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掌編小説集

9
雨宿り的な
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2019年8月の記事一覧

【掌編小説】 シュガートレイン

【掌編小説】 シュガートレイン

シュガートレインが渚を走る。
ジョイント音を立てて、黒煙を上げて、刈り込んだばかりのサトウキビをのせて走る。

シュガートレインは村々にあるサトウキビの集積場をまわっている。サトウキビを積んだ貨車を拾って、製糖工場まで引いていく。

三人の少年たちが、龍のように長くなって走るシュガートレインを追いかけている。
機関士のおじぃが、汽笛を鳴らして彼らを威嚇する。

少年たちがシュガートレインの貨車に飛

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【掌編小説】 傘かしげ

【掌編小説】 傘かしげ

「手入れしなくても咲くんだ……」

 窓から庭のクチナシを眺めながら、私は思わずそう独り言を呟いた。

 雨が降っている。いつの間にか沢山の花をつけた庭のクチナシに雨が当たって、花びらがまるで、タンバリンのシンバルのように揺れている。窓を開けたら、やかましい音が聴こえてきそうだなと思った。

「翠雨《すいう》だ。翠雨」と私はまた独り言を呟いた。

 夏の初め、青葉に降る雨のことを翠雨という。庭の光

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【掌編小説】 掃除しない清掃員

【掌編小説】 掃除しない清掃員

 その細い遊歩道には、せせらぎと、清掃員の口笛が流れている。

 歩道と小川は曲がりくねっていて、それらが交差する場所には、飛び石、または可愛らしい太鼓橋が架かっている。小川にはメダカやドジョウが泳いでいて、そしてその小川の下流には、大きなサガリバナの木が一本立っている。サガリバナの木のその佇まいは、休息を取っているようにも、あるいは恋人が来なくて待ちぼうけているようにも見える。

 サガリバナの

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