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ティール組織から学ぶ 「テレワーク」を機能させるコツ【後編】

新型コロナウイルスの感染拡大は世の中に大きな変化をもたらしています。人々の「働き方」や会社としての「組織のあり方」にもその変化は及んでいます。

このような変化を受けて、経営者やマネジメント層の方は組織をどのように運営していけば良いのかを、ティール組織の観点から考察する記事の後編です。

前編では、考察の観点の基となる「ティール組織」について解説を行いました。

後編では、現在日本で起こっている働き方に関する様々な変化を、ティール組織の観点から考えていきます。
特に、在宅勤務やリモートワークの導入によって起こる組織の変化を、「経営層」「マネジメント層」「メンバー層」の視点に分けて考察したいと思います。


社会変化を受けて

前編でご紹介した書籍「ティール組織」中にこんな一文があります。

人の意識がもう一段次の、より複雑な段階に発達するきっかけはなんなのだろう?
研究によると、成長のきっかけは常に、現在の世界観からは解決できない人生の大きな試練という形でやってくる。

ティール組織

今、世界的に起こっている新型コロナウイルスの感染拡大は、人類に対しての「大きな試練」と捉えることができます。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、個人だけでなく、企業にも様々な試練が訪れているのではないでしょうか。
試練が訪れているのは、業績が悪化した企業に限りません。
急激に需要が増えたことによる試練もあるでしょう。

わかりやすい例としてはオンライン会議システムのZoomが挙げられます。
緊急事態宣言の発令によって、これまでテレワークを導入していなかった企業も在宅勤務ができるように、テレワークの導入を始めました。

これによってZoomの需要は、新型コロナウイルス感染拡大後に大きく伸びています。
一方で、セキュリティの脆弱性が指摘され、大きく問題視されました。

私自身、緊急事態宣言発令前からZoomを利用していますが、セキュリティの脆弱性が指摘されてからは、様々なセキュリティ対策がされ、日々Zoomの機能が追加・変更されているのを体感しています。

爆発的に増えた需要に対応しながらも、セキュリティの脆弱性問題に可及的速やかに施策を講じなければならない状況は、まさにZoom社にとって試練ではないでしょうか。


試練に向き合う2つの方向性

このような試練にぶつかった時、人々や組織の反応は大きく2つに分かれます。
①問題を解決するための複雑な視点を持つように成長する
②現在の世界観にこだわって、問題を無視する

最近は「アフターコロナ」「ウィズコロナ」という観点でいろんな議論が起こっていますが、要は①②のどちらを選択しますか?と問われているのだと思います。

残念ながら、どちらを選択しても痛みは伴います。

新しい段階への成長は、以前は正しかったものを捨てて、新しい世界観を試す勇気が求められます。
変化は手探りで、混乱するかもしれません。

かといって、②を選択するとどうなるでしょうか。
「ビフォーコロナ」へと戻ることになります。戻ることになる世界は本当に”戻りたい”世界なのでしょうか?

本記事においては主題ではないため割愛しますが、個人、組織、国、世界、地球環境と、多面的にビフォーコロナの世界を思い出した時に、私自身は「戻りたくない」と思います。(ビフォーの世界にも素敵な部分はたくさんあり、それを否定しているわけではありません)

ということで、今回の人類に与えられた新型コロナウイルス感染拡大という試練においては、人類が新たなステージへと成長する機会と捉えて、本記事を書き進めていきます。


テレワークへの課題意識

さて、コロナウイルスの影響による社会変化を、新たなステージへの成長機会として捉えてみましたが、実際にどのような変化が起こっているのでしょうか。

変化の一つとしてわかりやすいのは、政府からの外出自粛呼びかけによって、企業もテレワークを実施し始めたことではないでしょうか。

ここからは組織のテレワーク導入についてみていきたいと思います。
日本テレワーク協会によるとテレワークの定義は以下です。

テレワークとは、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。

緊急事態宣言の発令によって、在宅勤務を実施する企業も増えましたが、在宅勤務もテレワークに含まれます。

改めて考えておかなければならないのは、「本来のテレワークとはどんなものなのか?」ということです。
何を問いたいかというと「今の在宅勤務は本来のテレワークなのか?」です。

本来のテレワークでは、業界や職種、出社の頻度、オフィスまでの距離、個々人の家庭背景(子育て、介護、通院など)を考慮して準備や取り決めを行って運用されます。

ですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響によるテレワークは、上記のようなことを考慮した準備や取り決めを行う間も無く実施されてしまっています。
つまり、ただの「強制在宅勤務」に近い状態になってしまっています。

本来のテレワークと少し区別して考える必要があるとは思いますが、2018年には19.1%だった企業のテレワーク導入率が加速するきっかけになっていることは間違いありません。

今、出てきている課題と向き合えるかどうかが、アフターコロナ/ウィズコロナをより良い組織で迎えられるかどうかの分かれ目になります。

それでは、具体的にどのような課題が出てきているのでしょうか。
「組織全体」と「個人」の観点に分けてみてみましょう。


テレワークから見える課題[組織編]

まずは組織全体の課題について考えます。
本記事では課題をきっかけに組織モデルの進化を考えるために、課題のみを扱いますが、テレワークにはメリットもあります。
運用方法によっても課題に感じられる部分は異なると思いますが、代表的な課題を5つご紹介します。

1.労働実態の把握が難しくなる
オフィスに出勤する働き方よりも、社員の業務開始時間や終了時間、また労働時間の長さといった就労実態を把握しにくくなります。

2.部下の管理や評価がやりにくい
顔を合わせない(顔を合わせる頻度が下がる)ことで、マネジメント層はメンバーがどのように活動しているかが見えにくく、業務管理が難しくなります。また、普段の様子がわからないだけに評価もしにくいです。

3.チームワーク/コミュニケーションが低下する
メンバー同士の顔を合わせる機会が減ることで、関係性が構築しにくくなります。テレワークでは、何か目的を持って連絡を取ることが多く、何もしないと「雑談」によって生まれる信頼関係や安心感が醸成されません。信頼関係や安心感が低下することで、業務を行う上でのチームワークも円滑に進まなくなるケースがあります。

4.従業員間・部門間で不公平感が出る
テレワークには向き不向きな職種があります。工場など物理的にものを動かす必要がある業務などはテレワークができません。テレワークができなメンバーから「テレワークは通勤もなく楽でいい」という捉え方をされ、不公平だと感じる人も出ます。

5.会社への求心力が低下する
テレワークの運用方法によって大きく異なりますが、上手くいかないケースでは、テレワークを実施することでメンバーの時間・場所の制約がなくなり、会社やチームとのコミュニケーションが減り、同僚との人間関係が疎遠にことも考えられます。そうなると、個人としてはどの会社への帰属意識が薄まり、求心力(ロイヤリティ)低下へと


テレワークから見える課題[個人編]

先ほどは組織面からみたテレワークの課題をご紹介しましたが、ここからは個人の視点からテレワークの課題をみていきます。
これも感じ方には個人差があると思いますが、よく挙げられる課題をご紹介します。

1.自己マネジメント力が求められる
組織の課題とも関連しますが、テレワークでは1人ひとりまでなかなか目が行き届きませんし、労働の実態を把握することが難しくなります。そのため、どのように働くかは個人の裁量に委ねられます。仕事ですのでミッションや役割、目標がそれぞれにあると思いますが、それを達成するためのパフォーマンス管理の全てを自分で行わなければいけません。スケジュール管理を中心に自己マネジメントができる人でないと、業務効率が悪くなる、パフォーマンスが上がらない、そもそも業務時間が確保できない(息抜きが増える)という状況に陥ってしまいます。

2.報告や相談がやりにくい
上司や同僚が近くにいないため、「ちょっといいですか?」という気軽なコミュニケーションや雑談が行いにくくなります。少し聞きたいけど、わざわざ聞くほどでもない・・・という気持ちになりやすく、ちょっとした業務の行き詰まりを感じます。また、同僚と雑談の中でで情報交換することができなくなります。雑談ついでに、他者の状況や関連業務の部署の状況を把握することもできなくなります。

3.リフレッシュができない
同僚などとの会話が仕事の息抜きになっていた・・・という方も多いのではないでしょうか。「1.自己マネジメント力が求められる」と逆になりますが、気付いたらずっと仕事をしていたということも発生してし舞います。また、ライフワークバランスという言葉がありますが、在宅勤務では仕事と生活が入り混じってしまい、上手く切り替えができずに気が休まらないという方もいらっしゃいます。


課題の裏側にある前提を認識する

ここまで、組織と個人の観点からテレワークの課題をみてきましたがいかがでしたか?
思い当たる項目もあったのではないでしょうか。

これらの課題に対して一つずつ対処していく方法もありますが、あくまでも課題は事象にしかすぎません。
課題が発生する背景には、「◯◯しなければならない」「〇〇であるべきだ」という前提があります。

その前提を基に考えたときに、「良くない」と判断された事象が課題としてあぶり出されるのです。

組織・個人の視点からテレワークの課題のみたときに、以下のような前提が潜んでいるのではないかと思います。

・ライフとワークは切り分けるもの
「ライフワークバランス」という言葉があるように、「ライフ→生活」と「ワーク→仕事」は区別されています。1人の人をみてもライフの側面とワークの側面があり、使い分けをするものであるという認識があるのではないでしょうか。ライフワークを区別するからこそ、家でリフレッシュできないなどという課題が出てきます。

・会社のために仕事をする
これは個人の捉え方によって大きく差が出るものですが、仕事は「生活を維持、向上するための手段」だと考える人も少なくありません。
生活が幸せの源泉であり、生活を豊かにするための仕事という位置付けです。そのため、あまり仕事に思い入れはなく、会社から求められたことに応えることによって、対価として給与をもらうという考えです。こういう仕方なく仕事をしており、会社にこだわりがない・・・という状況になるほど、テレワークによる「会社の求心力」が課題になります。また、他者との「差」が気になるのも、「なぜ自分がこの仕事をしているのか」という明確な指針がないために、隣の芝が青く見えてしまうのです。

・意思決定は経営層が行うもの
上記にも関連しますが、働き方や目的・目標を決めるのは社長・役員を中心とした会社の上層部であり、1人ひとりには意思決定する余地がありません。これは経営層が権限・裁量をメンバーに移譲できていないというだけでなく、メンバーも意思決定することを手放し、経営層に頼っているという側面もあります。意思決定には「情報」が必要です。現場の情報や専門知識を含めた「情報」があるから意思決定ができます。テレワークでコミュニケーションなどが課題になるのも、情報が流通しにくくなり、意思決定がやりにくくなるからです。

・管理しなければメンバーは活動できない
「人は善なれど弱し」という言葉もあるように、管理されないとサボるという考え方で、会社全体の仕組みが構築されていることが多いです。労働実態の把握や自己マネジメントが課題になるのも、管理が必要だという前提があるからこその課題です。


いかがでしょうか?
課題の背景にこのような前提があることを、皆さんはどれくらい認識されていましたか。

現在の社会変化を捉え、企業組織の成長につなげていくためには、課題に対応していくだけでなく、このような前提となる考え方自体を見直していく必要があります。

新型コロナウイルスの感染拡大による社会変化は、今まで当たり前とされてきた社会全体の前提を見直すきっかけを与えてくれているのかもしれません。


次に目指すべき組織モデル

ここからは、社会の前提となっている考え方をどのように変えていけばいいのかということを考えていきましょう。

企業組織が試練を乗り越えるために、どのように成長していくのかについてのヒントになれば嬉しいです。

さて、先ほど「課題の裏側にある前提を認識する」でご紹介した前提をみて、みなさんは何か気づかれましたか?

実は、この前提は前編でご紹介した組織モデルの順応型〜多元型に当てはまる考え方なんです。

前編で記載した通り、組織発達ステージは5つの段階に分けられますが、現在の日本の民間企業は「達成型組織-オレンジ-」が多いと言われています。次に多いのが「多元型組織ーグリーンー」です。

ですから、前段のような前提を持つことはなんら不思議ではありません。

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アインシュタインは「問題は、それが起こった時と同じ意識レベルでは解けない」という名言を残しています。

この名言から考えると、企業組織が今ぶつかっている課題を解くためには、組織モデルの段階を進化させる必要があります。

いよいよ「ティール組織」へと進化させていくタイミングがやってきたのかもしれません。

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ティール組織の概念で捉えると前提となる部分が大きく変わってきます。

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このように前提が変わると、今まで課題だったことが課題ではなくなります。
もちろん、前提が変わると同時に、実態も変わらなければ意味がありませんが、変化の方向性がなんとなく見えてきたのではないでしょうか。

組織モデルを進化させるということは「選択肢を増やす」ことにつながります。

「ティール組織」の著者であるフレデリック・ラルーは組織モデルの段階についてこのように記載しています。

ある段階がその前の段階よりも「良い」「優れている」と考え始めると面倒なことになる。むしろ、世界に対処するうえでの「より複雑な」方法だと解釈する方が有益だと思われる。

組織モデル進化させることで、今後起こりうる様々な出来事に対処することができる可能性が高まるということです。


進化に対するアンラーニングの勘違い

最後に、組織モデルの進化段階について、よくある勘違いについて解説しておきたいと思います。

組織モデルを進化させるときに限らず、何か変化を起こすときは『アンラーニング』しましょうとよく言われます。

アンラーニングとは一度学んだ内容を意識的に忘れ去り、再び学び直す「学びほぐし」のこと。

これは、現在持っている価値観や知識の枠組みから脱却しましょうという意味です。

組織モデルに当てはめると、今までは「ヒエラルキーを作り、上司が部下をしっかりと管理・評価する」という場合、それを行っているのは、その考えややり方が正しいor良いと思っているからです。

そこから変化するには、「正しいor良い」と思っていたことを、一度批判的に捉え、見直し、別の角度から考えることが必要です。

アンラーニングは「執着を手放す」と言い換えてもいいかもしれません。

今までこだわっていたやり方に固執せず、柔軟に他の選択肢を取れるようになるからです。

何が「勘違い」なのかというと、組織モデルの進化やアンラーニングの話をすると、「一つ前の組織モデルは捨て去る」というイメージを持つ方が多いのです。

これを組織モデルの進化段階に当てはめて図示すると以下のようになります。

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この図にしたがって考えると、達成型組織は順応型や衝動型の組織モデルが持つ行動様式を実行する能力も持っているということです。

ティール組織へと進化することで、これまで経てきた組織モデルの行動様式全てが選択肢となるのです。

ですから、ティール組織は通常トップダウンで意思決定をしませんが、会社の存続自体が脅かされるような危機発生時にはある種 衝動型-レッド-組織のように、危機意識を感化させたトップダウンの意思決定を行うこともあります。

書籍にも

セルフ・マネジメントを維持的に停止する必要が生じる場合はあるのかもれない。

という記述があり、実際にティール組織が行ったトップダウンの意思決定事例も載っています。


危機的な状況にある企業も多い中、すぐさまティール組織へ変化をすることは難しいかもしれませんが、今だからこそ、長期的な目線で前提となる考え方ら少しずつ変化を目指してはいかがでしょうか。

最後になりましたが、テレワークを機能させるコツを一言で言うと「世の中の見方や考え方そのものを捉え直すこと」ではないでしょうか。
捉え直して、改めて考えることで今までと全く違ったやり方も見つかるはずです。


GOB Incubation Partners株式会社
執行役員 CHO/CXO 岡田 佳奈美

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