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19YEARS #2 心の流血

←1より

2012年夏。

目が覚めて、部屋を見わたす。やっぱりひとりだ。あの人のいない世界。なぜ目が覚めてしまったのだろう。

ライが、しきりに顔を舐めてくる。否応無く、散歩に連れ出される。リードにぐいぐい引っ張られながら、外の空気を吸いながら歩くと、夏休みのにおいがした。
この子は、私の心に一番近いところにいつもいた。そして、一緒に深く傷ついていた。ライにとってはもう私しかいない。私にとっても、ライの存在は、唯一の命綱のような気がした。いつも支えてくれる。生きる意味を考えすぎる前に、動かされることによって。

洗濯機を回す。少なくて驚く。毎朝のことなのに、慣れない。

クローゼットを開ける。彼のにおいを感じた途端、唐突にこみ上げる嗚咽。扉のノブをつかんだまま、腰の力が抜けて座り込んでしまい、そのまま前が見えなくなった。こうなるとどうにも止めることができない。気のすむまで声をあげて泣くしかないのだ。「また始まった」となかば自分にあきれながら、俯瞰していた。頭のどこかで「近所の人に聞かれたら恥ずかしい」と思っていた。

そんな時は大抵、ライは、そっと階段を降りていってしまう。わたしが悲しいそぶりを見せるとき、以前は優しく寄り添ってくれたものだが、このごろは冷たい。



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