#57|18 2020年9月9日 同じ道
日本食レストランにMと来た。メニューを開くと握りが2貫で約4~5ユーロでカリフォルニアロールと同じ数だけあった。寿司と言えばやっぱり握りを食べたいが、満足するほど注文すればかなりの額になってしまうので握り10貫盛り合わせで16ユーロが比較的お得だと思い、頼もうと思ったが、Mが「え、ひとりで一皿食べるの?わけないの?」と聞いてきた。日本では家で家族で食べるとき以外はお店では基本的には自分で食べたいものを自分の分だけ注文するものだと、教えたが、一緒に分けることにした。マグロとサーモンの握りを頼み、カリフォルニアロールを2種類。それと僕は味噌汁と、有料だがお茶を注文した。お茶は紅茶を淹れるようなティーポットにティーバッグが入れられ、白い陶器のティーカップが一緒に出された。この時点で十分残念だったが、そこまで期待はしていなかった。味噌汁はわかめと豆腐と長ネギのシンプルなもので、だしの味はほとんど感じられなかったが久しぶりに味噌を味わえてよかった。とうふはインスタントではなかったが、かなり小さな賽の目に切られていた。わがままを言うともう少し大きく切られている方が好きだ。
Mはサッポロビールの瓶を傾けている。最初の時点でなぜか醤油皿が手元に置かれていなかったので目の前に置いてある大きめの取り皿のようなものの上にたくさん醤油と醤油で崩れたシャリを落としながら食べていた。保育園児の親のように口うるさく醤油皿を手前に置きなさい、醤油はネタの方に付けるものだ、と言いたくなったが日本にいるわけでもないし店員も他の客も日本人らしき人はいなかったので別にいいか、Mが楽しければそれでいい、と喉まで出かかっていた小言を押し殺した。ましてやカリフォルニアロールなんてシャリに醤油を付けないなんて不可能だ。
握りの味はどうか、十分美味しいかとMは聞いてきたが、店員にも聞こえてはまずいのであまり本音は言えなかったが、店を出てからシャリが大きすぎるし固すぎると言った。
一通り寿司の話をした後に選挙制度について話した。スペインでは日本でいうところの比例代表制のようなものを取っている上にそれぞれの選挙区では投票される政党がかなり制限されるので、国全体としてのまとまりがかなり弱いそうだ。日本の選挙制度はどうかと聞かれて一瞬答えに詰まったが、なんとか間接選挙であることや小選挙区比例代表並立であることを伝えた。日本もスペインもアメリカなどと違い、国の代表者を直接選ぶことはできないが、党内で意見が分かれるようなことはスペインの政治ではないらしい。一方日本では与党内でも政治思想がわかれ、誰が誰を支持しているかなどを見る必要がある。ここに日本の選挙では政党と同程度にそれぞれの候補者をしっかり見る必要があり、それがあの騒音ともいうべき街頭演説に繋がっているのだろう。そんなことを下手くそなスペイン語と英語を交えて説明しながら改めて自分の政治に対する無関心さを自覚した。Mも言っていたが、こういうことはおそらく授業でも触れられるので何とか理解しておきたい。
最後に出てきたカリフォルニアロールはしめ鯖だったが、悲しきかな、完全に火が通っていた。まだ衣が付いていないだけでもましかもしれない。これを食べた時は思わず涙がちょちょぎれた。デザートとしてMが頼んだ抹茶味の持ちは中にクリームが入っている雪見だいふくの劣化版のようなものだったが、まずまずだった。ただ上にまぶさっている抹茶の粉の中にココナッツが入っていて、Mは嫌いなのでひと口だけ食べて残りは僕にくれた。料理酒のようななんとも味気ない熱燗を最後に飲んで帰った。
(9/12 18:00 パンプローナ自室にて執筆)
現在、海外の大学院に通っています。是非、よろしくお願いします。