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店内でDJイベントも!自由満載なレコードコンビニ 何だここは⁉と驚くようなコンビニがいかにして生まれたか。店長進藤さんとスタディスト岸野さんに語ってもらいました。

岸野 「コンビニDJ」を始めたのっていつでしたっけ。

進藤 多分2014年。

岸野 「ここでDJイベントできるんじゃない?」って持ちかけたら乗ってくれて。その前は、僕はお客さんだったんです。通りに面して飾ってあったレコードジャケットを目ざとく見つけて入ったのが最初。で、「買える?」って尋ねたら「売ってはいないけど聞けますよ」って。レジのところに小さいレコードプレーヤーが仕込んであった。

進藤 店内に流す用と視聴用の2台。BGMでUSENを流すのがつまんなくなって、代わりにレコードをかけてたんです。集めてたレコードを聞くために店に置いて、飾ったりもしているうちに、岸野さんみたいなレコード好きの人たちも常連になってくれた。で、12年か13年に、外にイートインコーナーを作ったんです。元々あった雑誌コーナーを撤去して。

岸野 それがとても良い空間だった。角打ちみたいな雰囲気で。レコードを肴(さかな)に、そこで音楽談議が始まるんですよ。地元の人や、近くのビジネスホテルに泊まっている出張中の人とかも交えてね。で、ここが重要なポイントなんだけど、飾ってあるレコードジャケットが週一くらいで入れ替わって、その音楽的傾向がノンジャンルなんです。

進藤 ロック好きだけど全部聞くみたいな感じでいろいろ集めてきたので。レコード屋さんとかだと高額盤なんかがディスプレイされてるけど、もうちょっと面白く飾りたいなと思って、例えば夏だったら水着のジャケットばかり並べてみたりとかしてます。

2016年の「コンビニDJ」。パン棚にターンテーブルを設置。天井にはミラーボールが
写真提供:進藤康隆

パン棚をDJブースに

岸野 特定のアーティストやジャンルだけを飾るお店って結構ありますよね。でもそうすると特定のファンばかりが来る。そこを超えて、いろんなファンが集まっていたのが面白かった。あと、コンビニって入店のハードルが最も低い。足を踏み入れやすい。そこにも魅せられて、DJイベントの話を持ちかけたんです。

進藤 ターンテーブルとミキサーをどこに置こうか考えて、ここだ!って、店の真ん中のパン棚の上に設置して。

岸野 そしたら、その写真がかなりバズって評判になった。始めたころはいろんな実験をしましたよね。住所を一切公開せず、曖昧な地図を載せたフライヤーを配ったり、シークレットに近い形でピチカート・ファイヴの小西康陽さんに出てもらったり。

進藤 月1回の開催で、一度来てくれた人は大体続けて来てくれる。で、その人が仲の良い、イベントを一緒に楽しんでくれるような人にだけ教えて、それがどんどん広がっていくみたいな感じでしたね。

岸野 100人くらい集まって、大入りで大成功ですねってたまに言われたけど、それは全くうれしくなかった。集客が目的じゃなく、ここを一つの成功事例として示し、できれば他のところでもトライしてもらいたいと思ってたんです。DJイベントの方は、そのうち企画がどんどん回るようになったので、今は単にお客さんとして楽しんでます。

場作りしたいという意識

進藤 去年、店の奥にDJブースを作ってからは、入りきらず溢れてた人もだいぶ店内に収まるようになりました。あと、古物商許可を取って17年から中古レコードの販売も始め、他に地下のスタジオでDJ教室やライブイベントをやったりしています。

岸野 そういうことがうまくいってるのは、場作りをしたいっていう気持ちをみんなが持っていて、そこに向かって知恵や力を出し合ってきたからじゃないかと思いますね。

進藤 そうですね。昭和の時代には、例えば果物屋さんの軒先で主婦たちが世間話をしたりしてましたけど、今はそういう場所がないじゃないですか。僕がイートインを作ったのも、近所の人たちがちょっとくつろげる、町のスペースがあったらいいなと思ったからです。それが発端となって、DJイベントやライブを行う流れができたんですよね。あと、レコードの存在がやっぱり大きかったかな。

岸野 媒介としてね。

進藤 家で聞いているだけだったら何も起こらなかった。レコードには感謝しています。

岸野 このコンビニを知ってもらったら、面白いから行ってみようでもいいんだけれど、こんな試みを自分もしてみようと思ってもらいたいなあ。ぜひ場作りをしてほしい。

進藤 親から店を継いだとき、コンビニなんてやりたくない、好きなこと何もできないじゃないかって思ったんですよ。でもコンビニだから何もできないなんてことはなかった。自分の境遇に対して嘆かず何かにチャレンジしてもらえたら、僕はうれしいし、やった甲斐があったといえます。

外に向けて並べられたレ コードジャケット

進藤康隆さん(しんどう・やすたか)
レコードコンビニYショップ上総屋の店主。祖父が立ち上げた酒屋を父から継ぎ、1999年コンビニに業態転換。2014年、岸野雄一さんが関わり店内でのコンビニDJをスタートさせる。中古レコードやオリジナルグッズの常設販売、DJ教室やライブイベントなども行っている。

岸野雄一さん(きしの・ゆういち)
音楽家、オーガナイザー、著述家など、多岐にわたって活動するスタディスト(勉強家)。東京藝術大学大学院 、立教大学現代心理学部、広島市立大学芸術学部で教鞭を執り、美学校音楽学では主任を務める。第19回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞受賞。近年では盆踊りをアップデートするプロジェクトを展開。10月8日(土)・9日(日)東京・墨田公園でイベント開催「すみゆめ踊月夜」

レコードコンビニYショップ上総屋の外観

レコードコンビニYショップ上総屋(かずさや)
東京都中央区日本橋浜町2-55-5(営)7:00~23:00 (休)日祝不定休 
@record_conveni

写真=松嶋 愛


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