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ミヤワキメソッド:だれでも簡単に森をデザインできる?

Rina Horisawa

気候変動問題に焦点を当てたカルチャー雑誌『Atmos』のニュースレターを読んでいると「Miyawaki Method(ミヤワキメソッド)」 という日本人の名を冠した方式に出会った。調べてみると50年ほど前に日本の生態学者、宮脇昭教授が編み出した森を育てる方法がヨーロッパでカタカナになり、ミヤワキメソッドとして広まっているようだ。ヨーロッパだけでなくインドなどでも、世界各地の森林が減少した都市部で「小さな森」づくりに活用され注目をあびているという。

オンライン森林再生プラットフォームSUGi PROJECTでもメインメソッドとして使われているようだ。世界中の森づくりで活用されているミヤワキメソッドとは一体どんなメソッドなのだろうか。

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Atmosウェブサイト「The Forestkeeper: Dr.Akira Miyawaki」より

ミヤワキメソッドとは:300年の森づくりを30年で

ミヤワキメソッドとは横浜国立大学名誉教授、生態学者の宮脇昭氏が1970代年に生み出した森林再生のための植樹方式だ。国内では「宮脇方式」として知られる。宮脇氏によれば多くの土地や森は人の手が多く入った結果、その土地本来の多様性や強さを失ってしまっているという。過度な土地の開拓や、商用林の過剰な植林などがその例だろう。その土地に適した植物を使って自立する森をつくることで自然本来の姿に戻そうよ、というのが彼の提唱する森づくりだ。先日のニュースレターで紹介したRewilding(再野生化)の概念とも通ずる。


ミヤワキメソッドでは潜在自然植生と呼ばれる、人の手を加えなかった際にその土地に本来育つであろうとされる樹木を中心に、小さなポットに入った苗で植える。商用林は単一種を植えることが多いがミヤワキメソッドでは潜在自然植生を中心にたくさんの種類を混合で植える混植をする。

さらに、1ヘクタールあたり3万−4万5000本ほど(一般的な植林では1ヘクタールあたり3000ー6000本ほど)と超高密度で植える。いろんな種類をまぜこぜに、ぎゅうぎゅうに密集させて植えることで、多種の植物同士を人工的に競争させて通常より早い速度で育てることができるのだ。一説によると、従来の方法で植林を行った場合に比べ10倍の速さで成長、30倍の密度と100倍の生物多様性を持つという。

その土地に潜在的に適したいろんな植物をまぜこぜに、みっちみちに植えることで、植物同士にどんどん競争してもらう。人工的に成長淘汰を促すことで「300年かかる森づくりを30年でやっちゃおう。しかもいろんな種類を植えるので多様性にも溢れているよ」というわけだ。植樹後1、2年程度の除草作業のほかは、その後の管理も必要としないため手間も少ない。

宮脇方式の特徴

1.本来の植生に戻そう!
潜在自然植生と呼ばれる一切の人間の干渉を停止したと仮定したときに、その土地の気候風土に応じて育つ樹木を使って自立する森をつくる。自然本来の姿に戻すことを目指す。

2.まぜこぜ、みっちみち
潜在自然植生を中心にその森を構成する多数の種類の樹種を高木から低木までまぜこぜに混植。1㎡あたり3〜5ポットでみっちみちに超密植する。短期間で植物の成長淘汰を促し、密度と多様性のある、従来なら300年かかる森づくりを30年でできるように。

3.ポット苗で、いつでもどこでも誰でも
小さなポットの中でドングリを発芽させて作るポット苗。スコップひとつでいつでもどこでも誰でも植樹できる。子供も大人も、その地域の人が一体となって森を育てる実感を得ることにも繋がる。

小さな土地と苗があればどこでもでき、手間要らずで生育の速度も速い。植生の多様化にも繋がる。都市や荒れ地に、多様性を持つ「小さな森」を作り緑化を進めるにはもってこいというわけだ。

かんたんで普遍性・汎用性の高い方式に注目が集まって、森林減少が深刻化する世界各地で実践されている。スコップ一つで誰でも植林に参加できるため、地域の人が森づくりに参加しやすくコミュニティづくりに繋がるという利点もある。日本でも植樹祭など地域の催事に活用されてきた。

潜在自然植生

ミヤワキメソッドが重視する潜在自然植生は一切の人間の干渉を停止したと仮定したときに、その土地の気候風土に応じて育つ樹木のことを指す。宮脇昭氏が師事したドイツの植物学者ラインホルト・チュクセンによって提唱された概念だ。

ミヤワキメソッドでは、これらの植生は「鎮守の森」と呼ばれる神社の境内にある森林帯や昔ながらの自然農法を活用した屋敷林にある事が多いとしている。科学的論文ではその論拠を実証されたことはなく、定義をめぐっては様々な議論が残る。

下記の潜在自然植生図は、1980年から約10年かけて宮脇氏が日本全国を巡り、潜在的な自然植生を調査しまとめた「日本植生誌(全10巻、志文堂)」に収められている。グラフィックとしてもかっこよくて痺れる。ちなみに、私たちACTANT FORESTの森があるのは赤枠のあたり。

図1 (1)

図6 (2)

↑「日本植生誌(全10巻、志文堂)」より

ミヤワキ批判

世界中で活用されているミヤワキメソッドもとい宮脇方式だが、課題も多く残るとされている。先に挙げた潜在自然植生の論拠や、ポット苗をつくるためのドングリは場合によっては外部の土地から持ち込むこともあるので本来的な地域潜在植生とは異なるという批判もある。

また潜在自然植生に基づいて植林すると、日本の多くの地域ではシイ、タブ、ブナなどの常緑広葉樹林が多くなり、結局多様性を育むことに繋がらないんじゃないか、とか。公害対策のカモフラージュ的に森林作りが行われることへの疑念もあがる。宮脇方式は70年代以降、公害問題対策の一つとして大企業の工業地帯の植林に活用されてきた背景があるためだ。

賛否両論あるミヤワキメソッドだが、都市部など自然が荒廃した土地で短期間に緑化を目指す上ではやはり手軽で有効な手段であろうし、50年前に生まれた方式が今なお世界中で活用されているという事実も、このメソッドの有用性を示しているように思う。そしてミヤワキメソッドは次の世代の研究者や実務家たちによって少しずつ、環境や社会に合わせて形を変えて受け継がれていっている。「土中環境 忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技」の著者、高田宏臣氏の森の環境改善や、「NPO法人地球の緑を育てる会」が筑波山中で行うつくばメソッドも、既存の森の環境改善や森の生命力を活かすことと合わせた植林をしているという点でミヤワキメソッドを応用している。ミヤワキメソッドは今日の森づくりに大きな影響を与えてきた。

小さな森作りとコミュニティデザイン

私たちACTANT FORESTでも、ミヤワキメソッドの良いところをうまく取り入れていけるといい。都市部で小さな森を作るには有効な手段の一つであることに変わりないし、誰もが簡単に森づくりに関わるためのトリガーとしてもこのメソッドは有効に思える。

子どもからおじいちゃんおばあちゃん、違う地方や違う国からきた人々も、みんなで小さな苗を植え森を作る。その行為を通じて人々が集まり繋がりや関係性を作ることで、新しいコミュニティの形をデザインできるかもしれない。他にも、都心と地方の間に小さな森をたくさん作って日本のグリーンベルトを作るとか。都市と自然の間をつなぐメソッドとして上手く組み込んでいきたい。

Reference

宮脇昭(2010)『三本の植樹から森は生まれる 奇跡の宮脇方式 』祥伝社ポケットヴィジュアル

宮脇昭(2013)『森の力 植物生態学者の理論と実践』講談社現代新書

宮脇昭(2019)『いのちの森づくり 〔宮脇昭自伝〕』藤原書店

宮脇昭(1980-89)『日本植生誌』(全10巻)至文堂




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