④セリフの裏の意味
〇皆さんこんにちは。ここでは初心者の方にも分かりやすく、順番に演技のことについて説明していきたいと思っています。演技の勉強をしたいという方はぜひご参考になさって下さい。
〇今回のテーマは「セリフの裏の意味」です。
○前回、登場人物がそのセリフを言う理由や目的を読み取ることが大切だというお話しをしました。これについてはまだいろいろと説明することがありますが、今日はセリフを読むときのもうひとつのコツについて先にご紹介したいと思います。
そういうあなたの本音は何?
○その登場人物がなぜそのセリフを言うのか、どんな言い方になるのか、イメージしにくいときは、言葉として出しているセリフの本音を考えてみると分かりやすくなります。前回お話ししたような「目的や理由」を説明するのが難しいと思ったら、本音を考えて口に出してみるのもひとつの手です。
○私たちは普段人と会話をするときに、何か言いたいこと・伝えたいことがあってもそのままズバリは言わないことの方が多いと思います。単刀直入に言う場合もありますが、相手の顔色を見ながら怒らせないように言葉を選んだり、損得を考えて情報を隠したり、好意をもってもらうために自分が良い人だと思われそうなことをわざと言ったりすることって、誰でもありますよね? それは台本に書かれた登場人物も同じです。
字面(じづら)の意味で言い方を決めないで!
〇セリフの言葉の意味がそのままキャラクターの本音とは限らないので、言葉の意味だけを見て言い方を決めてしまうのは危険なやり方です。
〇例えば、次のようなセリフがあったとします。ちょっと声に出して読んでみて下さい。
①「よかったね」
②「すごいなあ」
③「あの野郎、やりやがったな」
〇ではこれらのセリフについて、同じセリフであっても事情や状況によって意味はまったく変わってくるのを確認していきましょう。今度は簡単に説明をつけてみますので、事情や状況をイメージして読んでみて下さい。
①「よかったね」
・A お菓子をもらって喜んでいる3歳の愛娘に対して言う「よかったね」
・B 友人が、自分はまったく興味のない有名人のサインをもらったと大喜びしているときに言う「よかったね」
②「すごいなあ」
・A テストで満点をとったよと報告してきた生徒に対して塾講師が言う「すごいなあ」
・B 約束を破った息子が大事にしていたマンガ雑誌を容赦なくぜんぶ捨ててしまう妻に対し、夫がいう「すごいなあ」
③「あの野郎、やりやがったな」
・A 騙されてニセモノを買わされたことに、後から気づいでつぶやく「あの野郎、やりやがったな」
・B ここぞというところで逆転ホームランを打ってくれた野球選手に対し、ベンチにいる監督がつぶやく「あの野郎、やりやがったな」
〇どうでしょうか? 同じセリフでも事情や状況によって、想像できる役の心境はずいぶん違ってくるのが分かると思います。
本音を言葉にしてみよう!
〇さて、ここからが本題です。事情や状況を想像してなんとなく読んでいるだけではまだあいまいで、確信のない演技になりがちです。そこで、その役が本当に言いたいこと=本音を、具体的に言葉にして書き込んでみましょう。なるべく短く、端的にひとことで。
※その役の本音をズバリひとことで言い表せないということは、実はまだ、その役がなぜそのセリフを言っているのか、目的や理由がはっきり分かっていないということです。
〇例に出した①~③のセリフについて、そのセリフの裏にある本音を考えて、ひとことで表してみて下さい。正解はひとつではありません。自由に あなたご自身の発想で考えてみましょう。
〇例えば・・・(一例です。)
①A「よかったね」→「(喜んでくれて)ママもうれしい!」
①B「よかったね」→「別に興味ない」
②A「すごいなあ」→「えらいぞ/がんばったな」
②B「すごいなあ」→「よくそこまでできるな」
③A「あの野郎、やりやがったな」→「だまされた、ゆるせねえ!」
③B「あの野郎、やりやがったな」→「やった、大金星だ!」
本音の意味でしゃべってみよう!
〇本音のセリフを書きだせたら、書いたセリフを読み上げてみましょう。 ズバリそのままのことを言っているので、最初に読んだときよりやりやすいのではないでしょうか?
〇それができたら、次に、本音のセリフの意味を念頭に、その本音を言っているつもりで、言葉だけもとのセリフ通りに声に出してみて下さい。
〇どうですか? 自分の中に本音があってセリフをしゃべると、言いたいことがはっきりして言いやすくありませんか? 仲間やお友達と一緒に練習ができる人は、相手役としてセリフを聞いてもらって下さい。本音がはっきりしていると、相手にしっかりそれが伝わると思います。
ちょっと練習
〇今回ご紹介した、「本音のセリフを言っているつもりでそのセリフを読む」やり方で、お仲間やお友達と二人で以下の台本を読みあってみて下さい。今回はやりやすいように、本音のセリフ(カッコの中)も書いておきます。
上司「ちょっといいかな(話しがあるんだけど)」
部下「あ、はい・・・(嫌な予感がします)」
上司「来週って忙しい?(もっと働ける?)」
部下「どうだったか、スケジュール見てみないと(暇だけど教えません)」
上司「今度の歓送迎会の幹事を決めたくてさ(幹事やってくれ)」
部下「え、私はちょっと・・・(嫌です)」
上司「社長が君が適任だって言うんだよ(オレのせいじゃないよ)」
部下「幹事とかやったことなくて(やりたくないです)」
上司「君、学生時代演劇部だろ?(好きそうじゃないか)」
部下「それとこれとは…(演劇部関係ないよ)」
上司「分からないことがあったら聞いてくれればいいから(心配いらないからやれよ)」
部下「あんまり自信ないです(やらせるなよ。失敗するぞ)」
上司「じゃあ、頼んだよ(お前に任せたからな)」
〇どうでしたか? 本音を意識しながらセリフを読むと、自然と言い方、受け止め方が生まれてくると思います。
〇皆さんが練習で使っている台本についても、よかったら一度「本音のセリフ」を書き込んでみてはいかがでしょう?
※同じ台本、同じセリフであっても、そこにどんな本音を読み取るかは人それぞれ。正解はひとつでなく、いろんなやり方が考えられると思いますので、当然作っている仲間同士で違った意見が出てくる場合があります。そんなときどれを採用するか決定していくのが「演出」の担当者ということになります。(役割分担については別の機会に詳しくご説明しようと思います。)最初に思ったやり方にしがみつくのではなく、演出に違うと言われたらどんどん別のやり方を見せられるのがプロの俳優。やり方は無限にあるのだということを忘れずに、柔軟に楽しく演技やお芝居作りに励んで下さい。
〇今回は台本を読むコツとして、セリフの裏の意味や本音を考えてみるということについてお話ししました。
〇演技について学ぶべきことはたくさんあります。今後も少しずつだんだん情報をお伝えしていきたいと思っておりますので、焦らずリラックスしながらお読みいただき、ご参考にしていただけたらと思います。ご質問等ありましたらお気軽にご連絡下さい。
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