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《サス経》 2023年は昭和最後の年に

 前回のメールマガジンはCOP28会期終了の直前に発行しました。化石燃料からの「段階的廃止」に合意することが絶望視される中でしたので、やや悲観的な予想をお送りしました。ところがその後、議長国のUAEが頑張り、会期を延長して化石燃料からの「脱却を進める」という微妙な表現で合意に持ち込みました。なんとかこのような合意に達したことはとても素晴らしいと思います。

 ただし、これが本当に実効的なものになるかどうかは予断を許しませんし、私たちがギリギリのところに追い込まれているという状況にも変わりはありません。それでも、その中に一条の光が差し込んできたとは言えるでしょう。このことについて詳しくはサステナブル・ブランド ジャパンのトップストーリーにも書きましたので、詳しくはぜひそちらをご覧ください。

■「COP28は歴史の変曲点か?――瀬戸際に立たされた気候変動対策、農業が大きな切り札に」(サステナブル・ブランド ジャパン)
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 つまり、世界は年末の休暇に入る前に何とかギリギリで宿題を提出できたようにも見えます。今回は今年最後のメールですので、もう少し詳しく、この2023年を振り返ってみたいと思います。

自然再生に大きく前進した2023年

 一年前の12月には生物多様性条約のCOP15が開催され、2030年、さらには2050年に向けた生物多様性世界枠組(GBF)が採択され、「ネイチャーポジティブ」が実質的な世界目標となりました。

 これを受けて始まった2023年は、自然を増やすことを目指す動きが、様々なところで始まった一年であったように思います。動きが大きかったのはEUで、森林破壊に関わっている可能性がある原料の使用を実質的に禁止するEUDR(EU森林破壊防止規則)を制定し、2024年12月30日から施行することを決めました。その他にも、生物多様性に関わるEUタクソノミーも承認され、来年からはCSRD(企業サステナビリティ報告指令)が動き出します。また自然再生法も何とか合意に達しました。(注:EU理事会と欧州議会が合意。)

 イギリスはネイチャーポジティブをストレートに実現すべく、開発において生物多様性ネットゲインを義務化する法律を春に成立させましたが、それが11月から施行されています。(後注:11月から施行の予定が2024年2月に遅延)また、世界最大の消費国である中国においても、いよいよ生物多様性などに配慮したサステナブル調達を目指し動き出したのも大きなニュースです。

 こうしたことは投資家が先導している部分も大きいのですが、9月にはTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)がついに最終提言を発表し、これに沿った情報開示を行おうとする企業が国内外で急増しています。また、TNFDほどは注目されていませんが、SBTNもSBTs for Nature(科学に基づく自然関連目標)ガイダンスのv1.0を発表しています。自社と自然の関係を科学的に分析して情報開示をしたり、目標を設定をすることが必要な時代が始まったのです。もちろん投資家はそれを見て企業を選ぶようになるでしょう。

 また自然をこれ以上破壊しないようにということで、欧州を中心に使い捨てのプラスチックの販売を禁止する国が増え、企業は容器包装でも脱プラスティックを進めています。これまでのようなビジネスのやり方はもうできない時代になったと言えるでしょう。

 つまり自然をこれ以上傷つけない、そしてなるべく再生していく、そういう方向に大きくドライブがかかり、企業も動き始めた年であったと言えるのでないでしょうか。ただし、冒頭に述べた気候変動の場合と同様に、自然の破壊も速度を緩める程度では問題解決になりません。2030年までには今の流れを止めるのではなく、反転させなくてはいけないのです。そういう高い目標から比べると、まだまだスタートしたばかりです。

不祥事が続いた日本

 それでは日本国内のサステナビリティに関する動きはどうだったでしょうか。生物多様性について言えば、企業の関心は確実に高まっていますが、実際の行動はまだこれからのようです。それよりも気になるのは、様々な不祥事が続くことです。声高に叫んでいたガバナンスはどこに行ってしまったのかと思うほどです。

 つい先日、ダイハツの不祥事に関する第三者報告書が発表されました。問題は企業体質が原因となっていることを強く示すもので深刻でしたが、同時に、これは自社にも当てはまるとの声が様々なところから聞かれました。そしてダイハツだけの特殊な問題ではなく、多くの日本企業に共通する問題なのだとすれば、事態はより深刻です。

 考えるにこれは、この30年間に付加価値を高めることができずに、コストカットばかり求めてきたこと、その歪みの集積が真の原因と言えるのではないでしょうか。大変悲しい状況ですが、問題はここからきちんと方向転換ができるかです。

 これまではコストカットをして価格で競争するという安易かつ持続可能ではない方法に頼ることが多くの企業で行われ、またそれが長いデフレ経済を産んで来ました。そうではなく、努力は付加価値を高めるために行い、そのことで企業にとっても、働く人にとってもゆとりが生まれること目指す。今こそ、そういう方向転換をする必要があるでしょう。それができれば、こうした不祥事も、結果的には良いきっかけにすることができます。

 そう言えば、政治の世界でも不祥事が続いています。腹立たしいやら、情けないやらですが、長らく続いた裏金の問題にようやくメスが入ったという意味では良いことです。もちろんこれがまたうやむやになっては困ります。これまでの違法なやり方は今後は一切通用しないという転換点になって欲しいと思います。

昭和は今年で卒業

 これは、気候変動や生物多様性の問題とも同じです。今までの持続不可能なやり方から、持続可能なやり方に方向転換する。今年がそのきっかけの年であったと受け止めたいと思います。そしてまもなくやって来る2024年は、昭和99年にあたります。もういい加減に昭和は卒業し、次の時代に進む一年にしたいものです。

 日本でも来年が本格的な再生(リジェネレーション)の年になるよう、そして何より、皆様が素晴らしい年をお迎えるになることをお祈りしています。

 サステナブル経営アドバイザー 足立直樹

※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)482(2023年12月27日発行)からの転載です。

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