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ティール組織から学ぶ 「テレワーク」を機能させるコツ【前編】

新型コロナウイルスの感染拡大は世の中に大きな変化をもたらしています。人々の「働き方」や会社としての「組織のあり方」にもその変化は及んでいます。

日本では2019年4月に「働き方改革関連法」が施行され、テレワークの推進なども行われてきましたが、2018年における企業のテレワーク導入率は19.1%(※1)にとどまっていました。
(※1)総務省による平成30年「通信利用動向調査」の結果より

ところが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府から緊急事態宣言が発令されたことで、これまで遅々として進まなかった企業によるテレワークの導入が一気に進みはじめています。

新型コロナウイルスをきっかけに始まった変化の流れは、一過性のものではなく、今後の日本人の働き方を抜本的に変えることになるかもしれません。また、1人ひとりの働き方だけではなく、企業・組織としての在り方や役割にも大きな影響を与えることになるでしょう。

それでは、このような変化を受けて、私たちはどのように活動していけば良いのでしょうか。経営者やマネジメント層の方は組織をどのように運営していけば良いのでしょうか。


今回は、次世代型組織と言われる「ティール組織」の観点から、企業・組織の在り方と働き方、そして個人の働き方について2回に渡って考えていきたいと思います。

前編では、ティール組織の観点から考えるにあたって必要な、「ティール組織」とは何か?について、日本語を含め17カ国語に翻訳され、累計35万部を突破するベストセラーとなっている書籍『ティール組織』の内容を要約して解説します。

後編では、現在日本で起こっている働き方に関する様々な変化を、ティール組織の観点から考えていきます。
特に、在宅勤務やリモートワークの導入によって起こる組織の変化を、「経営層」「マネジメント層」「メンバー層」の視点に分けて考察したいと思います。

では、早速「ティール組織」について見ていきましょう。

ティール組織とは

ティール組織

「ティール組織」とは、フレデリック・ラルーが2014年に著書『Reinventing Organizations』で提唱した組織理論です。

日本語版書籍は『ティール組織』というタイトルで2018年1月に発行され、マネジメントの常識を覆す次世代型組織モデルとして、ビジネス書大賞2019経営者賞を受賞するほど大きな反響呼びました。

ティール組織を一言で表すなら、「上司がマネジメントしなくても、個々が自分らしさを発揮しながら意思決定を行い、組織の目的実現を追求する自律分散型組織」です。

この組織概念が日本で大反響を呼んだのは、実際に成果をあげ成功法だと思われてきた、これまでのマネジメント方法が、実は組織に様々な副作用をもたらす可能性があることを示唆しているからです。

ティール組織はVUCA時代【Volatility(変動性)Uncertainty(不確実性)Complexity(複雑性)Ambiguity(曖昧性)】と呼ばれる予測不能な現代において次の時代に向けて必然的に誕生したともいえる組織モデルではないでしょうか。

ティール組織の特徴は「組織を1つの生命体」として捉えていることです。詳しくは後述しますが、進化に向けてあらゆる知恵を働かせながら変化する有機体と考え、組織を組織自身の進化の力に任せて運営するのです。


ティール組織に必要な3つの要素

では、ティール組織はどのような要素で成り立っているのでしょうか。一言でティール組織と言っても運営方法には様々な形態があります。その中でもティール組織に欠かせない3つの要素を具体的に説明します。

1. セルフマネジメント[自主経営]
ヒエラルキーの権限に基づく意思決定は存在せず、メンバーそれぞれが権限と裁量を持って意思決定を行います。

2. ホールネス[全体性]
従来の職場では、普段の生活で見せる自身の一面を切り離し、組織での役割に徹することが期待されますが、ティール組織では、その人のありのままをさらけ出してもらい受け入れることで、個人が持つ本来の個性と能力が発揮できます。

3. エボリューショナリーパーパス[存在目的]
経営者やマネージャーがリーダーシップという名のもとに、組織としての目的を指し示してきました。ティール組織では、「自社は何を達成するために存在しているのか?」という問いに、各自が耳を傾け・考えることで、メンバーの意思で組織の目的自体を進化させていくものだという捉え方をします。

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書籍の著者であるフレデリック・ラルーのティール組織の事例研究によって明らかにされた、この3つの要素が、従来の経営手法とは大きく異なる部分でもあります。


ティール組織に至るまでの組織の発達ステージ

ティール組織をより理解するためには、これまで人類がどのような組織モデルを作りあげてきたかという変遷を知る必要があります。

組織モデルの進化段階は5つの段階に分けられており、ティール組織は組織の進化段階の最終形態に位置づけられています。

組織モデルの進化は、人類の意識の発達と密接に関係しています。つまり、人類の意識が次のステージへと成長するとき、それに応じて組織モデルも発展するということです。

書籍では、人類の意識を「パラダイム」と表現し、7つのパラダイムと5つの組織モデルで進化段階を分類しています。

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組織モデルの原始となるのは衝動型組織です。
そこからモデルの発展が始まり、現在の民間企業の多くが達成型組織に位置付けられます。

気をつけていただきたいのは、自社の組織を「組織の発達ステージ」に当てはめるときです。おそらく、自社の組織がどこに該当するのかは多くの方が気にされるポイントかと思います。

ここで論点とされているのは、あくまで組織の「システム」と「組織文化」であって、そこで働く人々のパラダイムを表しているわけではないということです。
組織モデルは、組織がどの世界観を起点とした「システム」と「組織文化」を持っているのか、そして、どの組織モデルに重心を置いているのかにすぎません。部署によって重心の位置が異なることもあるでしょう。

一概に「何々型だ!!」とレッテルを貼らないようにしてください。
レッテルを貼るとそのパラダイムに縛られるいことにもつながります。

また、組織モデルの最終段階だからと言って、必ずしもティール組織が良いというわけでもありません。自社にあった組織モデルを見つけることが大切です。

ここからは、現代の企業に多い達成型組織・多元型組織とティール組織について図でイメージしてみましょう。

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図をみていただくと分かる通り、ティール組織は強力な権限を持つリーダーが存在しません。現場のメンバーが多くのことを決定します。

ティール組織が他の組織モデルと比べて、現場での意思決定が最大化できる理由は、メンバーが組織の存在目的(=社会的使命)を明確に意識し、理解しているためです。メンバー間のコンセンサスを得ることよりも、目の前の課題を解決させることの方が、組織の目的を実現するために貢献できると考えられています。

そのため、ティール組織は、グリーン(多元型)組織のように意思決定に膨大な時間を要することもありません。


ティール組織の実践

ここまで読んでくださった皆さんは、ティール組織がどんな組織モデルなのかを少しはご理解いただけたのではないでしょうか。

理解できてくると気になるのが「どうやって実現するのか?」です。

ティール組織というのは組織モデルの一つであって、決まったルールややり方はありません。
ですが、参考までに、書籍で紹介されている実践例をご紹介します。

●助言プロセス:セルフマネジメントの実践

採用、プロジェクトの撤退、工場を建てる、新規事業の立ち上げ・・・
これらの意思決定が日々行われるのが企業活動です。

ティール組織では上記を含めた様々な意思決定を、メンバーの一人ひとりが行います。皆さんの会社で20代の若手メンバーがこのような意思決定をすることを想像できるでしょうか。

多くの会社において意思決定は、社長や部門長という役職者のトップダウンで行われます。
従来ならトップダウンで行われるような意思決定をティール組織ではメンバーが行いますが、丸投げしているわけではありません。

意思決定できるような仕組みを持っているのです。
それが『助言プロセス』です。
名前の通り、意思決定をするための助言をもらうための仕組みです。

考え方は非常にシンプルです。
原則として、組織内の誰がどんな決定をくだしても構いません。
ただし、意思決定の前に全ての関係者とその問題の専門家に助言を求めなければならないというものです。

助言を全て取り入れる義務はなく、全員の希望を取り入れて内容の薄くなった妥協を図ることが目的ではありません。

助言プロセスは社長にも適応されるため、ティール組織は社長であっても基本的には独断で意思決定を行うことはできません。

●オンボーディングプロセス:ホールネスの実践

※オンボーディング:新規採用者が戦力化するまでの継続的な教育や研修

ティール組織では、新入社員を迎え入れる際に、他の組織モデルと比較してはるかに多くの時間をかけ、情熱を注いでいます。

オンボーディングプロセスの中心は、新しい環境を理解し、しっかりと日々を過ごせるようになるための教育研修です。

業務に必要なルールやスキルに関する研修だけでなく、人間関係や企業文化に関する研修を徹底しています。

ある会社では、「自制」や「失敗への対処」をテーマとした研修を行っていたり、社長が講師となって「会社の中心的な組織ツール(会社の目的、価値観、意思決定メカニズム)の一つを掘り下げる」研修を週に1回実施している。

このように、オンボーディングは入社の一時期だけ行うものではなく、日常業務に組み込まれる形でのフォローアップ研修やワークショプの追加開催も重要なのです。

●目標を設定しない:存在目的の実践

ティール組織はトップダウンの目標を設定しません。
それは、目標設定をすることは、少なくとも3つの問題があると考えているからです。

①自分たちは未来を予測できるという前提に立っている
②メンバーの内なる動機から遠ざかった行動をするようになる
③新しい可能性を感じとる能力が狭まりがちになる

環境変化が激しい昨今において、未来を予測することは難しく複雑性が増しています。目標を立てても、当てずっぽうになったり、いい加減な数字になっていうことすらあります。

そんな目標では、長期的に見ると会社にとってマイナスですらあるのです。

ティール組織を実践するドイツの心療内科病院グループを運営する入りゲンフェルトでは、年間の評価において、メンバー個人が存在目的に立ち返れるような問いをしています。

『私のハートは仕事をしているか?』
『自分は正しい場所で働いていると感じているか?』

本来、個人の目的と組織の目的には密接な関係がある。組織の存在目的と個人の人生でなすべき使命が共鳴した時、組織のなすべき仕事にエネルギーを注いでくれる人が増えていくのです。

後編に向けて

前編では書籍『ティール組織』を解説してきましたがいかがでしたでしょうか。解説は後編に向けた序章にすぎません。

ティール組織という組織モデルの概念を知っていただいた上で、後編ではコロナウイルスの感染拡大によって起こっている、「在宅勤務・リモートワークへの移行」を中心とした、組織・マネジメントの在り方についてティール組織の観点で考察を行います。


GOB Incubation Partners株式会社
執行役員 CHO/CXO 岡田 佳奈美

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