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英検5級ドイツ語未履修でも頑張れば読めるドイツ軍火砲の型番

アハト・アハトをご存知でしょうか?
ご存知ドイツ軍の8.8cmFlak対空砲です。
ではFlakとは何の略かご存知でしょうか?
Flug abwehr kanone 和訳すれば「飛行機防御大砲」即ち「対空砲」です。略してFlakです。

 どうも徒華新書です。
 本日のミリしら(ミリタリー実は知らない話)です。
 @adabanasinsyo
 本日は北条岳人がお送り致します。
 @adabana_gakuto

 では、次の砲は読めますか?
 以下に挙げる砲はいったいどういう砲なのか説明できますか?

1)7.5cm Pak40
2)10.5cm leFH18
3)15cm sIG33
4)8.8cm Flak41
5)21cm K12(E)
6)7.62cm Pak36(r)
7)8cm PAW600
8)7.5cm KwK40 L/48

 「全部読めるしどんな砲なのか説明できるが?これくらい常識だろ?」という人には、今回の記事は必要ありません。
 今週はお休みだったと思っておいてください。
 いや小ネタだけ入れてあるんで、それだけは見てほしいかも。

 読めなかった人、安心してください。今回はそういう記事です!

 今回はドイツ軍の火砲の分類記号の読み方についてお届けします。これを読めるようになっておけば、突然KwKだのなんだの書き連ねられても尻込みしなくて済みます。
 筆者は英検5級、しかもドイツ語に至っては完全に未履修なので、そんな人間でも火砲の分類記号だけはある程度読めるようになるかと思います。

本日のお品書きです。


0.前提 カノン?榴弾砲?

 前提共有のために、カノン砲と榴弾砲の違いを見ていきます。

 現時点で火砲に特段の興味関心がなく、また戦車などの火砲近隣領域にもない場合は、カノン砲と榴弾砲のおよその特性の違いを知るためだけになにか本を買うのはコスパが悪いと感じるかもしれません。
 そのため、MSペイントで一般論レベルでのカノン砲と榴弾砲の違いについて記してみました。

一般論レベルでのカノン砲と榴弾砲の違い

 ウィキペディアの記事では「40口径以上ならカノン砲、それ以下なら榴弾砲」という砲身の長さでの定義もあるんですけれど、それでは特徴に対して何の説明にもなっていません。
 それに、「そう!昔は曲射用の榴弾砲と平射用のカノン砲で分かれてたけど技術の進化によってカノン砲でも曲射が理論上できるようになったから用途での区別ができなくなっちゃってさぁ!」と述べられるようなら、そもそも説明が必要ありません。蒲魚ぶってるんじゃあない、ってやつです。
なので、一般論レベルでの特徴にフォーカスしてカノン砲と榴弾砲の違いを説明します。

 一般論レベルで言えば、カノン砲は榴弾砲より長い砲身を持っていて、それ故に高初速・長射程・高貫通の砲撃を繰り出すことができます。

 カノン砲は榴弾(炸裂弾)が産声を上げる前からこの世にありました。砲弾が爆発しない頃の砲兵のお仕事は、ボウリングの球みてえな鉄球(爆発しない)を撃ち込んで敵兵をボウリングのように薙ぎ倒したり、あるいは船や建物、たとえば城壁をぶっ壊すことでした(一応、近距離用の砲弾であるぶどう弾やキャニスター弾などの散弾を撃つこともあるが、いずれにしても爆発はしない)。
 砲弾が爆発しないということは、威力を上げるには砲弾をでかく重くするか、砲身を長くして大量の装薬を使い爆速でぶつけるかのどちらかしかない訳です
 同じ砲口径、たとえば15cmという大きさであっても、15cm榴弾砲に比べて15cmカノン砲は口径長が大きい、つまり砲身が長い。砲身が長いからより大きな初速が出せる。だから弾道が山なりではなく直線的になる。そして重くなる。これが榴弾砲と比較した時のカノン砲の特徴です。

 カノン砲が高初速・長射程・低伸弾道・高貫通・大重量と言われるのはこの頃の名残といえば名残と言えるかもしれません。

 そしてこれこそが、対戦車砲のPakや対空砲のFlakKカノンである理由です。
 高初速で弾道がまっすぐ伸びていくという特徴は、その分照準が簡単になるし命中精度も高まるのです。

 翻って、榴弾砲はカノン砲にはない特徴を持ってスタートしました。
カノン砲はある時期まで榴弾を撃つことができず*、『榴弾を撃ちたい』『でも実体弾も撃てたらいいなぁ』を両取りするために榴弾砲はこの世に誕生します。
*榴弾が誕生した頃には信管という上等な起爆装置がないので砲弾に導火線をつけて撃ち出すのだが、大量の装薬を使うカノン砲から発射しようものなら砲身の中で誘爆してしまうため。

 榴弾というのは実体弾ではなく爆発して危害を与える砲弾なので、わざわざ高初速、低い弾道で撃ち出す必要がありません。
 むしろ、敵の歩兵を効率よくなぎ倒すためには敵の頭の上で爆発してくれた方が、つまり弾道が低伸するより山なりである方が大変に都合がよくなります。そのため、カノン砲のような長砲身は不要となり、その結果カノン砲より軽くて製造も簡単になりました。
 また、カノン砲と比べて榴弾砲は装薬の量で飛距離や弾道を調整することができるのが特徴です。砲撃には『山なりな弾道それそのものが欲しい』というシーンがあります。それこそ、相手が遮蔽物の裏にいる時などはそうです。
カノン砲の低伸弾道では遮蔽物に引っかかってしまって射撃ができない!という時、榴弾砲の山なり高弾道なら遮蔽物の裏に砲弾をお届けできるのです。

 もし、あなたが戦争は分からないけどスプラトゥーンをやってる人であれば、直感的な説明ができます。
『スプラチャージャーは地形や遮蔽物を飛び越えた射撃ができないけど、バケットスロッシャーとかクイックボムなら飛び越えれるじゃん?』ということです。

 砲身が短いので初速が遅く、射程でもカノン砲には及ばず、また精密な射撃もあまり得意ではありませんが、その代わりに戦局に対して臨機応変な対応が可能である、それが榴弾砲の特徴です。
そしてそれこそが、歩兵支援用の火砲がleFHだったりsFHH榴弾砲である理由です。
 カノン砲は製造も大変で、しかも重いので輸送の時点で既に結構大変です。防御する側ならあまり問題ありませんが(実際カノン砲は大口径の要塞砲としてよく使われていた)ドイツ軍は機動する軍隊です。
 機動力を是とする軍隊にあって、カノン砲を野戦で使うのはなかなかに骨が折れることでした。そうでなくても、カノン砲は榴弾ほど多用途対応能力がある訳でもないですしね。

 ただ、ある時期からカノン砲でも榴弾が撃てたり山なり弾道の射撃も理論上不可能ではなくなってきた(榴弾の方はともかく、カノン砲での山なり射撃がコスパがいいかどうかは話が別)ため、カノン砲と榴弾砲の基準は曖昧なものになってきました
 そのため、冒頭で掲げたwikipediaの記載である
 「40口径以上ならカノン砲、それ以下なら榴弾砲」という、砲身の長さによる定義が生まれたのです。
 そして現代ともなると、カノン砲と榴弾砲の区別が(一部の国を除いて)もはやなくなっています。

1.ドイツ語未履修でも頑張れば読めるドイツ軍火砲 わかるところまで分解せよ!

 英語の授業で「スラッシュリーディング」という概念を習った人がいるかもしれません。スラッシュリーディングというのは、英文に「意味の区切り」ごとに線を引いて細分化するというものです。あるいは、英語に不慣れな中学一年目の英語では「慣れないうちは単語ごとに句切れ」と教えられるかもしれません、少なくとも私はそうだったような記憶があります。

 要は、まずそういうことをすればいいんです。

 基本的に、ドイツ軍の火砲の分類番号は
 X(cm)/前置詞/区分/Y(型番)/接尾語
 このように構成されています。

 7.5cm Pak40と10.5cm leFH18、そして7.62cm Pak36(r)を例に取ります。

 最初のXはいいですね、7.5や10.5は砲口径、つまり何cmの砲弾を発射する砲なのかということです。

 前置詞。Pak40とPak36(r)は「なし」、leFH18は「le」です。

 区分。ここはPakとFHです。

 Y、ここも今はいいでしょう。40と18と36。型番です。

 接尾語は(r)とか(E)みたいなものを指します。なので36(r)の(r)だけ、他ふたつはなしです。

 ドイツ軍火砲の分類番号を見たらとりあえず分解しましょう。それが理解のカギです。
 さて、前置詞や区分などをひとつずつ順番に見ていきましょう。

2.ドイツ語未履修でも頑張れば読めるドイツ軍火砲 また前置詞かよ?

 Xcm/前置詞←今ここ/区分/Y(型番)/接尾語

 次は前置詞を覚えます。前置詞は砲の特徴を付帯的に説明するものです。
とは言っても、身構える必要はありません。基本的にはsとleくらいです。

 sはschwereしゅゔぇーあ、重いということです。重があるのだから、当然その逆もあります。leはleichteらいひと、軽いです。

 但し『じゃあSが付いてればいついかなる場合でも重を意味するのか?』っていうと、そんなことはないです。「沿岸砲・艦砲」を意味するSK(SchiffsKanone)、または「速射砲」のSK(SchnelladeKanone)の場合のSもあるからです。
 とはいえ、前置詞としてのs、つまり重を意味するsは基本的に小文字表記されることが多いです。ドイツ軍の砲関連の洋書とかだとそうです。もし大文字だった場合……諦めて文脈で判断しましょう。

 なおこれが今の自分では本当に理解できないんですけど、尤も今理解できてないだけで理由はあるのかもしれないんですけど、
 sやleがつく基準は不明です。

 15cm野戦榴弾砲は15cm 「sFH」18だけど、同じでも15cmカノン砲は15cm 「K」18です。
 いやなんでだよ同じ15cmだろ???

 同じ15cmでもカノン砲にはsがつかない割には、10.5cm 「sK」18ってのもあるんです。
 なんで同じカノン砲の中で15が無印で10.5がsなんだよ??????
そしてそのくせに、榴弾砲には10.5cm leFH18というのもあります。
いやだからなんで10.5がsだったりleだったりするんだよ?????

 極めつけは、8cm迫撃砲は 「s」GrWなのに12cm迫撃砲はGrWなんです。

 正直、以下に挙げるものは単体で出てくることは稀なので、区分について述べる次節で固有名詞みたいな形で紹介してもいいような気はするんですが、
「スラッシュを引いて分解する」という意味において、PakのPaとか、KwKのKwなども一応、ここで説明しておきましょう。
『細分化した前置詞』として知っておけば、次節の区分も組み合わせとして理解できるようになるので解像度が上がりますし。

 FはFeld、英語のFieldに相当します。よって野戦用といった感じの意味でしょうか。Flaが対空、Paが対戦車(FlugabwehrとPanzerabwehr)。IがInfanterie、歩兵。KwがKampfwagen、戦車用。StuがSturm、突撃砲用です。

 なので、ここを踏まえておけば次節の区分が全く分からなくても、
『StuHは突撃砲用のStuだから、少なくとも突撃砲に載せるんだろう』
『PAW……?でもPaだから対戦車用のなにかなんじゃねえの……?』
という推測ができる訳なのです。

3.ドイツ語未履修でも頑張れば読めるドイツ軍火砲 What your role?

 Xcm/前置詞/区分←今ここ/Y(型番)/接尾語

 次は区分を見ます。区分さえ分かれば特殊な砲、例えば戦争末期に試作された少数生産の代物でもない限りは、その砲がどういう性質のものなのかがおおよそ推測できるようになります。

 HのHaubitze(はうびっつぇ)は要するに英語のHowizerなので榴弾砲です。野戦砲を意味するFeldHaubitzeや、10.5cm突撃榴弾砲やⅣ号突撃戦車に搭載された突撃榴弾砲StuH、SturmHaubitzeで使います。
すごくどうでもいいんですけれどHaubitzeって女性名詞らしいな。

 実際のところ一番よく見ると思われるのはKanone(かのーね)です。まあ、戦車の主砲であるKwK(KampfwagenKanone)、対戦車砲のPak、対空砲のFlak、突撃砲の主砲であるStuK(SturmKanone)でも使われています。めちゃくちゃ頻出の区分ですね。

 レアかつ、しかも面倒なのがGのGeschüz(げしゅっつ)です。この単語は英語のGunに相当するものです。
 結論から言うと――例えば「一般論では、長砲身で高初速で低弾道の砲はカノン砲である」のように、性質に着目した分類方法があるとして、
『どういう性質の砲がGに割り当てられているのか?』という点が、現時点のぼくでは説明できません。
 まあウィトゲンシュタイン曰く「語り得ぬものについては沈黙しなければならない」ので、分からないんだから仕方ないの精神で行きます。幸いなことに使用例は限定的で、歩兵砲のIG(Infanteriegeschütz)、山砲のGebG(Gebirgsgeschütz)、パラシュート部隊に配備された無反動砲のLG(Leichtgeschütze)くらいです。他の区分が組み合わせでも説明できるのに対して、Gは半ば固有名詞みたいな枠ですね。

 WのWerfer(ゔぇるふぁー)、投射機は、日本語訳としては意訳が多いのが特徴です。
 擲弾(Granate)を投射するからGranatwerfer、GrWで迫撃砲。
 煙幕(Nebel)を投射するからNbW、またはNWは煙幕投射機。……語義としては。実際にはロケット砲を指す言葉としても使われていますね。
 他にはRW、Raketenwerfer。ロケット砲弾投射機。シュトゥルムティーガーの主砲には38cm RW61が使われていますね(但しRWではなくStuM、SturmMörser。突撃臼砲と表記されることもある)。

 さて、一瞬だけ臼砲、Mörser(もーざー)の名前が出たところで、カール自走臼砲を思い出した人もいるかもしれません。
 確かにMörser Karlと記載されることもありますが、洋書ではKarl-Gerät(げれーと)と記載されることもあります。
 このGerätは本来的には機具とか、道具とか、装置という意味があります。例えばドイツ語では充電器はLadegerätと言います。
 つまり、Karl-gerätとは「特殊機材カール」みたいな意味合いになります。なんか秘匿名称っぽくなりますね。

4.ドイツ語未履修でも頑張れば読めるドイツ軍火砲 X = Twitter,Y = ?

 Xcm/前置詞/区分/Y(型番)←今ここ/接尾語

 7.5cmと書いてある時に5cmだったり12.8cmだったりする訳がないとして、二つ目の方はどうなんだ?という話になります。

 実はこれがかなり面倒くさいパターンです。
結論から言うと、各砲ごとにどのパターンだったか覚えなくちゃいけないからです。なので諦めてください。

 大まかに分けると、
・年式を表す場合
・マイナーチェンジを表す場合
・パーツを流用している場合
・車載型なので他と区別する場合
・?????(考えるだけ無駄)

 以上のパターンに分かれます。

 考えるだけ無駄パターン以外は、「基本的には」年式を関しています(列車砲は除きます。28cm K5(E)の5ってなんだよ……)。
但し、現代の工業製品ーーたとえば乗用車でも、「年式表記」と「実際に何年に世に出たか」が一致しないこともあるのですけれど。
(これは実は日本軍でもそうである。
 明治38年に採用されたから三八式歩兵銃、西暦1940=皇紀2600年に採用されたから零式艦上戦闘機というエピソードが有名な一方で、
 九六式軽機関銃は西暦1937=昭和12=皇紀2597年付の仮制式制定に関する文書がアジ歴にあることを鑑みると、皇紀2596年の時点では少なくとも本採用されてはいなかったのだと思われる。)

 例えば5cm Pak38はその名の通り1938年に開発され、39年から生産が始まっています(製造数の問題から部隊配備は40年から。)
また、ソ連からの鹵獲砲である7.62cm Pak36(r)も、元の名前であるF-22は確かに36年に開発されています。
 この2つを具体例に、年式表記と開発年などが一致している例があります。
 但し、ソ連がF-22を改修したF-22USVという野戦砲があり、これには7.62cm Pak39(r)という別の鹵獲名称をわざわざつけているのに、
途中で面倒くさくなったのか39rを36rとして備蓄数にカウントしています。わざわざ別の名前つけて別の砲として統計取り始めたんなら最後までやり切れや!

 一方で、例えば7.5cm Pak40は開発計画そのものがスタートしたのは39年、一度停滞した開発が独ソ戦が始まった41年から本格化し、製造開始は42年です。でも40という名前がつけられています。
また、このPak40を車載化した7.5cm KwK40やStuK40も、同じく登場したのは42年ですが40を名乗っています。
 このように、開発年や採用ないし製造年ではない数字を年式として冠する例もあるのです。
 なので、ここに関しては残念ながら砲ごとにどうだったのかを覚えていただくしかありません。

 実際、ここの年式表記を間違えると全く別の砲になる場合があります。例えば同じ7.5cm KwKでも37と40と42の3パターンがあります。これをごっちゃにすると、Ⅳ号戦車前期型の短砲身榴弾砲、F2以降の後期型の長砲身戦車砲、Ⅴ号戦車パンターの主砲と、全く別物になってしまいます。

 とはいえ、「ごっちゃにしてはいけないものだけは優先して覚えとく」くらいでもいいです。だって徳川将軍15人全員の名前と在位期間を覚えてなくても、日本史の問題はある程度解けるじゃないですか。

 一方で、明確に異なる年式をつけられているものもあります。その最たる例が、8.8cm Flak18や15cm sFH18などのような「不正確18族」です。
 Flak18が採用されたのは1928年、sFH18に至っては1926年頃に開発開始、30年頃に開発終了、1934年から生産されていますから、年式を考えるならそれぞれFlak28とか、sFH26なり30なり34、せめてそれらの前後年でなければならないはずです。にも拘わらず、こいつらはいったいぜんたいどうして18年式を名乗っているのでしょうか。
「は?こいつらは第一次大戦終結前に作られたお古だが?」という総統大本営発表をぶちかましてヴェルサイユ条約の軍備制限をかわすためです。

 以下の三つはy/zのように数字が二つあった場合のパターンです。
まず「マイナーチェンジ」パターン。これの代表例は3.7cm Pak35/36です。34年に開発、36年から配備が始まったこの対戦車砲は、当初は前身である3.7cm Tak28同様に木製タイヤでしたが、金属製の車輪と空気入りタイヤを装備するように改良されて以降は自動車での牽引もできるようになりました。

Balcer~commonswiki - 投稿者自身による著作物, CC 表示 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=820703による

 次に「パーツの流用」パターンです。代表例は7.5cm Pak97/38と8.8cm Pak43/41です。

 7.5cm Pak97/38は、元々はフランスで1898年に採用された7.5cm野戦砲、Canon de 75 Modèle 1897という名前でした。
 この第一次大戦以前製の野戦砲が第二次大戦でもフランス軍によって使われ(引っ張り出され)、それがドイツ軍に鹵獲され、T-34中戦車やKV-1重戦車との交戦を経て「7.5cm砲が絶対に必要」「7.5あれば倒せる」という話になり、対戦車砲に改造されることとなりました。この時、パーツの一部を5cm Pak38のものに換装したため97/38の名前を冠することとなったのです。

Balcer~commonswiki - 投稿者自身による著作物, CC 表示 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=890217による

 8.8cm Pak43/41もパーツの流用です。43年から製造が始まった8.8cm Pak43は全周射撃が可能かつ正面投影面積も小さかったのですが、それを可能にする十字型砲架の製造コストが高く、一時的に十字型砲架の製造が追いつかない事態となりました。そこで製造コストを下げるために、10.5cm leFH18や15cm sFH18などのパーツを流用したり改造して用いることによって、Pak43の製造が安定するまでのつなぎとしてPak43/41が並行生産されることとなりました(43/41は火力は同じだが十字型砲架ではないため全周射撃は不可能)。

手前が43/41、奥が43。Mark Pellegrini - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2783842による

 「車載型」パターンは基本的に駆逐戦車などに載っているのがそうなのですが、先の8.8cm Pak43及び43/41をベースにした8.8cm Pak43/1から43/3までを具体例としてあげましょう。

 43/1は対戦車自走砲ホルニッセ(後に総統命令によりナースホルンに改名)に搭載された、Pak43/41をベースとした砲です。

ナースホルン

 43/2と43/3はPak43をベースとしており、それぞれ重突撃砲フェルディナント(後にエレファントに改名)と駆逐戦車ヤークトパンターに搭載されました。


フェルディナント


ヤークトパンター

 これら「車載型」の砲は車載を前提にした調整をベースとなる砲に施したものであり、場合によっては微改良をも含むものでした。

 最後に、「考えるだけ無駄」パターンというのがあります。これは本当にどこからその数字が出てきたのかが読み解けない、法則性の有無も不明、よって考えるだけ無駄というものです。基本的にこれらは鹵獲兵器や試作・少数生産兵器に多く、洋書の中ですらもほとんど情報がないものも多いです。
『ドイツ軍は鹵獲戦車には700番台を振る』という話を聞き、せめて鹵獲砲にはなにか法則性が見出だせないか洋書の鹵獲砲一覧のページを見てみたのですが、結局「なさそう」ということしか分かりませんでした。
例えば、確かに対戦車砲は100番台に集中しているものの、対戦車砲ではない100番台の砲もあるので、『鹵獲戦車→700番台』のような明確な構図を示せないのです。

 では、「お待ちかねの」具体例を出していきましょうか。待ちきれないでしょう?2.5cm Pak113(f)、4.5cm Pak184(r)、8cm PAW600などです。
Pak113(f)と184(r)は後に述べるように接尾語がついていることから鹵獲兵器であることが分かります。PAW600はPanzerabwehrwerferなので対戦車擲弾投射機です。44年末から製造された兵器なのですが、現代のグレネードランチャーと同じ原理で動く滑腔砲で、安定翼がついたこの砲専用の成形炸薬弾も開発されていました。命中精度は低く射程も短かったそうですが、回転を与えずに撃ち出すのが成形炸薬弾にとっては最適であるため、もしこの砲が大量製造大量配備されていたら……みたいな思考実験に供される場合もあります。

5,ドイツ語未履修でも頑張れば読めるドイツ軍火砲 お嬢ちゃん接尾語何……?

 最後に、接尾語です。とはいえ、そんなに多くはありません。
M、これはマズルブレーキ装備であることを意味します。とはいえ、こいつはかなりレアな接尾語です。15cm sFH18と10.5cm leFH18くらいでしか見ません。
 (i)、(f)、(p)、(r)、(ö)、(t)、(e)、(a)などの丸括弧とアルファベットのパターンは他国製であることを意味します。そこから転じて鹵獲ないし接収した兵器であるということです。いま挙げたものの内訳は以下の通りです。

 このあたりは砲なり戦車なり銃火器で比較的見るものですが、レアなものになるとベルギーの(b)、デンマークの(d)、オランダの(h)、ユーゴスラビアの(j)まであります。

 (E)が大文字の場合、これは英国の兵器ではなく Eisenbahnlafette、列車砲を意味します。

 稀に、L/43のような表記がしてある場合があります。Ⅳ号戦車の主砲である7.5cm KwK40はL/43とL/48があるので、分けるために書かれることがあります。じゃあこれはなんなのかというと砲身長を表す口径長、「◯◯口径xcm砲」の◯◯にあたる部分です。この◯◯がでかい方が砲身が長く、その分高初速や長射程が得られます。

 海軍管轄の砲ーー例えば艦砲ないし速射砲のSKなどに見られるC/34やC/36という表記はまた別で、この年設計という意味になります。
これらの砲は区分の後に突然C/34などと来るので面食らいますが、要するに接尾語で年式を書いてるんだろ?と思ってくださればいいです。

6.ドイツ語未履修でも頑張れば読めるドイツ軍火砲 ね?

 ここまで耐えられた人は、冒頭の質問が(年式部分はともかく)わかったと思います。即ち、

 なので、ドイツ軍の火砲は他国の火砲と違って分類番号を見ただけで概ねの役割が推測できるというのが利点です。

 言うまでもなく、今回紹介したのは一般論での話です。故に、当然例外もあります。
 例えば7.5cm RFK43という、極めてやべー例外があります。RFK……!?KはKanoneのKだとしてもRFだぁ……!?

  こいつは、Ruckstoss(英語のRecoil、反動)Frei(英語のFree、「バリアフリー」のように直前の言葉を打ち消すFree)KanoneでRFK、無反動砲です。
 「う、うーん……。ともかくも、こいつは無反動砲なんだったら、LGと同じく空挺降下猟兵に回されたのかな……?」って思いました? 残念ながらこいつは成形炸薬弾を発射するので、ロールとしてはむしろ対戦車砲の部類ですね。
 わかるかぁ!!!!!!!!!

 こういう極端な例外を除いては、こんな記事に最後までお付き合いしてくださった皆様なら読めるようになったと思います。 ドイツ軍への理解を深めていきましょうね。
 また、火砲のことに興味が湧きましたら、火砲本編纂委員会「基礎から始める大砲のおはなし」も探してみてください。火砲の専門でもないこの記事より、もっと詳しく、ためになることが書いてありますので。

 我々ミリしらは隔週連載にてミリタリーの実は知らない話をお届けする予定です。少しでもご興味ありましたら、noteやTwitterのフォローよろしくお願いします。

 何か一つでも実は知らない話があれば幸甚です。
 最後にスキのワンクリックが本当に励みになります。
 引き続きミリしらを応援をよろしくお願いします。

参考文献
Alexander Lüdeke 「 German heavy artillery guns 1933-1945 」( Pen & Sword books limited,2015 年)
Ian V.Hogg 「 German artillery of world war two 」( Frontline books,2013 年)
JagdChiha 、 FHSWman 編著「基礎から始める大砲のおはなし」(火砲本編纂委員会、 2019年)
ピーター・チェンバレン、ヒラリー・ドイル著・富岡吉勝翻訳監修「ジャーマンタンクス」(大日本絵画、 1993 年)
german mortors(アーカイブ)<https://web.archive.org/web/20070217212920/http://www.efour4ever.com/mortars_german.htm>
sGW34(アーカイブ)<https://web.archive.org/web/20070217212920/http://www.efour4ever.com/mortars_german.htm>
九六式軽機関銃外3点仮制式制定の件<https://www.jacar.archives.go.jp/aj/meta/listPhoto?LANG=default&BID=F2006090102281531690&ID=M2006090102281931741&REFCODE=C01001629700>


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