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戦車について知ろう!~番外 第一次大戦のドイツ軍戦車~

皆さま第一次大戦に於けるドイツ軍戦車はご存知でしょうか。
ご存知Sturmpanzerwagen A7Vしか実戦投入はされませんでした。
では、それ以外の戦車開発についてはどこまでご存知ですか?

どうもミリタリーサークル
『徒華新書』です。
@adabanasinsyo

今回は北条岳人がお送りします。
(@adabana_gakuto)

 前回記事では第一次大戦型戦車として「Mk.Ⅰ戦車」と「ルノーFT」について触れました。



ドイツ戦車がねえじゃねえか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
どけ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
俺はドイツ軍戦車の者だぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
Sturmpanzerwagen A7Vだけで知った気になってんじゃねえぞ!!!!!!!!!!

という訳で、「ドイツ軍戦車ってA7Vしかないんでしょ?(笑)」って思ってる奴がいるかもしれない(かもしれない運転)ので、そいつの横面はっ倒して『「ドイツ軍戦車黎明期も調べてみるとデザインや系譜的に結構面白いものがありますね」と言え!』と、ハートマン先任軍曹の顔をしながら迫るこの記事を作りました。


Sturmpanzerwagen A7V

 と、いうことで皆さん「当然」ご存知のA7Vから始めます。
皆さん「当然」ご存知のように、ドイツ軍上層部は戦車というものに対して懐疑的でした。
これは『イギリス軍は「陸上軍艦」のようなものを開発中らしい』、という情報を察知した時点でもそうですし、イギリス軍が戦車を世界で初めて実戦投入した1916年でもそうですし、戦車を大々的に投入するカンブレーの戦いが起こった1917年に至ってすらそうでした。
1つはやはり当時の技術水準からして、「戦車の機械的信頼性が低い」こと。もう1つは「エリート歩兵部隊、シュトゥルムトルッペンが一定の成功を収めたという純然たる現実がそこにある」ことです。

 とはいえ、そうは言っても敵戦車というのは歩兵にとって純然たる脅威以外のなにものでもない訳で、1916年9月15日のソンムの戦いでイギリス軍の戦車に出くわしたドイツ軍は対抗措置として戦車の開発を決意し、陸軍輸送局第7課が設置されます。
第7課は敵戦車の情報収集や対戦車戦術及び対戦車火器の検討、そして「我々が戦車を作るなら何が必要でどういうデザインにするか」を検討する部局でした。

 この第7課とダイムラーなどの有力企業によって11月13日にA7V委員会が設立され、ドイツ独自の戦車開発が始まります。こうして開発が始まったのがSturmpanzerwagen A7Vでした。ちなみにこのA7Vというのは第7課の略式表記です(Abteilung 7 Verkehrswesen。ないしAllegmeine-Kriegs-Department 7, Abteilung Verkehrswesenとか、一番長い表記ではAbteilung 7 Verkehrswesen des Allgemeinen Kriegsdepartements im Preußischen Kriegsministerium)。

 この戦車に求められたのは
・全地形に適応する
・幅1.5mの超壕性
・12kmの速度
・複数の機銃と速射砲での武装
・貨物や兵員輸送車としても利用できるような車体
とされていました。
A7Vのプロトタイプは17年4月30日に試験に臨み、5月には採用されました。その後しばらく試験や設計変更などを経て、9月には試作車が1台製造され、10月からは量産も始まった……のですが……

車体番号563❝ヴォータン❞号のレプリカ。1台1台に名前がつけられている。「グレートヒェン」「ファウスト」「シュナック」「メフィスト」「サイクロップ」「ヘラクレス」「エルフリーデ」「アルターフリッツ」など。

 確かに搭載した5.7cm速射砲は火力支援だけでなく対戦車戦闘の実績もあり、その意味では『後発』戦車としては適した装備ではありました。
しかし、前後一門ずつを予定していたのが結局前方一門しか搭載できなかったのがケチのつけ始めで、A7Vはあまりにも多くの問題点を抱えていました。
 まず背が高い。これは当然被弾面積の増大を意味します。

 最低地上高が低い(地上20cm)。かつ、誘導輪がめちゃくちゃ低い位置にあるから履帯の「立ち上がり」がほとんどない上に背が高いから重心が高い関係で、
超堤能力はわずか45cm、超壕能力は2mほどとされています。そのため比較的平坦な戦線に配備されました。……戦車ってそういうものだったっけ?

怖い怖い怖い

 狭い。この戦車は各兵装と操縦席・車長という最低限度構成でも16人、標準的な構成ではこれにエンジンの調子を見る機関手2人を加えた18人、最大26人乗りです。
その状態で、100馬力エンジンが2機、戦闘室の中央に鎮座ましましています(しかもそれぞれが別の推進軸に繋がっており、操縦がありえん難しくなる)。
ルノーFTじゃないからエンジンルームなんてものはないので駆動音や振動がうるさく、意思疎通するのも困難です。
ここまでがいい情報です。これに大量の弾薬が載ります。
5.7cm砲弾だけでも300発以上、機関銃弾は実に30000発以上が搭載されました。……ちゃんと、撃ち切れるの?

 重い。この戦車は30~33tあります。エンジン出力こそ合計200馬力ありますがそれでもアンダーパワーで、ただでさえ足回りの機構に問題があるってのに「アンダーパワー」という文脈でもこの戦車は機動力に大きな制約を受け続けました。

 
視界が悪い。背が高いので遠くまでは見えるのですが、それは車長だけ。機銃手の視界は大変に悪いので機関銃6門で武装しているものの歩兵肉薄攻撃に対して適切に対応できたかどうかは……

 手作り。20両しか作られていませんが標準化なんて全くされてないので、その20両の中で微妙に仕様が違います。

 リベットが多い。戦車開発史をやっている人間にとって「装甲がリベット留めだと被弾の際にリベットが車内でダンスパーティーを開催するの虞がある」事実はよく知られています。
それを踏まえた上で、もう一度A7Vの写真を見てみてください。確かに溶接加工という技術がないから仕方ないにしたって、車体がでかいぶんリベットが多すぎる……

 A7Vはざっと挙げただけでもこれだけ数多の問題を抱えていた上に前述のように20両しかなかったため、戦局をどうこうする力などある訳がないのでした。

以下は全部実戦投入「されなかった」戦車たちです。

Sturmpanzerwagen A7V-U

 「えっ……もしかして、A7Vの超壕能力ゴミすぎ……?」ということで、鹵獲したMk.Ⅰ戦車をパク……剽窃……参考にしてA7Vを改良しようと試みたものです。本当であれば完全なコピー品を作りたかったようですが、今からそんな余裕ないよ(笑)ということでデザインを流用してA7Vを改良するという方向に至りました。
 しかし、もとになったA7Vより更に重量が重くなったために走行性能には大いに疑問符がつけられ、しかも試作車1両しか完成しませんでした。

【マウスの先祖!?】Kワーゲン

 A7Vが生産される「より前に」、ドイツ軍はA7Vの改良・戦力増強型を検討していました。それがGroßkampfwagenとかKワーゲンと呼ばれるものでした。
 Pz.kpfw.Ⅷ Mausの先祖という煽り文句は割と妥当な比喩で、第一次大戦に投入される予定だったこの戦車は開発が始まった時点でも100t、試作車は150tにも達していたと言われています。あまりにも巨大なので四分割して運ぶことになっていました。
この戦車は度重なる設計や武装の変更で開発が遅れに遅れに遅れに遅れ、終戦時点で試作車が2両しかできていませんでした。逆に2両はできたのか……
Pz.Kpfw.Ⅷが対空機銃をつけるつけない、火炎放射器をつけるつけないでゴタゴタしてどんどん開発時期が後ろ倒しになったのとそっくりです。

オーバーシュレジェン突撃戦車

 A7VやKワーゲンはドイツ軍の「でかつよ」路線の戦車だった訳ですが、「でかつよは国力的にも無理じゃね?しかも機械的信頼性をはじめとして大量の問題抱えてるからそこまで強くないし」ということで、比較的軽量な戦車や騎兵めいた機動力を戦車に求める主張も存在しました。
その軽量戦車のアイデアの中で、どちらかと言えば火力にフォーカスしたのがこのオーバーシュレジェン突撃戦車であります。

 全周砲塔を備えたルノーFTの登場によって「大型で、ケースメイト式の主砲で、めちゃくちゃ人を乗せる」A7Vは「もう駄目だろこれ、射角も制限されるし射撃管制が非効率だし」という話になり、ルノーFTのような全周砲塔を搭載した戦車が提案されました。

 とはいえルノーFTを参考にしたと言いながら、360度全周砲塔の根本に前後につけられた機銃塔というのは若干奇妙なーー多砲塔戦車の走りのようなレイアウトだねと言われればそうですが、
おそらくは対歩兵攻撃と近接防御を両立させるためでしょう。確かに限定的であっても銃座が旋回するなら、A7Vのように機銃を6門も生やさずとも、そして6門も機銃を生やすためにサイズを大きくせずとも、一定の射角は確保できますからね。
19tの重量に5~6人の搭乗員で済むので機動力も向上し人員配置も効率化され、その意味では33tの重量で18人も乗せてたA7Vの抜本的近代化改修(抜本的すぎて姿かたちすら変わってるが?)みたいな戦車で、
完成していれば面白い戦車になったのでしょうけれど、残念なことにモックアップしか完成しませんでした。

ちなみにオーバーシュレジェンは起動輪が中央にあるという謎の配置で、試作車が出来上がる前から「起動輪を後方にしたやつも作って」という発注がかかる(オーバーシュレジェンⅡ)。どちらも間に合わなかった

LK-1

 小型戦車の中で火力に振った戦車があるなら、当然量産性と機動力に振った戦車もあります。それがLeichter Kampfwagenシリーズです。
A7VやKワーゲンの設計者自らが「いや、重戦車無理かも」(お前が言うのか……)と見切りをつけ、軽戦車の設計に希望を見出しました。
実際、ドイツはイギリスによる経済封鎖に苦しんでおり、その意味でも「小さい戦車の方がたくさん作れて戦局に寄与できる」と考えたのは無理からぬことです。

 A7Vの試作車が製造された17年9月に軽戦車の研究プロジェクトが承認され、騎兵科向けの戦車を作る計画としてLK-1の開発が始まりました。
生産性向上のために自動車のシャーシやエンジンなどを流用して開発されたLK-1は、1980年代までの市販車のスタンダードであった「エンジンが前、ギアボックスが後ろ」というデザインも引き継ぎました。
車体正面がすだれのようになっているのはエンジンに空気を取り込むための設計で、当時の乗用車に多く見られた形状でした。

 武装は全周機銃塔に搭載された7.92mm機関銃で、最低限度構成で操縦手と車長兼機銃手の2人、最大3人乗り。路上最高速度は12kmとも16kmとも言われています。
この戦車はあくまで軽戦車開発のプロトタイプのような立ち位置で、試験の結果や軍の要望を受けてLK-2の開発を進めるテストベッドとなりました。

LK-2

 LK-1の改良型として開発されたのがLK-2です。LK-1と大筋では共通の設計ですが、
・車体前面に開口部があるのは防御上著しく問題があるため、車体上面に移動させる。
ちなみに放熱の問題を引き起こしたため、再設計して強制冷却用のファンを取り付けることとなった。

・LK-1より履帯の長さが短くなっているため、補強フレームが必要なくなった。これによって「補強フレームが地形に引っかかってスタックする」という無様な事態が起こらなくなった。

・車体前方は単純な箱型ではなく、傾斜をつけることによって防御上の利点を得ることができる。

・装甲厚の強化。8mmから最大14mmに増加。

・超壕能力の強化のため、より前輪の立ち上がりを大きくした。

などの改良点があります。

 武装はLK-1に引き続きの機銃の他に5.7cm砲、後に「5.7cmだと反動でひっくり返るおそれがある」として3.7cm砲の搭載が検討されたようですが、いずれにせよこれらの砲を搭載する場合は限定旋回だったようです。
路上最高速度は資料により14~18kmとばらつきはありますが、LK-1より重量が増えている割には、同等以上の速度を出せることになっている点は好意的に評価すべきでしょう。

 この戦車は18年6月の試験で高評価を得て、500両以上の発注がかかったのですが……終戦によって生産はキャンセル。あまつさえヴェルサイユ条約によってドイツは戦車の製造や使用を制限されてしまいます。
しかし「どういうルートか」ハンガリーとスウェーデンがこの戦車をそれぞれ14両と10両買ったことから、LK-2は少なくとも24両はきちんと製造されたことが分かっています。
また、このときスウェーデンに「落ち延びた」LK-2、スウェーデン名Strv m/21が、ヴァイマル期のドイツが戦車を秘密開発する際の参考資料となっています。因果なものですね。

参考文献

名城犬朗「系譜図でみるドイツ戦車Vol.2中戦車編」(pk510、2014年)
上田信「図解第二次大戦ドイツ戦車」(新紀元社、2017年)
「MCあくしずVol.11」(イカロス出版、2009年)
「MCあくしずVol.13」(イカロス出版、2009年)
LK.I/LK.II軽戦車<https://combat1.sakura.ne.jp/LK1.htm>

A7V突撃戦車<https://combat1.sakura.ne.jp/A7V.htm>

A7V/U突撃戦車<https://combat1.sakura.ne.jp/A7V-U.htm>

Kヴァーゲン超重戦車<https://combat1.sakura.ne.jp/K-WAGEN.htm>

First Panzers 1917-1918(アーカイブ)<https://web.archive.org/web/20070804091136/http://www.achtungpanzer.com/1stpzs.htm>

Leichter Kampfwagen II (LKII)<https://www.militaryfactory.com/armor/detail.php?armor_id=796>

Leichter Kampfwagen I (LKI)<https://www.militaryfactory.com/armor/detail.php?armor_id=795>

Sturmpanzerwagen A7V<https://www.militaryfactory.com/armor/detail.php?armor_id=279>

Sturmpanzerwagen A7V-Uhttps://www.militaryfactory.com/armor/detail.php?armor_id=1102>

Sturmpanzerwagen Oberschlesienhttps://www.militaryfactory.com/armor/detail.php?armor_id=798>

German Empire<https://tanks-encyclopedia.com/ww1/germany/german_wwi_tanks.php>

Leichter Kampfwagen II (LKII)<https://tanks-encyclopedia.com/leichte-kampfwagen-ii-lkii/>

Sturmpanzerwagen A7V<https://tanks-encyclopedia.com/ww1/germany/sturmpanzerwagen_a7v.php>


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