キリマンジャロ遠征⑥宇宙に近い場所に立つ
今回、高度順応がうまく進んだことは私にとって大収穫でした。
なぜなら南米アコンカグア(6,962m)では、アタックの段階でひどい高度障害にやられてしまい6,370mで断念。さらに、ヨーロッパ大陸エルブルス(5,642m)では、アタック成功したけれど、下りのスキー滑降で転んだことをキッカケに、ヨレヨレになり倒れ込む始末だったのです。
私の中では今回こそは、全ての行程において、成功させたい!という強い気持ちがありました。
と言うより、「自分に負けたくない」想いでいっぱいでした。
山頂への道のり
キリマンジャロのアタックキャンプであるバラフキャンプの標高は4,600mです。出発から2日間かけて約4,000mあたりまで登り、その後3日間かけて登ったり降ったりを繰り返しながら高度順応し、アタックキャンプに到着しました。
さすがにここまで来ると「結構空気薄いなぁ、身体重っ」という感じですが、いつも通りブラブラしたり、ストレッチしたりとゆっくりと過ごしました。
Spo2は83/心拍数は90
ここでこの数値ならまずまずだし、感覚的にもそんなに悪くなっていません。お腹も元気で食欲もバッチリです。よしよし。
午前2時半に出発し、いざサミットへ!
準備編でお伝えしましたが、寒さ対策はしっかり準備してきました。着ぐるみが歩いているの?と思うくらい着込んでの出発。とにかくゆっくり歩くから、体温ってあまり上がらないんですよね。とはいえ、さすがにそこまでの装備は必要なく、途中で大分脱ぐ羽目になりましたが…
山の上にチラチラ漂う先行隊のヘッドランプの明かりを、ボーッと眺めながら、とにかくゆっくりゆっくり歩を進めていきます。
リーダーに言われた「自分の楽な呼吸に歩くペースを合わせる」ことに集中し、誰もが無言です。乾いた砂礫の中、ザクッザクッという足音だけが、暗闇に響いていました。
キリマンジャロは広大な成層火山で、西から東にかけて3つの峰が連なっています。シラ峰(3,962m)、キボ峰(5,895m)、そしてマウエンジ峰(5,149m)となります。その中の最高峰であるキボ峰が、俗にいうキリマンジャロです。
3時間ほど登ったでしょうか。東の空がだんだんと明るくなり始め、眼下にマウエンジ峰が見えてきました。朝陽というのは、ここまで力強い光を放てるのか?と、息を飲むほど美しく朱色に輝く空が広がり始めました。
アフリカの太陽、広大なサバンナを照らし、人や動物全てを包み込み、生きる力を与えてくれる尊い輝き。
だんだん急な登りになってくると、息が苦しくなり足が鉛のように重く、一歩を出すのが精一杯になってきました。頭痛や吐き気はありませんが、とにかく身体に巨大な石が乗っかっているのではないかと思うほど、ずっしりと重力がのしかかってきます。
最後は、自分に絶対負けない!という気力との闘いだけ。
もうありません!という無けなしの一滴をふり絞り、ステラポイント(5,756m)に到着しました。そこからは大きなお鉢をぐるっと回り、目指す最高峰へ。
2019年9月21日 AM8:15 アフリカ最高峰の頂に立ちました!
宇宙に近い場所で感じることとは
当たり前ですが、宇宙飛行士にならない限り、人は宇宙には行けません。飛行機に乗って、宇宙に近いところには行けますが、それは乗り物という動力に乗り、普通の生活と同じに酸素も取り入れられる状況で近づくだけです。
そう考えると、自分の力で行ける宇宙に一番近い場所というのは、高い山だと思います。この地球上だとエベレストが一番近い場所ですよね。
キリマンジャロは、エベレストやヒマラヤの8,000m級の山々に比べれば、もちろん高い山ではありません。しかし、私にとっては十分すぎるほど、宇宙に近づくことなのです。
標高5,500mを越えるあたりから、空気の層が変わるように感じます。すべての音が吸収された「オトのない世界」は、静けさを越えた空白が自分に同化してきます。果てしなく続くこの世の終わりまで見渡すことができ、肌がブルブルと震えてくるのです。
五感全てが総動員し、生きることのみに全てを注ぎ、いらないものが削ぎ落とされているような。
ここに長くいてはいけない。。。呪文のようにこの言葉だけが響いてきます。
登頂を終え、だんだんと標高が下がってくると、待ちわびていたかのように身体が酸素を取り入れ、細胞ひとつひとつが活きいきとしてきます。
樹木や草花が顔を出し始め、同じ生命体として存在する自分が認識でき、今この地で生きていることが強く実感できるのです。
「なぜ高い山に登るのですか?」と度々聞かれることがあります。
答えはシンプル。
「宇宙に近い場所に立つと、私が住む当たり前の世界が愛おしくなるから」
さぁ、次はどこへ登ろうか?行くべき山、行きたい山はまだまだたくさん。そう考えると人生って短いですよね。
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