普通科って何?ーー「即応機動連隊」自衛隊のエリート、戦略展開部隊の運用と編成
どうもミリタリーサークル
『徒華新書』です。
本日のミリしら(ミリタリー実は知らない話)です。
@adabanasinsyo
本日は久保智樹がお送りします。
@adabana_kubo
きな臭い東アジア情勢の最前線に投入される自衛隊の部隊「即応機動連隊」。これが分かると自衛隊が有事にどう立ち向かう予定なのかが見えてきます。
ということで本日のお品書きです。
そもそも普通ってなに?
noteらしく心のお悩み相談。
などというわけはなくいつものミリタリーの話です。
本日のテーマは「即応機動連隊」という普通じゃない連隊です。
この連隊は近年の国際情勢の緊張に対応するために陸上自衛隊が組織した部隊です。有事に対応できるように、そこにはこれまでにない特徴が多数あります。
代表的なところで言えば16式機動戦闘車を持っていることでしょう。
ただそもそも普通の部隊がどんなものなのかがわからないと、この即応機動連隊の凄さは見えてきません。
ということでまずは普通の自衛隊部隊のお話から始めます。
陸上自衛隊は歩兵部隊を「普通科」と呼びます。
戦後に軍事色を消そうとした名残です。
同様に戦車を「特車」と言い換えたこともありますが、今は戦車と堂々と呼んでいます。
ただし、工兵は「施設科」・砲兵は「特科」(なので対空砲兵は高射特科)などと言い換えは今も残っています。
そんな自衛隊の標準的な歩兵部隊「普通科師団」は次のような編成です。
3つの普通科歩兵連隊と、その他諸兵科部隊で構成されています。
そもそも師団とは「自前で補給できる」戦略単位とよく言われます。
自衛隊においても各地域を守る「方面隊」の下に師団や旅団が組み込まれ日本の津々浦々に睨みを利かせています。
この師団というのは優れもので、普通科歩兵もいれば偵察や施設、通信などもいるためこれを組み合わせて、「師団として」どのような任務もこなせます。
実際には、師団長は師団の普通科連隊に補助部隊を与えて「戦闘団」を編成して戦います。
戦闘団を編成することの利点は、普通科にその時々で必要な能力を得て強力に任務を推し進められることにあります。
例えば渡河するなら施設科が橋を架ける、突破するなら偵察科が前方を偵察するなど、適宜普通科が必要な戦闘能力を発揮できるように柔軟かつ効果的に部隊を組み合わせるのがキモです。これを諸兵科連合とも呼びます。
ここで抑えるべきことは、通常の普通科師団は連隊に師団の戦力を与えた戦闘団を編成し諸兵科連合部隊として初めてその本領を発揮できるということです。
じゃあ普通の連隊ってなに?
普通科師団のお話をしました。
ところで今回のテーマはしつこいですが「即応機動連隊」です。
ということは、普通の連隊を知らないとその違いがつかめません。
なので簡単に普通の連隊の話をします。
そもそもここまで当たり前に「連隊」という単語を使いましたが、連隊とは師団より歴史が長く、近世のヨーロッパにおける軍の中核でした。
イギリスの歴史学者ジョン・キーガンの見方はおもしろいものです。
キーガンの分析は連隊に対する一つ示唆的なものでしょう。
連隊とは軍隊の中核的な部分として多くの国で扱われています。
自衛隊の場合も、帝国陸軍からの伝統が色濃く受け継がれているのが連隊です。
そして普通科連隊こそが先に述べた「戦闘団」の基幹でもあります。
そんな連隊の編成は次のようになります。
連隊の下には5個中隊と、120㎜迫撃砲を装備した重迫撃砲中隊の6個中隊で出来ています。
ミリタリーに親しんだ方はこう思うかもしれません。
師団 → 連隊 → 大隊 → 中隊
が一般的な仕組みなのではということです。
そう、自衛隊の普通科連隊は実は大隊を持っていないという変わった編成なのです。
これには理由があります。
冷戦時代、核戦争になった場合に部隊は分散していた方が生存性が高いということで、より細かい単位で運用しようという「ペントミック編成」というアイデアがアメリカが生まれました。
戦後間もない自衛隊は創設に当たりこのアイデアを取り入れ、今日までその仕組みを維持しています。
ところが当のアメリカは連隊の下に「大隊」を復活させており、自衛隊は世にも珍しい現在でもペントミック編成に基づく、大隊なき連隊となっています。
ペントミックの話は雑学くらいに思っておいてください。
とりあえず自衛隊の普通科連隊6個中隊で出来ていることだけ抑えておいてください。
普通の連隊と即応機動連隊って何が違うの?
さて整理しましょう。
普通の部隊とは何か。
・普通科歩兵師団は3個連隊と補助部隊で構成される。
・普通科歩兵師団は戦闘団によって戦闘力を発揮する。
・戦闘団とは諸兵科連合部隊である。
・その普通科連隊は6個中隊で構成される。
では改めて「即応機動連隊」の編成を見て見ましょう。
普通じゃない!!
という感想が持てたらここまでの話を理解できています。
ピンとこない人は ↓ と見比べてみてください。
同じ「連隊」です。
だけど「即応機動連隊」はどう見てもデカイです。
順番に特徴を見ていきましょう。
まず普通科中隊の数は6個から3個に減っています。
ただし即応機動連隊の普通科は通常の連隊より強力です。
なぜならすべての小隊が96式装輪装甲車をに乗っているからです。
通常の普通科中隊は基本は軽装甲機動車を装備する部隊です。
40㎜グレネードランチャ―を装備した高い火力を有し、より高い防御力と機動性を発揮できる96式装輪装甲車に乗り込んで戦うのが即応機動連隊の普通科中隊です。
火力支援中隊は普通科連隊の重迫撃砲中隊と一緒なので割愛します。
次いで最大の特徴。
即応機動連隊の残りの2個中隊は機動戦闘車中隊です。
105㎜ライフル砲を装備した重装甲の戦闘車。
これが普通科中隊と行動を共にするのが即応機動連隊の特徴です。
戦車以外との戦いでは即応機動連隊は敵なしの部隊です。
そして最後の特徴は「本部管理中隊」の存在です。
この中隊の下には各種補助部隊が付随しています。
これは本当にすごいことです。
なぜだって??
思い出して下さい。
普通科歩兵師団は補助部隊と普通科連隊を組み合わせた諸兵科連合部隊の「戦闘団」で戦闘力を発揮すると話しました。
それに対して即応機動連隊は師団に頼らなくても、普通科中隊と本部管理中隊の各種小隊を組み合わせて「連隊だけで」諸兵科連合の戦闘団を組めるのです。
まとめます。
普通の師団は有事が発生したとして、師団全体に動員をかけて、戦闘団を作り前線に送り込むという段取りです。
それに対して即応機動連隊は編成段階で強力な諸兵科連合戦闘団なのでそれだけで効率よく戦闘力が発揮できる集団なのです。即応機動連隊をそのまま送り込むだけで有事に対応できる。しかも96式装輪装甲車や16式機動戦闘車を装備しているのでより火力も高い。何と都合のいい編成でしょう。
しかもですよ、96式装輪装甲車なら2両、16式機動戦闘車なら1両がC2輸送機に乗せられます。
そう、この強力な即応機動連隊は有事となれば「空から」現地に緊急展開することさえ可能なのです。
即応機動連隊の創設理由と任務
さて、即応機動連隊とは何かということはご理解いただけたかと思います。ではなぜこのような部隊が誕生したのでしょうか。
ここからはその歴史を振り返っていきます。
即応機動連隊の構想は「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」所謂25大綱で示されました。
防衛大綱とは、自衛隊の基本的な在り方を定めた文書です。
この25年大綱において「統合機動防衛力」が打ち出されました。
その具体化をしたのが平成26年度「中期防衛計画」です。
このなかで自衛隊の15の師団・旅団のうち、7個を機動戦力とする構想でした。
その先駆けとして、師団の一部連隊をまず「即応機動連隊」化が行われました。この時期他にも、島嶼奪還作戦のための「水陸機動団」の整備などが行われました。
これらの変更は「南方シフト」と呼ばれるそれまでソ連を仮想的とした北方重視から台頭する中国に対応するためのものでした。
そして実際に現在即応機動連隊化されたのは6個連隊です。
北部方面隊
・第2師団ー第3即応連隊
・第5師団ー第6即応連隊
・第11旅団ー第10即応連隊
東北方面隊
・第6師団ー第22即応連隊
西部方面隊
・第8師団ー第42即応連隊
中部方面隊
・第14旅団ー第15即応連隊
即応連隊化された部隊が北海道を防衛する北部方面隊に多い点からもこの特徴は見て取れます。
南方有事になれば、北方の3個即応連隊を速やかに展開させることが自衛隊の構想なのでしょう。
逆に南西諸島有事においてその正面に立つ西部方面隊は以外にも第8師団の1個連隊以外は通常編成となっています。
これは、西部方面隊が初動の対応よりもむしろ即応連隊の展開後に送り込まれる本格的な増援としての役割が重視されていることの表れと考えられます。
実際のオペレーションで考えて見ましょう。
ここでは西部方面隊の第8師団を例にとります。
島嶼防衛の第一波攻撃には第8師団の「奄美警備隊」が当たることが想定されます。
この部隊が持ちこたえている間に、第42即応連隊がC-2輸送機や船舶を用いて緊急展開します。
次いで、第8師団本隊の残りの2個連隊が上陸します。
これでもなお状況が打破できない場合には西部方面隊の第4師団や西部方面戦車隊などの増援を実施するといった構想だと想定できるでしょう。
また島嶼が仮に奪取された場合には次のようなオペレーションとなります。
即応機動連隊の任務は軽量な警備隊や水陸機動団と重量な師団の間の展開の時間的なギャップを埋める任務であると考えていいでしょう。
即応機動連隊の若干の課題についての考察
さてここまで即応機動連隊の特徴を整理してきました。
そのうえで個人的な若干の懸念点をまとめて終わりにします。
ここの考察は筆者の個人的な考察であるため、話半分に読んでください。
1.即応機動連隊の輸送問題
即応機動連隊はC-2輸送機で展開可能と説明しました。
ところでC-2輸送機の調達数は2023年現在19機です。
では即応機動連隊の空中機動展開に何機必要なのでしょうか。
普通科小隊1個に1機でこれが3個で中隊分3機。
3個中隊のため普通科の輸送に9機。
機動戦闘車中隊に7両でこれが2個中隊で14機。
本部管理中隊については推定ですが、重装備もあるため3~4機。
ざっと25機は必要な計算となります。
現在保有するC-2輸送機をすべてつぎ込むこととなり実は部隊編成は完了したもののその輸送となると結構カツカツなのです。
2.師団戦力のばらつき問題
25大綱の中では7個機動師団・旅団という構想でした。
しかし現状は師団レベルで機動編成となっている部隊はありません。
各師団の中に即応機動連隊が編成されています。
ここに師団長の視点から問題が浮かび上がります。
というのも、即応機動連隊の利点ばかり強調しましたがこの部隊は機動展開のために300人程度の小型の部隊なのです。通常の連隊は800人程度なのと比べるとそのスケールの小ささが目立ちます。
さて、師団長の視点からはどの連隊を送り込んでも任務が達成できるのが理想的です。しかし、ある連隊は師団で戦闘団編成にして投入する必要があり、もう一方はすでに戦闘団となっているが規模は小さい。
こうなってくると師団としての統合された戦闘力は不安定になります。
もちろん、通常の2個連隊を主力として、機動力と火力のある即応機動連隊を戦略予備にするなど運用上の創意工夫で対処できる面もあるでしょうが、即応機動連隊については各師団配備から、本来の機動師団構想に立ち返って運用を考えてもいいのかもしれません。
とまぁ素人の考察なので分析に誤りがある点など見つけたらコメントしてくれると大変うれしいです。
おわりにかえて
自衛隊の南西諸島有事の一番槍である「即応機動連隊」。
なんとなく理解いただけたでしょうか。
そうだと嬉しいです。
完全に余談なのですが、先週の次回予告ではガッツリとソ連をやると宣言していたのですが、なぜか自衛隊です。
理由としては、筆者が風邪をひきましてどうも間に合わんぞとなったため急遽以前から構想していたネタを引っ張り出したという次第です。
とはいっても結構な自信作なので気に入ったら、スキを押してください。
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何か一つでも心に残ることがありましたら幸甚です。
最後までお読みいただきありがとうございます。
8/13追記
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