子どもを成功に導くために必要な本当のスキルとは?
私たち親や大人は、子供たちが将来自立し、幸せな人生を歩んでほしいと願っています。ではどうすれば子どもたちを成功に導くことができるのでしょうか?成功の最も確実な予測因子は何でしょうか?
今回は、私が10年以上前に購入した愛読書のひとつ
『How Children Succeed: Grit, Curiosity, and the Hidden Power of Character:子どもたちはいかにして成功するのか?ねばり強さ、好奇心、性格の隠された力』
から、子どもたちが将来、社会で自立した大人として生きていくために必要な要素についてお話しします。この本は、ニューヨークタイムズのベストセラーリストに1年以上載っていた名著です。
教育者や保護者の方々には、子どもたちの可能性を最大限に引き出すためのヒントを提供したいと思います。最後に、この20年間、保育と教育の現場で関わってきた子どもたちを振り返りながら、個人的な考察を加えたいと思います。
ポール・タフは、全米のさまざまな学校を訪問して大規模な調査を行いました。その結果、学業成績の良し悪しが必ずしも人生の成功に直結しないことがわかりました。彼の調査結果によると、社会的・感情的対応力、粘り強さ、優れた性格特性の方が、人生における成功の予測因子として優れているとのことです。
一般的に、子供たちが将来自立して幸せな社会生活を送るためには、学力や知能といった認知能力が最も重要な要素であると考えられています。幼稚園から大学入学まで、テストの高得点は成功の象徴とみなされてきました。そのため、子供の将来の成功を願う親は、これらの能力を伸ばすために、より良い教育を与えようとします。これは「認知仮説」と呼ばれ、長年多くの親や教育者に受け入れられてきました。
しかし、著者はこの認知仮説に異を唱え、成功には認知能力以外の要素が大きく関わっていると主張します。粘り強さ、自制心、好奇心、誠実さ、粘り強さ、自信といった非認知能力が、学業成績やIQスコアよりもはるかに子供の成功に重要であるという「人格仮説」を提唱。彼の主張は、大学進学率と卒業率の比較研究によって裏付けられています。
高校での成績が良い生徒は、IQが高かったり入試の点数が高かったりする生徒よりも、大学卒業率が高く、中退率が低いという研究結果があります。つまり、非認知能力が高い生徒の方が大学を卒業する可能性が高いのです。高校での成績が良いということは、非認知能力が高いということだからです。
高校時代を思い出してください。年間、学校で良い成績を維持するには、日々の努力が必要です。例えば、サボらない、遅刻しない、毎日真面目に勉強する、宿題をきちんとやる、期限内に課題を終わらせる、提出物を忘れない、グループワークでチームワークを発揮する、学校行事でリーダーシップを発揮する、部活動に積極的に参加する、などです。これらの努力はすべて高校の成績に反映されます。
このような努力は、自己管理能力、責任感、協調性、リーダーシップなどの非認知能力を高める要素です。高校で良い成績を取るためには、これらの非認知能力が必要とされ、それが成績に表れます。そのため、高校での成績が良い生徒は、非認知能力が高いと言えるのです。
また、高等学校卒業程度認定試験(大検)を受験して高校に行かずに大学に進学した学生は、高校を中退した学生と将来の進路が似ていることもわかりました。これは、認知能力だけでは将来の成功につながらないことを明確に示しています。
私たちの社会では、持てる者と持たざる者の間に厄介な学力格差があり、それは拡大しつつあります。この格差の原因は、単なる貧困やIQではなく、タフが「パーソナリティ」と呼ぶ、実行機能や良心性といった特定の非認知能力群にあります。こうしたスキルを持つ子どもたちは、歴史上繰り返されてきた失敗のパターンを打ち破ることができるのです。
この話は、私が教育者として経験してきた謎を裏付けるものです。教師として多くの中高生を見てきましたが、確かに学校の成績が良い生徒は、塾で先取り学習や応用問題をやっている生徒に比べて、トップ高校への進学率が圧倒的に高い。これはほぼ間違いない予想でした。
意外かもしれませんが、学年トップの生徒の多くは塾に通っていません。彼らの多くは勉強(学校)以外の趣味を持ち、心身ともに健康です。そのため、成績もオール5かそれに近い成績を収めているのです。
一方、有名進学塾に通い、受験に必要な国数英の主要教科に力を注ぎ、先取り教育を受けている生徒たちが学年トップになることはまずありません。受験に関係ない教科で、手をぬくクセがついているためです。
受験のために毎晩遅くまで塾に通い、長時間勉強し、週末に模試を受けるなどして、疲労困憊。だから、受験に関係ない教科に打ち込む気力がなく、休息が必要なのです。塾一辺倒になると、学校の勉強も手を抜くようになり、学校を休みがちになります。その結果、高校受験でトップ校に推薦してもらえるほど学校の成績が上がらないのです。
夜遅く帰宅してから学校の宿題をしたり、友達とのSNSやゲームなどに興じるため、慢性的な睡眠不足で、学校で居眠りをしたり、覇気がなく、イライラしてしまうこともあります。
前者のように塾に行かなくても学年トップで、しかも学校生活の他に没頭できる趣味の世界を持っている生徒を見ると、教師から見ても尊敬に値する人格を持っていることが多いです。このような生徒たちは、周りに流されませんので、たとえどんな荒れた公立校に通っていたとしても、トップ進学校に進学していきます。
保護者は、自分の子供が学校の中でどんな生活態度で授業に臨んているのか、どのような子が優秀で、どのようなタイプの子が流されやすいのかを知る機会がないので、「いい学校に行かせれば何とかなる」と思ってしまうのですが、現実はそう単純ではありません。
首都圏の2023年の中学の受験者数が、少子化にも関わらず過去最多だったそうです。確かに、なんとなく公立中学よりも私立中学の方が、子供の将来にとって良さそうに感じるのは理解できます。しかし多少荒れた中学の中でも、いろんなタイプの生徒たちと良い距離感で付き合うことができたり、いろんな子供たちが集まる環境で多感な時期を過ごすのは、悪いことではないと感じます。非認知能力の観点で言えば、同質的な私立よりも鍛えられるかもしれません。
結論
ポール・タフの『How Children Succeed』は、子どもたちが将来、自立して幸せな人生を歩むためには、学力やIQだけでは不十分であることを教えてくれます。粘り強さ、自制心、好奇心、誠実さといった非認知スキルが、子どもたちの成功に不可欠な要素であることを理解し、これらのスキルを育む教育や家庭環境を整えることが、私たち親や教育者の使命です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?