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地域の課題がまるわかり!ローカルSDGsプラットフォームのできるまでと使い方


SDGsはわかったけど、住んでいる地域には、どんな問題があって何を解決しないといけないの? どんな取り組みが進んでいる??

そんな疑問に答えてくれるのが、地域のデータをSDGs で整理した『ローカルSDGsプラットフォーム』です。17ゴールごとのデータの他に、チャート、地域ごとの具体的な取り組み、インタビューも見ることができます。

今回の記事では、このプラットフォームを監修した川久保教授に、プラットフォームができるまでのエピソードとその使い方について、詳しくお話をお聞きしました!


ローカルSDGsプラットフォームができるまでを教えてください!

2008年から慶應義塾大学の伊香賀俊治研究室で「地域の持続可能な発展」について研究してきて、それからずっとライフワーク的に「まちづくりとサステナビリティ」について研究してきました。

2014年6月にもう一人の恩師である村上周三先生に「SDGsというものが出てくるから勉強しておいた方がいいよ」と言っていただいたことが、SDGsに取り組むようになったきっかけです。

当時は日本でSDGs の「S(サステナブル)」の字も出ていなかった状況ですので、ウェブサイトを見ても断片的な情報しかなくて、いろいろ調べたり話を聞いたりして、これが国連で議論されている目標だというのはわかったんですね。

そのときには、すでにインジケーター(指標)の議論がされていて、ゴールだけを定めるのではなく、ゴールの達成に向けて進捗状況のフォローアップとレビューをしていきましょうと、200以上のインジケーターが提案されていました。


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川久保 俊教授


これを受けて私も準備を始めてインジケーターに関するデータを集めていたんですが、国際社会のインジケーターを見ていても、日本にそのまま導入できないと考えたので、

これをローカライズしていこうということで、2015年くらいから日本版のローカルインジケーターとそれを用いて日本の自治体の実態を可視化するプラットフォームの開発をスタートさせました。

開発当初はお金もなかったですし、外注することも無理でしたので、学生と二人三脚で一緒につくっていこうと決めました。結果的にウェブアプリケーションの開発に興味がある学生が、卒業研究の一環として取り組んでくれることになりました。

データの収集とウェブアプリケーションの開発を続けて、ベータ版を2018年の秋にオープンしました。ここで全国からSDGs に関心のある自治体担当者のみなさんを100名くらい呼んで、法政大学でシンポジウムを行って、プラットフォームと活用方法をご紹介しました。


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出典/ローカルSDGsプラットフォーム



データ集めはどのように行われたのでしょうか?

データはさまざまな省庁や外郭団体等が保有している統計データベースからひとつひとつ集めています。都道府県別、市区町村別のデジタルデータが存在する場合は特に苦もなく、

コピーして我々の独自のデータベースに格納するだけで良いのですが、中にはアナログデータしか公表されていないものもあるので、それをデジタル化したり、加工してから格納したり、地味なところで実はかなりの手間暇をかけてデータベースを構築しています。

2008年以降、自身の卒業研究、修士研究、博士研究を進めるなかでデータ集めはずっとやっていたので、どこにどんなデータがあるのか、なんとなく把握していたんですね。興味を持ってくれた学生にそのデータの所在や収集方法を教えて集めてもらい、データベースをつくってもらいました。


統計の中には1回調査が行われた後、更新されないものもあるので、その後のフォローアップに使えなかったりします。そこで、今後更新されない情報に関しては、データベースに加えるリストから意図的に外しています。

これらの研究成果は後に内閣府のワーキンググループで専門家のみなさんにご助言をいただきながら進化を遂げて、「地方創生SDGs ローカル指標リスト 2019年8月版(第一版)」として公表するに至っています。

第一版と位置付けられていることから推察していただけるかと思いますが、この指標リストも改良の余地が大きく不完全なものなので、今後も改良を続けていきたいと思っています。


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出典/ローカルSDGsプラットフォーム


自治体関係者のみなさんがご自身のまちの実態把握をしようとしたときに、それぞれが個別にデータを集めていると、とても労力かかりますし、忙しいみなさんには、厳しいのではと思いました。

ならばこの作業を昔からやってきた我々が担当してデータをご提供することで、お手伝いができるのではないかと考えました。

自治体のみなさんには、データ集めのような地味な作業に時間を割くのではなく、まちづくりに全力で取り組んでいただいた方がいいのではないかと思って、プラットフォーム開発と運用を継続しています。


我々研究者は、実際のまちづくりの施策を検討するところには立ち入れませんが、こうした情報やツールを提供することを通して少しでもまちづくりに貢献したいと考えています。

自治体の強みをお伝えすることや、データを戦略に反映していく「EBPM(エビデンスベースポリシーメイキング)」のところをお手伝いするのが研究者としての役目なのかなと思っています。

それぞれのまちが、こうしたデータを見ながら、それぞれの課題認識に基づいて、地元の人や企業を巻き込んで一緒に将来のまちのビジョンを語り、議論していくことが理想だと思っています。



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ローカルSDGsプラットフォームでは、SDGs 指標データベース、SDGs について言及されている計画(総合計画・地方版総合戦略・環境基本計画・SDGs未来都市計画・その他計画)、SDGs への対応について言及している自治体のホームページ、SDGs 担当部署の担当者インタビュー、自治体発信情報(独自指標やニュースなど)が見られるようになっています。



新しいデータが出てきたときには、更新は手作業になるんでしょうか?

当面は手作業がメインになると思っています。「ウェブスクレイピング」という手法で、全体の3割くらいのデータは自動的に引っ張ってくることもできますが、データによって「粒度」が違うので、収集後にこのデータを都道府県や市区町村ごとに揃えていくところが、一番苦労しているところです。

残りの7割のデータ収集は人力です。学生たちが日本を良くするんだ!という志で、泥臭い作業もやってくれています。3〜4か月に1度、学生たちがSDGs 計画の策定有無をチェックして、反映してくれています。

たとえば、地方版総合戦略に関して言えば、全国の8割近い自治体でSDGs という言葉が入っていきているので、いよいよ世の中にSDGsが本格的に浸透してきているのが見て取れます。


みなさんの努力の結晶なんですね。ゆくゆくは自動入力になっていくのでしょうか?

デジタル庁もできますし、政府もオープンデータの支援をしていこうという流れが出てきているので、私もそこには期待しています。今はアナログデータでしか公表されていないものも、ゆくゆくはデジタル化されつつ、ちょっとずつフォーマットも揃ってきて、更新頻度もあげられていくのかなと思っています。


SDGsはデータ収集を最適化していくものにもなっていますね。

それはまさしくSDGs の効能かなと感じています。今後フォローアップとレビューをどのようにしていくのか、国でもまさしく議論がされています。政府統計データサイト「e-Stat」などもだいぶ使いやすくなってきましたが、

依然として行政の縦割りな構造を反映して多くのデータが散乱していて、これどうするの?というところがあります。それを少しずつきれいに整理して、統合していこうという流れになってきたので、これはいい流れだなと思います。



日本ならではの指標はありますか?

データを集めていくなかで感じるのは、ゴールの1~17のどれにも当てはまらないものが出てくるんですね。スポーツとか、文化、芸術とか。このどこのゴールにも当てはまらない指標が、

プラットフォームのSDGs 指標データベースのところにある「LI」はローカルインジケーターのことで、数字のあとに続く「x」という記号が付してあるインジケーターは、特定のターゲットに紐づかないもの、つまり日本独自のものとして提案しているものです。

たとえば、ゴール3(健康)を例にご説明すると、日本は医療費が国家や地域の財政を圧迫しているところもありますので、こうした実態もおさえておかなければいけませんよね。なのに医療費に関するインジケーターはSDGs のなかに含まれていません。


また、平均寿命なども含まれていないのですが、日本ではこうした点も関心が深いので、ローカルインジケーターとして提案しています。このように課題がたくさんある日本だからこそつくれるローカルインジケーターもあるんだと思います。

このローカルな課題に紐づく「x指標」をいかにつくっていけるかがカギになると考えています。科学的知見としてストックしていきたいと思っています。内閣府の地方創生SDGs官民連携プラットフォームの分科会にもローカルインジケーターの活用方法に関する知見を提供しています。

Beyond SDGs、2030年以降の新しい枠組みにおける指標の提案につながっていくんだと思うんです。そこは、課題先進国の日本から情報発信していく必要があるのではないかなと思います。


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出典/ローカルSDGsプラットフォーム



指標の掲載基準はどこに設けていますか?

基本的には政策課題に紐付けているので、各省庁が発行している白書などに出てくるキーワードに基づいて指標やデータを検索しています。国の取り組みの方向性に沿うようなものにしていますが、

ときどきユーザーのみなさんから、こういうものも入れた方がいいというフィードバックをいただけるので、そういったものも入れるようにしています。

プラットフォームを公開して、議論できる場ができたので、みなさんと一緒に議論しながらより良いシステムをつくっていけるといいなと思っています。



ゴールごとに地域の数値を比較して見られるようなものはあるのでしょうか?

実はご指摘いただいたようなデータは、すでに加工していつでも公開できるような状況にあるんですが、これは地域格差が大きく見えてしまうので、出し控えています。

都道府県くらいのデータであれば可視化して公開しても良いかもしれませんが、市区町村単位とかになってくると、格差の顕在化と差別等の助長につながりかねないので、現時点では敢えて非公開にしています。同様の理由で「自治体ランキング」などの情報も出そうと思えばいつでも出せますが、敢えて出していません。

今は2015年頃のデータしか公開していませんが、来年になれば2020年の国勢調査の新しいデータが徐々に出てくるので、5年前の状況との前後比較ができるようになるんですね。

いい状況に向かっているのか、まずい状況になりつつあるのか把握していただいて、まずいところは改善しましょう、いいところはそのまま伸ばしていきましょうというふうに、データをまちづくりに活用していただけたらと思います。


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総合戦略にSDGsを導入している自治体 出典/ローカルSDGsプラットフォーム


たくさんのデータを見ていると思うのですが、何か気づきはありましたか?

環境・社会・経済3つの観点から各地域がどういう傾向があるのかというところを見ていくと、明らかに都心部は経済偏重で環境がズタズタ、逆に地方は環境はいいけれど経済が疲弊していて、という極端な状況になっているなというのが見ていてわかります。

残念ながら日本では、地方と都市部の連携が弱いのかなと思います。都心部では環境の取り組み、地方では経済の取り組み、相互にバランスを取って統合的な取り組みをしていかないといけないのかなと思います。


東京にある企業は特に、日本全体のサステナビリティを含めて取り組む必要がありそうです。

そうですね。CSR活動をさらに深化させて、日本のサステナビリティ向上に資する取り組みを展開している企業も増えています。サステナビリティレポート等の発行を通じて、自社の取り組みを発信する企業も増えつつありますが、こうした取り組みがより広がっていくことが重要だと思います。


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自治体インタビュー画面 出典/ローカルSDGsプラットフォーム



プラットフォームへの反応、データを取り入れた事例についてはどうでしょうか?

地方議会で本プラットフォームに掲載されている情報を参照していただいているケースが増えているようです。

あと実はユーザーの3割を学校教育機関の関係者が占めていまして、総合的学習の時間などの授業の際にアクセスしていただき、自分の住んでいる地域を17ゴールの視点から見てみましょうというふうに使っていただいているようです。

一番の驚きだったのが、企業関係者による利用が多いという点です。各地域の企業が、地元の実態を把握して地域の活性化に貢献したいから見に来ましたというケースが増えているみたいです。

ここは予期しなかったことだったので、いい動きだなと思っています。産官学民のさまざまな方々に使っていただいており、この手の情報に対するニーズが大きいことが分かりましたので、次のプラットフォームの開発企画につなげていきたいと思っています。


現状の課題と今後の展開をお聞きしてもいいでしょうか?

1つめは、指標の改善です。現時点ではまだ問題点の多い指標も多いので、内閣府と連携しながら少しずつ精度を上げていきたいと思っています。2021年度中に指標を改定できないか検討を進めています。

2つめは、プラットフォームの継続的な運用という点です。現状開発運営費用をもらっていない分、プラットフォームの維持管理は学生たちに半分ボランティアでやってもらっています。

研究成果は広く社会に還元したいと思っているので、当面このプラットフォームは無料でご覧いただけるようにしていく予定ですが、今後どう維持していくか、そのあたりの持続可能性の検討をしていかないといけないところです。

3つめは、ユーザー層を分析してみるといろんなステークホルダーに関心を持っていただいていることが分かりましたので、新しいプラットフォームを開発してそちらに機能移転していくのか、現在のものをアップデートしていくのかというのも課題です。

今後の展望に関してですが、2020年の国勢調査のデータが出たらすぐに2015年のデータと比較して変化の傾向(トレンド)を可視化したいと思っています。

このプラットフォームを活用していただくことによって、地域同士が学び合い、切磋琢磨し、まちづくりがちょっとずつ良い方向に向かっていくと良いなと思いますし、そのお手伝いができたらいいなと思っています。


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川久保 俊 さん
法政大学デザイン工学部建築学科教授

2013年に慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程を修了。博士(工学)。同年4月より法政大学デザイン工学部建築学科助教。その後、専任講師、准教授を経て、2021年4月より教授。専門は建築/都市のサステナビリティアセスメント。近年は、持続可能な開発目標(SDGs)を原動力としたまちづくりに関する研究(ローカルSDGs推進による地域課題の解決に関する研究)を進めている。主な受賞歴:文部科学大臣表彰若手科学者賞、グリーン購入大賞・環境大臣賞、日本建築学会奨励賞、日本都市計画学会論文奨励賞、山田一宇賞、International Conference on Sustainable Building Best Paper Awardなど。


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プラットフォームの使い方動画はこちら!

https://youtu.be/tqVGsiFFnyg


SDGs の地域実装に関する研究動画

https://youtu.be/DCRnoQ-cNRI


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