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“親や家族を頼れない若者”の生きづらさ 子どもと大人の狭間で生じる苦境

子どもの貧困やヤングケアラーといった問題が明るみに出ている昨今。子どもの生きる権利が脅かされる状況を改善するのは、社会を動かす大人たちの責任でもあります。
生きづらさを抱える子どもたちに周りの大人や社会が手を差し伸べるためには、支援の環境を構築することが必要です。現に政府が対策に動き出してはいますが、数多くある子どもたちをめぐる課題の中でも、支援が特に難しいといわれているのが、10代後半~20代前半くらいで生きづらさを抱える青年層“親や家族を頼れない若者”に関する課題です。
“親や家族を頼れない”ことが、彼らの人生にどのような影響や生きづらさがもたらすのでしょうか。あまり知られていないこの課題について、今回は掘り下げていきます。


親を頼れない若者の生きづらさの背景

“親を頼れない”とは、どういった状況を言うのでしょう。
死別や離散などで“親の所在がない”と思いつく方も多いかもしれませんが、その実、それだけではありません。
ある児童支援団体によると、親が生きていて所在が分かる状態であっても、虐待親が精神疾患を抱える病気で入院中就労と育児の両立が困難受刑中離婚した親のいずれもが養育を放棄といった理由で、親を頼れない子がいるといいます。

なかでも最も該当数が多く深刻なのが、虐待です。

出典:令和3年度児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000987725.pdf)

厚生労働省の調査では、児童虐待の数は年々増えており、2021(令和3)年度内に全国225ヶ所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は207,659件。この数は過去最多を更新しています。

こうした保護者がいない、保護者が健全な養育ができていないことを理由に、親を頼れない状況にある子どもと養育に大きな困難を抱える家庭に対しては、公的責任で社会的に養育・保護・支援が厚生労働省を主管として行われています。
“社会的養護”と呼ばれるこの取り組みですが、対象となるのはおおむね18歳の子どもまで
対象を外れた18歳以降の若者は成人として、他年齢層の大人と同じ支援体制へと切り替わります。

しかし、年齢が18歳になった途端に自立できるわけではありません。
養護から自立への移行支援が親を頼れない若者に対して必要なのにもかかわらず、現状はその受け皿となる公的な支援がほぼ皆無なのです。


親を頼れない若者が抱える問題にかかわる「居場所」と「人とのつながり」

10代後半は、進学・就職などのライフステージの節目が、短いスパンで続きます。環境の変化が著しい中で、若者にとって重要な役割を担っているのが、ほっと安心して身を置ける“居場所”と、心を開いて悩みなどを相談できる相手がいるという“人とのつながり”です。

内閣府は子ども・若者支援の施策に役立てるため、定期的に13歳以上29歳以下の青少年を対象に、「子供・若者の意識に関する調査」をインターネット上で行っています。
令和元(2019)年度に実施した調査データにおいて、「ほっとできる場所、居心地の良い場所」、つまり若者が自分の居場所として感じられる場所の上位を占めるのが、自分の部屋(85.3%)と家庭(75.6%)でした。

逆に言えば、家庭が自分の居場所であると感じていない、あまりそう感じていないという若者が24.4%いる、ということ。つまり約4人に1人が家庭内に安心感を覚えていないということになります。
この数値は、平成28(2016)年度の調査時と比べて4.3%も増えています。

また同調査の「家族・親族との関わり」に関する設問では、家族や親族に対して“楽しく話せる時がある”(78.7%)、“困ったときは助けてくれる”(77.4%)と感じる、という回答が発表されています。

さらにこの調査では、「居場所」と「人とのつながり」には相関性があり、居場所の数と人とのつながりの数が多いと生活が充実している傾向がある、と分析しています。
反対に2つが欠如すると、孤立を生み、自分ひとりで悩みを抱え込む状況が続くことによって、さまざまな問題を複合的に抱えた状態に陥ることが懸念される、とのことでした。

家庭に居場所がない、親とのつながりが希薄だと感じる若者は、多くの人がほっとできる場所、心を開ける相手が極端に減ることになります。
転じて、親を頼れない若者は問題を抱えやすくなってしまうのです。
さらに悪いことに、前述のとおり受け皿となる公的支援窓口がないことから、親や家族を頼れない若者が苦しい状況から抜け出すには、相当な困難があることは想像に難くありません。

長く続くコロナ禍で、支援側は支援活動が難航したり、当事者の数が増えたりと、状況はますます悪化していることも危惧されています。


増え始めた若者に向けた支援

若者の公的支援の薄さが課題になっている事態に対して、その隙間を埋めるように若者に向けた取組みをする民間の支援団体が昨今増えてきました。

たとえば、緊急性が高い10代後半の若者に向けては、子どもシェルターが日本各地の子どもを支援する社会福祉団体によって展開されています。
子どもシェルターは主に、「今夜寝るところがない」といった急を要する事態の若者の相談を受けて、一時的に保護し、住まいや環境を整える施設です。

子どもシェルターが緊急性を要する一時的なものに対し、中長期で暮らしを支援する施設が、自立援助ホームです。
15歳から20歳(場合によっては22歳まで)の親や家族を頼れない若者に、安心して生活できる場を提供し、大人との信頼関係を通して社会で生き抜く力を身に付けて自立できるように援助する場所です。

住まいを伴う支援では、自立支援型シェアハウスを運営する団体もあります。
池袋を拠点に活動をする特定非営利活動法人サンカクシャのように、家族を頼れない10代後半から20代前半の若者を対象に、団体が所有や借り受けた一軒家で、経済的な自立を目指して共同生活を行う取組みも進んでいます。

また先にも触れたように、孤独や孤立を避けるために、若者が居場所と感じる場所と人とのつながりは欠かせません。
居場所が家庭にないと感じる若者に対して、家や学校・職場とは異なる居場所“サードプレイス”を運営する団体も増えてきました。
理解あるスタッフや同世代・同様の境遇の仲間との交流の場の提供だけでなく、団体によっては、学習サークルや子ども食堂と絡めて運営をしているところもあります。

さらには、インターネット空間に居場所を感じる若者が増えてきていることから、オンラインで居場所を展開する団体も登場しています。
名古屋市を中心に活動する特定非営利活動法人全国こども福祉センターでは、毎週土曜日深夜にオンライン「アウトリーチ・カフェバー」が開催されているそうです。

そのほか、生きづらさを抱える若者の問題にアウトリーチ(当事者へ積極的に働きかけて支援の実現を目指す動き)をするNPO団体も増えています。
自分の境遇から生じる困難を、声に出して第三者に援助を申し出るのは、抵抗感があるもの。ましてや若者であればよりハードルが高いでしょう。
そうした状況を鑑みて、若者へアウトリーチする団体の活動が活発になっているようです。
実際、若者へのアウトリーチ活動の様子をメディアが取り上げたり、赤い羽根共同募金では若者へアウトリーチを行う活動団体に助成が行われていたりと、“居場所のない若者に支援が必要である”という認知が、ようやく広がりを見せてきています。


おわりに

「困ってるけど、親や家族を頼れない、頼りたくない」
子どもと大人の狭間で、居場所を求める若者が数多くいます。しかし、彼らに向けた“適切な”支援はまだまだ手薄であると言わざるを得ません。
生活の基盤をつくる住宅も、居場所となり得る場所のひとつです。LIFULL HOME’Sでも親や家族を頼れない若者をめぐる住まいの課題に、今後も取り組んでいきたいと考えています。


【参考】
▼厚生労働省 令和3年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000987725.pdf

▼内閣府「子ども・若者の状況及び子ども・若者育成支援施策の実施状況」(子供・若者白書)

▼内閣府 特集 若者にとっての人とのつながり

▼立命館大学研究活動報RADIANT 現代に生きる若者の「居場所」はどこにあるのか

▼赤い羽根共同募金 コロナ禍で孤立した10代の子ども若者のためのアウトリーチ事業

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