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INSPIRATIONS: 自然とデザインをつないで考えるためのヒント 9月

自然とデザインをつないで考えるためのヒントをピックアップする「INSPIRATIONS」。新旧問わずに、デザイン、アート、ビジネス、環境活動、サイエンス等の領域を横断し、ACTANT FORESTメンバーそれぞれのリサーチに役立った、みなさんにお薦めしたい情報をご紹介します。

01:リワイルディングはあなたの健康にも良い

雑誌Wiredの元発行人、ジェーン・メトカーフが運営するwebマガジン「NEO.LIFE(ネオライフ)」に、「再野生化(Rewilding)は人の健康にも良い」という記事が掲載されていた。アマゾン熱帯雨林で自給自足農業と食糧採集の野生生活を送る、ボリビアのチネマ族の健康状態は、動脈硬化がアメリカの成人の5倍も少なく、慢性疾患や認知症の発生率が低く、身体活動率が高いことが示されているそうだ。デジタル生活によって様々な生活習慣病や慢性疾患の増加が懸念されているが、自然の中で活動的に過ごす時間を増やし、裸足で地面を歩き走ったり、素肌で木々や岩場に触れてみたり、「リワイルド」な生活を取り入れていくことは、人の健康にとってもポジティブな影響を与えるようだ。

REWILDING IS GOOD FOR THE ENVIRONMENT—BUT IT’S GOOD FOR YOU, TOO
https://neo.life/2022/08/rewilding-is-good-for-the-environment-but-its-good-for-you-too/

02:BiodiverCITY - 微生物とつくる、アムステルダムの都市デザイン

私たちの足元には、生命にあふれた世界が広がっている。土の中には1億種類もの微生物が存在し、菌類や植物の根と一緒になってネットワークを形成し、健全な生活環境を保っている。都市の公共空間をデザインする際には、地上の動植物のみでなく、この地下のネットワークにも目を向けることが重要だ。オランダのアムステルダム市は、都市において生物多様性のある土壌に根ざした公共空間をデザインするためのリサーチブック「BiodiverCITY_A matter of Vital Soil!」を公開している。同市の都市計画の一環として作られた同書には、システミックデザイン的な枠組みも取り入れながら、都市の生物多様性に関する説明、公共空間の設計課題、最後に都市の生物多様性に関するリサーチがとりまとめられている。土中の微生物、地上の人と動植物がひとつなぎとなって暮らしてゆくレジリエントな都市の形を提示する一冊だ。

03:Symbiotic City - 自然と共生する都市と人間の在り方

土木や環境分野で知られるオランダのワーハニンゲン大学の出版社から『The symbiotic city: Voices of nature in urban transformations』が出版された。人新世時代に対応した都市へ変化していくために、いかにして自然との共生を実現できるのか。本書では、自然の価値に基づいて、すでに共生型の都市づくりに取り組んでいる事例を引きながら、生物多様性、レジリエンス、水と都市、フードシステム、市民参加などのあり方について論じている。タイトルに「Voices(さまざまな声)」が入っているところが示唆的であり、自然の声を聴きながら思考をめぐらせながら都市をつくっていく(編者は「再帰的人新世(Reflexive Anthropocene)」と呼んでいる)、これまでの近代的な市民とはまた異なる、新しい市民像が示されている。

04:Planet City - 100億人が住まう都市

『Planet City』は、スペキュラティブ・アーキテクト・映画監督のリアム・ヤングによる没入型の短編アニメーション。メルボルン、ヴィクトリア国立美術館のコミッションで制作された本作をもとに、VR体験や書籍としても展開されている。舞台は、世界の全人口100億人が住まう超高密度な架空の都市。これまで無秩序に推し進めてられてきたグローバリゼーションや都市化の流れを逆転させ、地球上のほぼ全域を人間なしの原野としてリワイルディングする。そして人類はわずか0.02%の面積で都市生活をするとしたら……。生物学者エドワード・O・ウィルソン博士の提唱する「ハーフアース」(生物の大量絶滅を防ぐため、地球の半分を自然保護区にする)の考えを着想源に、現代の技術文明が行き着くひとつの未来を描いた作品だ。フィクションでありながら、都市に組み込まれたLED農場や蓄電湖、ソーラーシステムといったインフラは、既に今ある技術に裏打ちされているという。「未来」は名詞ではなく動詞であり、私たちが行動して形づくっていくものだと語るヤング。究極的な都市のイメージを通じて、気候変動下で都市をこれからどのようにシフトしていくのか、私たち自身の意志とはなにかが問いかけられている。

05:所有の不均衡に立ち向かう - ネイバーフッド・ユニオン

ブレグジットや新型コロナ、そしてウクライナ戦争によって、イギリスでは生活費の高騰にますます拍車がかかっている。この危機的状況をうけて、Dark Matter Labsが提案するのが「ネイバーフッド・ユニオン(ご近所組合)」という新たな組織のあり方だ。ロンドン市の「Designing London’s Recovery」の一環としてリサーチが行われ、記事にその可能性がまとめられている。ご近所組合とは、共通の賃借人をもつ地域の人々や中小企業が、住宅やオフィスの家賃、光熱費、地代、サービス料などについて、集団で財政的・法的アクションを起こすための組織だ。デジタルプラットフォームや物理的なスペースを整備することで、これまで個人レベルで困難を抱えていた地域住民がつながり、同じ貸主や事業者に対して、支払いの留保や交渉、訴訟といった組織的行動をとる基盤になるという。だが、市民運動の新たなバリエーションというにはとどまらない。資産の希少性を制御することで、一部の所有者や大企業だけが儲かるレンティアリズムの構造に立ち向かい、長期的には、コミュニティが資産を所有・管理し、地域の発展を民主的に進めていく足がかりになることを目指しているのだ。今後の進展が気になるところだが、前回紹介したterra0のように、森が森を所有するというマルチスピーシーズなアイデアを念頭に置くとしたら、こうした「資産」や「所有」といった問題もまた、異なる視点から捉えられるのかもしれない。


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