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家と店 #3

(家と店#2 の続きです)

火曜日に見つけた店舗物件。
不動産屋さんと連絡もとれてないのに、私はもう、その建物の中にいた。
図面と数枚の写真があれば、脳内で行ける。

まず天井の蛍光灯は、ありえないから外して、白熱灯に変える。
壁には、うすい板を張って白く塗装しよう。床には、いい音がする木を貼ろう。
少し右手にかんたんな仕切り壁をしつらえ、そこにアンティークのガラス窓をはめ込もう。
什器は、イギリスの古いものなど、いつかのときのために彼がすでに集めている。その配置も、まるでそこにあるかのようにイメージできた。

彼からライン。内装は○○さんに相談してみよう。イメージはこんな感じでと、写真が数枚、添付されていた。それは驚いたことに私の脳内イメージそのままの画だった。
いろんなことで意見が分かれ、理解不能な彼と、こんなに気が合うことがかつてあっただろうか。

「店ができたら結婚しよう」

そんな暗黙の了解があったので、荷物の整理なども、近々にすすめてゆかねば。処分するもの、移動。色々なアイデアが頭のなかをかけめぐる。
こんなに具体的にプランが展開してゆくことは、初めてだった。
店舗物件に出会っただけなのに、腹の底から泉のように湧きだすエネルギーの大きさに、自分で驚いていた。

まだ見ぬ場所に、私たち2人は、もう店を持っている。ときめきが止まらず、誇らしい。ヴォルテックス、パラダイス、至福。




木曜の朝がやってきた。
不動産屋さんと連絡がとれる日だ。おそらく今日、物件を見学できる。スケルトンな物件内で汚れてもいいように、カジュアルな服を選んで身につけ、連絡を待つ。

「もしもし〜」

彼から電話。
その第一声で、すべてがわかってしまった。

「もう他の人と契約が進んでるんだって。ほぼ決まりだって」

そうか。
そうか。
うん。



そこは砂漠だった。
人は一瞬で移動するものなのだと思う。どこでもドアよりずっと早く。
砂漠には風が吹いていた。気持ちが良くて、誰もいなくて、何もなかった。

「キャンセル待ちも受け付けないって。ほぼ決まりだから。早い人っているんだね。僕には確実にビジョンが見えたのに。見えたときに外したことなんて、今まで生きてきて一度も・・・」

声が遠くから聞こえていた。
そしてただ

「砂漠の風は、爽やかだなぁ」と思っていた。

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