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19YEARS #4 体ではない存在

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2013年5月
すすむが天に召されて、一年と少しが過ぎた。最近、不思議なことがたびたびある。

あまりにもはっきりと聞こえる彼の声。
「あっこー。なに泣いてんの。俺ここにいるよ」
「そんなにがんばるな。プリンでも食っとけ」
耳のそばで話しかけられているくらい近いその声が聞こえるたび、戸惑う。空耳かと思うのだけれど、なんどもあるので、だんだん慣れてきた。そしてついに会話するようになってきた。

「今夜のおかずなににしようか」
「勘弁してくれよ。俺は食べれないんだからな」
「あはは、ごめんごめん」

人に見られたら、気が変になったと思われるかもしれない。けれど、それは私だけじゃないのだ。

人に会うと、よく言われる。
「すすむさんが来たんだよ」
「あっこをよろしくって頼まれた」
私を慰めようとして言ってくれてるわけじゃない。その顔はみな、真顔なのだ。それにしても、あまりにも何人もの人から同じことを言われるので、だんだん笑えてきた。
あの人、必死なんだな。肉体なくなっても、無理矢理にでも人に話しかけてるんだ。

伝わって来る愛情が、安堵感となって身体中に広がってゆく。思わず深く息を吸い込み、その気持ちを全身で味わう。愛おしい気持ちがあふれてくる。

家でひとりいるとき。
「あ。今ラジオをつけなくては。メッセージが来る」
そんな気がして、慌ててスイッチをオンにする。タイミングよく、曲が流れ始めた。英語で意味がわからない。けれど、私に話しかけているようにしか聞こえない。これは間違いなくすすむからのメッセージだ。
歌詞を調べてみた。
「ずっと君をみてる。どんな時も、何をしてても。君の一挙手一投足をハラハラしながらも、ずっと見てるから」
意味を知って、泣き崩れた。こんなにも、なのか。

友人からLINE。
「ぜひあっこちゃんを連れてきてほしいって」
とあるカフェのオーナーから、そう突然頼まれたらしい。そのカフェは過去に一度訪ねたことがあった。川沿いにある素敵な店だ。
到着するなり、オーナーは大歓迎してくれて、話し始めた。
「あなたのご主人の気持ちが空気の中に混ざって、私のところへ来たの。それが体の中に入ってきた。そしたら、あなたを助けなければならないって強く感じたの。」
なんと。
「これから私を姉だと思ってね」
もう驚くことはなかった。ただただ、温かく幸せだった。

たくさんの人の言葉を借り、風に乗せ、伝えてくれる。

私はもともと、目に見えない不思議なことに興味があったし、魂はあると思っていた。けれどそれを確信するには至ってなかった。
けれど、もうこれは確実だ。

あの人はもう体はないけれど、確かにいる。なんら変わらず、どこにでもいる。慰めでも妄想でもないのだった。

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