火災保険料がまた上がる?
個人向けの火災保険の保険料水準が10月1日より平均で13%アップしました。
「また保険料が高くなる!」、驚くばかりです。
諸物価の相次ぐ高騰の中、個人生活において大切な財産をお守りする住宅向けの火災保険において、多くの保険会社の保険料が改定になります。
本日はこの火災保険料の改定の背景をベースに保険の仕組みについてみていきたいと思います。
(epsode21)
1.住宅向けの火災保険料の改定(2024年10月)
住宅向けの火災保険がこの10月から改定になりました。
近年の自然災害の激甚化を反映しての改定です。
自然災害による家屋の被害等、その災害の規模が年々大きくなってきているのが気になります。
今回の改定の主な柱は下記の2点です。
(1)火災保険の参考純率の平均13%の引き上げ
保険会社が住宅向けの火災保険料水準の拠り所としている損害保険料率算出機構の火災保険参考純率が平均13%引き上げられました。
それに伴う保険料水準の引き上げです。
(2)水災リスクの細分化(5区分)
水災に関する料率が全国地域別に5区分に細分化されました。
今まで一律であった水災リスクにかかわる保険料水が地域によって異なることになります。これにより海岸線や河川に近い地域における水災料率が高くなります。
2.損害保険料率算出機構の参考純率が改定になるとなぜ火災保険の保険料が変更になるのか
住まいの火災保険や自動車保険の保険料は、損害保険料率算出機構の参考純率を保険会社が参考にして自社の保険料水準を決定しています。
このためこの損害保険料率算出機構の参考純率の改定は、その都度、保険会社の保険料水準に影響を与えることとなります。
保険料算出の根拠が変わるので保険料を改定せざるを得ない、というのが現状です。
損害保険料率算出機構の参考純率改定の詳細の内容は、下記のリンク先を参照ください。
【火災保険の参考純率の改定の推移】
火災保険の参考純率の改定の推移は下記のとおりです。
過去10年間に5回の改定が実施されています。
あらためて改定の多さに驚きます。
・2014年7月 自然災害や水濡れ損害による保険金支払いの増加による改定
→平均3.5%の引き上げ/保険期間を最長10年までとする
・2018年6月 台風などの自然災害の増加による改定
→平均5.5%の引き上げ
・2019年10月
→平均4.9%の引き上げ
・2021年6月
→平均10.9%の引き上げ/保険期間を最長5年までとする
・2023年6月(この10月からの保険会社各社の保険料改定)
→平均13%の引き上げ/水災に関する料率の地域区分化(5区分へ細分化)
一昔前は火災保険に係るリスクは自動車保険のリスクに比べると小さく、保険会社にとっても利益幅が大きかった商品でした。
しかしながら、昨今の度重なる自然災害の激甚化により、保険会社の火災保険引き受けにかかわる収益は大赤字の傾向が継続しているのが現状です。
海外では自然災害の多発化により、火災保険の引き受けができない地域もあると聞いています。
保険会社も収益事業会社でもあり、利益を度外視しての商品販売はできず、保険料改定は止むを得ないところと考えます。
3.保険会社の保険契約の引き受けの考え方
保険引受上のリスクマネジメントの視点で保険会社の保険引き受けをみると、下記のように考えられます。
(1)保険料水準を維持する
リスクが良好であり保険引き受けの収益が得られる状況下では、保険料水準をこのまま維持する、あるいは、よりリスク良好であれば保険料を引き下げたり、補償内容を拡充するという流れになります。
(2)保険料水準を上げる(保険料を上げる)
リスクがより悪化すれば、保険引き受けの収益確保のため、保険料を引き上げたり、補償内容を狭める(保険会社のリスクを負う範囲を狭くする)策を講じます。
企業分野では、すでに契約により保険金支払いが多額の場合は更新契約の保険料水準を高くすることを個別対応しています。
(3)保険契約を引き受けない(保険商品の販売を中止する)
上記2の対策でも収益が確保できない場合は、その契約自体の引き受けを断る(契約しない)ということを選択します。
また商品として保険引き受けの収益が確保できないのであれば、その保険商品自体の販売も行わないという考えに至ります。
保険商品は、大まかには予定される損害率を約60%として商品設計しています。
従って当該契約の損害率が60%を超えるとその契約は損失(赤字)となるため、保険会社としては何らかの対策を講じたいと考えることは当然なのかもしれません。
一方、.個人にとってのリスクマネジメントの視点で考えると、下記の各策が考えられます。
(1)リスクを保有する
保険に入らないという考え。
何かあれば自己資金でその損失を補います。
(2)リスクを移転する
主として保険に入るという考え。
保険という機能にリスクを移転することで、個人リスクを手元から無くします。
(3)リスクを回避する
リスクがあるとされるそのものをやめる(自動車を保有しなければ自動車保険にもはいらない等、リスクそのものをとらない)という策です。
上記以外に「リスクをコントロールする」ことによりリスクの危険性を下げるという策もありますが、保険加入という観点でみると上記の3つの点が保険加入にかかわる意思決定のプロセスと思います。
このように「保険会社が考える保険引き受け」と「保険契約者のリスクに対する考え」の双方の思いが常に行きかう中で保険の契約がなされています。
4.保険会社と保険契約者の思いの違い
契約者はリスクがあるため保険に入ります。
保険会社はリスクが大きすぎれば利益がでるように対策を講じます。
ここに両者の思いの違いがあります。
この思いの違い(差)を埋めるのは、保険会社・保険代理店による、より丁寧な対応なのではないでしょうか。
契約者のリスクに対する考えや思いを正確に把握する中で、保険会社や保険代理店による、保険制度や保険商品のわかりやすい説明が欠かせません。
過分な保険商品に入る必要性はなく、どうしても必要とされる補償のために保険を活用することが重要です。
最終的な契約者のリスクに対する対応方法の決定(保険には入らない、保険料が高くても入る、自己負担額を上げる、補償の範囲を広げる・狭めるなど)に向け、各種情報の提供や支援が求められます。
保険を販売する側(保険会社・保険代理店)、保険を購入する側(契約者)の双方が、今の段階より一段ステップアップする中、保険の正しい普及に向け、お互いが保険に対する意識や知識の向上を目指していきたいところです。