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【掌編小説】 掃除しない清掃員

 その細い遊歩道には、せせらぎと、清掃員の口笛が流れている。

 歩道と小川は曲がりくねっていて、それらが交差する場所には、飛び石、または可愛らしい太鼓橋が架かっている。小川にはメダカやドジョウが泳いでいて、そしてその小川の下流には、大きなサガリバナの木が一本立っている。サガリバナの木のその佇まいは、休息を取っているようにも、あるいは恋人が来なくて待ちぼうけているようにも見える。

 サガリバナの花は一夜だけ咲く。流れの緩やかな小川の水面に、昨夜咲いたサガリバナの花がいっぱい浮かんでいる。そしてサガリバナの木の周り一帯には、その花の甘い残り香が漂っている。

 清掃員のおじさんは虫取り網を手にしている。彼は雨宿り中のイソヒヨドリのように口笛を吹きながら、小川のごみを掬い取っている。

 若い女性が、サガリバナの樹冠《じゅかん》の下の石椅子に腰掛けて読書をしている。清掃員のおじさんに気づいたその若い女性は、彼と軽い挨拶を交わす。

 しばらくして、清掃員のおじさんが掃除道具をまとめる。そうして彼は、サガリバナの樹冠の下の若い女性と会釈を交わすと、遊歩道を後にする。

 若い女性が小川に目をやる。水面に浮かぶ沢山のサガリバナの花を見て、彼女は口笛を吹く。

〈了〉

表紙は、写真AC「nobezi」さんの作品です。