当てた経済圏もしくは協同体として、独自の経済領域を形成すること、である。まず認識いただきたいのは、私たちは同時に複数の商品を消費することによって、価値を享受しているという点、である。これを元に、楽天経済圏(エコシステム)の例を用意した。楽天スーパーポイントを中核財として、様々なアクター(旅行代理店やECなど)の補完財によって形成されている。確かに、楽天トラベルの旅行代理店機能にしても、楽天市場のEC機能においても、その機能とポイントを同時に消費している。また、このアクターが他社の場合は協同体、自社の場合は経済圏、という呼称を用いるのが多い印象だ。
 主な効果は2つある。一つ目は、エコシステムとしての顧客の囲い込み、である。エコシステムは、それ自体が顧客を持つものである。例えば、楽天市場の顧客、ではなく、楽天経済圏の顧客、である。もしかすると、楽天経済圏の顧客は旅行代理店を利用する際、ポイント機能によって他社よりも楽天トラベルを魅力的に感じるかもしれない。他の銀行や証券など他のアクターも同様である。このように、エコシステム内で消費することによって、顧客はメリットを感じることができ、結果、囲い込み、が発生するのである。二つ目は、エコシステムの新しいエクターとしての機能拡張、である。これは新しい製品やサービスを上市する際、例えば単に旅行代理店というよりは、ポイントへ対応することで経済圏へ加入すれば、エコシステムの顧客からは消費されやすくなる、というものである。

考究

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 では、なぜサブスクリプションやエコシステムが、新技術を用いた新製品の流通に有効なのかを説明したい。
 まず、サブスクリプション、についてである。第一に、KSF(重点成功要因)に継続性が含まれる、ことである。低価格の定額サービスであるため、継続されなければ、そもそもとして利益を上げることは難しくなる。そのため、単に継続的な売上が期待できるのではなく、顧客との継続的な関係性を築くことが前提とするものである。そのため、成功しているサブスクリプションは基本的に顧客ロイヤリティが高くなる。第二に、新製品に対する追加的なコストが発生しない、ことである。サブスクリプションは、基本的に使い放題のサービスとなるため、ここに新製品が追加されても顧客は追加的にコストを負担することはない。つまり、ロイヤリティの高い顧客に、新製品を追加した場合、とりあえずとして消費してもらえるのである。本当に良い製品であれば、顧客が広めてくれるだろう。
 そして、エコシステム、についてである。第一に、エコシステムとしての価値提供、である。エコシステムは商品単体というよりは、エコシステムで価値を提供するため、それ自体の顧客数が潜在顧客数となる。楽天ポイントに対応したサービスは、楽天経済圏の顧客数が潜在顧客となる。第二に、エコシステムの機能拡張、である。前項でアクターとしての上市は利用されやすい、としたが、それには条件が発生する。それは中核製品に対するロイヤリティの高さである。つまり、ロイヤリティが高ければ、アクター(補完財)も消費されやすくなるし、低ければ消費されにくくなる。
 ここで初めに記述した米Apple社の2製品に言及するならば、Appleの顧客は総じてロイヤリティが高く、信者と呼ばれる顧客層が存在する。つまり、iPhoneへ満足する顧客が多いため、それの価値を向上させること期待できるApple WatchやAir Podsも爆発的に売れるのである。エコシステム全体での顧客数は膨大であるため、様々な場所で情報は共有され、また身につけている人が多くなる。となれば、良い製品であること、需要があることは次第に理解され、購入者は増加し、企業も参入するようになる。一方、最近、楽天経済圏からの脱退の表明を聞いたことはないだろうか。ポイント還元率への不満によるものである。こうした中核製品の魅力度が減少すると、アクター(補完財)も魅力を失うことになるので、エコシステム単位で顧客が減少するのである。

まとめ

 昨今は、SNSの発展もあり、情報は共有されやすい環境にあると考えて良い。であるならば、最初の一歩をどう提供するかが重要となる。基本的に高額な商品を無料で提供するのは難しい。イノベーター理論は有名な理論であるし、現在もYouTubeでは書評など、様々な方が解説している。キャズム自体は確かに現在も存在している。しかし、方法論は時代とともに変化する。デジタル技術の伸長やIoT に代表される通信技術の伸長、などの目覚ましい現在にはサブスクリプションやエコシステム概念を用いることで、キャズムを乗り越えることは可能であると思う。

参考となる書籍)


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