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INSPIRATIONS: 自然とデザインをつないで考えるためのヒント 8月

自然とデザインをつないで考えるためのヒントをピックアップする「INSPIRATIONS」。新旧問わずに、デザイン、アート、ビジネス、環境活動、サイエンス等の領域を横断し、ACTANT FORESTメンバーそれぞれのリサーチに役立った、みなさんにお薦めしたい情報をご紹介します。


01:日本初のReFi? 「MORI」のNFTを購入してみた

「MORI」は、森の持つ環境価値を、資産として所有・取引可能なNFTにして発行し、誰でも環境改善の取り組みを支援できるようにするサービスだ。このNFTはイーサリアムで購入でき、その資金から運営費が差し引かれたのち、持続的な森づくりを行う現実のプロジェクトの活動費に充てられる。またMORIを所有していると、森林整備によって増加したCO2吸収量に応じて「iGreen」という追加のNFTが定期的にドロップ(配布)され、それをバーン(償却)することで、自分自身が排出した炭素をオフセットできるようにもなっている。特徴的なのは、iGreenがカーボンクレジットとして取引されるようになり、低炭素化社会実現に向けた国際的な機運が今後さらに高まっていけば、それに伴ってMORIの中長期的な価値向上も見込まれる点だ。この長期的な保有に対するインセンティブのデザインが面白いし、うまく働けば、発行数や取引額が増え、実際の森林育成活動に対する支援の増加にもつながるだろう。ロードマップ上にはメタバース空間との連携という項目も記載されている。先日のミントで2つほど購入してみた。これからどうなっていくか、とても楽しみだ。

02:海外を通してみる日本の「脱成長」はクリシェか、新たなモデルか

バーグルエン研究所が発行する『NOEMA』が、齋藤幸平氏の提唱する「脱成長」の盛り上がりについて取り上げている。記事では、彼の本が日本の若者に人気を博した理由として、多くの経済学者が日本の低成長を失敗した先進国の「病」とみなす一方、世界が過剰消費に過熱する今日、脱成長へと向かう軌跡を示した「健全な」社会の姿だと捉え直した点にあるとしている。そして、その理論や態度を、近代化した環境の中に残る庭園や神社のようなアニミズム的感性、梅原猛の森の文明理論、かつて建築家が展開したメタボリズム運動の延長線上に位置づけ、柄谷行人のマルクス思想と対比しながら評価している。日本経済の内側からはなかなか客観視できない「脱成長」の議論を、海外からの解釈として改めて見返すと、これまでの流れや発想の違いとあわせて理解することができて新鮮だ。そうしてみると、脱成長は何ら新しい発想ではなく、戦後度々繰り返されてきた成長希求批判としても解釈できるし、神道的な自然観に基づいた日本だからこそ提案できる、新たなポスト資本主義のモデルとしても捉えられる。

03:循環型コミュニティの在り方を分析する「Circular Value Flower」

デルフト工科大学から出版された『Circular Communities』は、オランダの先進的な循環型コミュニティを紹介しながら、その多様な特徴を「Circular Value Flower」と呼ぶメソッドで分析している書籍だ。本書では、オランダ各地の循環型コミュニティにおいて、どんな人たちがどのように「協働」し、どんな物質(水やゴミやエネルギー等)を「循環」させ、どのような「価値」を生んでいるのか、という3つのテーマを分析することで、それぞれのコミュニティの目的やコンテクスト、課題を、より精度高く理解できることを示している。背景には、オランダで来年から新しく発布される予定の「Environment and Planning Act」という空間利用に関する法律の改正によって、住民参加の循環型コミュニティが増え、ある種の混乱が予想されていることがあるようだ。ここに紹介されている事例と分析手法は、今後、循環型コミュニティをつくっていきたい(いかなくてはならない)人たちにとって大いに参考になるだろう。また、日本の循環型コミュニティの分析手法としても活用できそうだ。PDF版は、オランダ語と英語で無料ダウンロードが可能。

04:Urban Rewilding—都市に「再野生化」の知恵を取り入れる

エンジニアリング・コンサルティング会社のArupから「Urban Rewilding」というレポートが発表された。「Rewilding(再野生化)」は自然の力を活用した生態系保全の手法のことで、これまで都市の文脈で本格的に使われる言葉ではなかった。しかし、緑化できる空間が限られた都市の中で人間と自然の共生を実現していくためには、自然ベースの解決方法(Nature-based solutions)やグリーンインフラストラクチャーといった人の手による環境機能に加えて、自然や生態系のプロセスに委ねた「Rewilding」の手法をパッチワーク状に組み合わせていくことで、より豊かな都市の自然をつくっていけるはずだ、という提案がなされている。言葉の定義から始まり、世界中の先進事例の紹介、そして実際に「Urban Rewilding」を取り入れていくためのタイポロジーや評価指標の候補、ガイドラインといったところまで議論されており、新たな流行ワードとして消費されることなく、実効性のある介入手法として育てていきたいという意気込みが感じられる。

05:マドリード、大規模アーバンフォレスト計画の現在地

以前noteでも紹介したマドリード市の「メトロポリタンフォレスト」。首都を全長75kmの森林で囲むという野心的なプロジェクトだが、4年目を迎える現在、さまざまな綻びもあらわになっているようだ。記事によれば、アルモドバルの丘に近い南東部の計画地では、最近植樹した苗木のうち8割が枯れ、「木の墓場」と化してしまったという。その直接的な要因は、夏の熱波や秋冬の少雨といった異常気象だそうだが、植樹後の維持管理に対する計画や資金が十分ではなかった可能性も指摘されている。また、こうしたメンテナンスには本来地域住民の関与や協力が不可欠なはずだが、郊外のバラハスでは、計画地のすぐ傍にある、コミュニティが12年間かけて自主的に育ててきたアーバンフォレストを、市の緑化計画に組み込むどころか、自治体所有の土地であるため違法だとして灌漑や保護のための資材を撤去してしまったそうだ。こうした報告は残念なものである一方、各地でアーバンフォレストの取り組みが本格化してきたからこそ見えてきた課題だとも言える。都市の中で長期的に森を育んでいくには、あらゆるトラブルも糧として、より良いしくみやノウハウにつなげていくことが重要なのだろう。

06:昆虫との対話をデザインする「I.N.S.E.C.T.」サマーキャンプ

マルチスピーシーズな共創とデザインに関する方法論を探るため、デザイナー、建築家、アーティスト、生物学者、昆虫学者、生態学者らが「昆虫」にフォーカスし共同制作を行うI.N.S.E.C.T.(INterSpecies Exploration by biodigital Craft and manufacturing Technologies)サマーキャンプ。2年目となる今年は、デンマークのヴァルスーで地域の森に生息する種の調査を行い、種を超えた共生関係を捉えるマップを作成、そこから参加者自身が共創的なアクティビティをデザインしていくそうだ。昨年は、3Dプリンタやかぎ針編みの技法を組み合わせて、在来種の虫の巣となる構造物をプロトタイピングするなど、ユニークなアウトプットも生み出しているこのキャンプ。参加者それぞれのバックグラウンドと現地の体験とを掛け合わせ、さまざまな活動や成果をつくり出していく緩やかな共創は、手放しの楽しさや自由さに満ちていて、とても共感できる活動のあり方だ。

本記事は、ニュースレター2023年6月号のINSPIRATIONSを転載したものです。最新の内容をお読みになりたい方は、以下のリンクよりご登録ください。ニュースレターを購読する ▷

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