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汚職は何故起こるのか?:新オンブズマン制度導入の提言


はじめに.

今日までの日本では、一部政治家等の特殊公務員を除き、汚職や賄賂は殆ど存在しないと言える状況です。

しかし、東南アジアアフリカ等の発展途上国においては、警察・司法・許認可・医療・教育など、様々な分野で、日常的に、賄賂が横行しております。

アジアでは、カンボジア:57%インド:54%、アフリカでは、シエラレオネ:84%ケニア:70%の国民が、警察や司法に対して、日常的に賄賂を渡さなければ、まともに生活できない状況だという事です。

また、IMFによると、全世界の賄賂の規模は、世界GDPの2%に匹敵すると試算されており、世界フォーラムにおいても、世界GDPの5%に達するとの発表もされています。

ODA支援を行っても、その10%は賄賂代に消え、無駄金になってしまう等、現実問題として、日本では考えられない程、世界経済に大きな悪影響を及ぼしています。


また、国会議員や地方議員の引き起こす不祥事として、公金の無駄遣いが良く挙げられますが、公金の取り扱いと賄賂というのは、共に扱われる事が多いようです。

両者に共通するのは、資金の透明性が無い事であり、実際、地方議員が政務活動費として、ある企業に公金を支払ったり、官僚達が、国の事業と称して、特定企業に便宜を図ったりしております。

なので、行政活動や公金の取り扱いについて、透明性を持たせる事が、公金の無駄遣いの抑止に繋がり、結果的に、賄賂の抑制にも繋がります


そこで、本noteでは、まず、汚職は何故起こるのか?について、まとめさせていただき、最後に、日本で横行している公金の無駄遣いに対する対処法として、新オンブズマン制度について、提唱させていただこうと思います。


1.賄賂は何故起こるのか?

①公務員の賃金が低い

例えば、ジョージアにおいては、教育分野における教師の賄賂が横行しております。

何故なら、教師の給与が安く、通常の給与だけでは生活が成り立たないため、家庭教師という名目で、各生徒と契約を結びます。

ですが、その実態は、家庭教師という名目を使い、試験の答えや出題範囲を密かに教えたり、敢えて学校の授業では一部の範囲しか教えず、賄賂を渡した家庭の生徒にのみ、残りの範囲の授業を行う等、本来の家庭教師の業務とは言えない行為を行っているようです。


②大きな政府(政府の裁量・権限が多い)

例えば、中国や北朝鮮が例に挙げられます。

北朝鮮は、汚職度ランキング174位の国であり、食料、健康、住居、仕事、移動すべてにおいて、北朝鮮当局に対する賄賂が無ければ、自由に行えないそうです。

そして、中国も、賄賂大国と言われており、共産党員や民間企業において、賄賂が横行しているとのことです。

双方共通するのは、いずれも、共産党による一党独裁体制であり、政府がほぼ全ての実権を握るような大きな政府であるという事です。


③公務員の採用方法が資格任用制でない

日本では、全ての公務員が、資格試験を突破しなければ、公務員になれないという資格任用制を採用しておりますが、一部の国では、縁故採用制で、公務員を採用している国もあり、そういう国では、公務員による汚職が発生し易いそうです。

また、アメリカを始め、中央政府の上級行政官については、政治任用制を用いてる国もあり、そういう国では、汚職が起きやすいと言えるでしょう。

実際、日本においては、大臣・副大臣・大臣政務官が、政治任用制であり、直近で言えば、秋本真利外務政務官が、収賄で逮捕されると言う事件が起こっております。


④大統領制である

例えば、フィリピンのイメルダ・マルコス氏、韓国の李明博氏や朴槿恵氏が有名です。

いずれの三者も、汚職で実刑判決が下っています。

アメリカやドイツのように、大統領の権限が弱い場合は、賄賂や不祥事が起こる可能性は低いと思われますが、直接民主主義制という事も相まって、大統領の権限が大きいと、汚職が起こりやすくなるとのことです。


⑤女性職員が少ない

汚職の加害者は、83%が男性であり、汚職の犠牲者は、84.3%が女性であるそうで、必然的に、女性職員の割合を増やせば、賄賂が減る事になります。

実際、Maryland大学の研究では、女性の国会議員が多い国は汚職が少ないと結果が出たとのことです。

また、コロンビアやペルーにおいて、女性警察官を増やした結果、汚職の苦情が減ったようで、同様に、女性幹部職を増やすと、汚職が減るとのデータもあるようです。


⑥メディアが発達していない

メディアが発達していないと、汚職が起こりやすい傾向があるという事です。

日本においても、各民間メディアが、政治家や役人の不祥事を摘発したり、行政の監視役として、かなり重要な役割を果たしている事から、当項の主張も、正しいと言えるでしょう。


⑦国営企業が多い

カザフスタンのような国では、国営企業に入るために、関係者に賄賂を渡す事は当たり前だという事です。

日本においても、独立行政法人NPO法人など、実質的に、国営企業と同視できる法人が存在しております。

そして、それらの法人の理事会や理事長のポストには、官僚OB達が高い報酬を得て居座ってしまうような、天下りの温床になっております。


⑧天然資源が多い

日本とは、あまり関係が無い事ですが、一応取り上げておきます。

おそらく、天然資源産業と言うのは、人間力を必要としない産業のため、賄賂や買収によって、簡単に産業構造が破壊されてしまうのでしょう。

以下の画像は、腐敗認識指数が高い国々を色分けしたものとなりますが、確かに、天然資源資源が多い中東諸国やアフリカ諸国では、汚職が蔓延する傾向があるようです。

腐敗認識指数(2020年版)


2.日本における公金の無駄遣い・汚職の現状

汚職編

まずは、国会議員達の汚職です。

直近で言えば、秋本真利前外務政務官が風力発電会社から計3000万円もの資金を受け取ったとして、収賄罪の疑惑で、逮捕されております。

また、河井元法相の大規模買収事件など、自民党議員周辺においては、賄賂関係の不祥事が、多々発生しております。


次に、地方公共団体の汚職についてですが、以下のように、土木建設工事関係の汚職が、際立って多いようです。

わが国の地方自治体における汚職の要因分析


最後に、官僚達の汚職についてですが、昔は、大蔵省接待汚職事件(ノーパンしゃぶしゃぶ事件)など、地方公共団体の職員が、中央官僚を接待する官官接待による汚職が相次いで起こっていたようです。

また、天下りも、それ自体が一種の汚職であり、天下り先から、官僚OBとして、現役官僚に働きかけたりすれば、それが更なる汚職と化すため、中央官僚の天下り文化は、汚職蔓延防止の観点からも、放置すべきではありません。


以上の要因から、2022年版「汚職指数」ランキングでは、日本は18位にランクインしており、汚職が少ない国とは断言できない状況になっております。


公金の無駄遣い編

公金の無駄遣いとして有名なのは、地方議員の第二の給与と呼ばれる政務活動費です。

例えば、2013年、野々村竜太郎元県議が、政務活動費(政活費)約913万円を不正に利用したとして、話題になりました。

他にも、政務活動費を使い、100万円を超える切手を購入したり(岩谷秀雄氏・梶谷忠修氏)、架空の委託調査として、1390万円を各事業者にばら蒔いたり(大野一氏)、その様々な不正な利用が度々取り沙汰されております。

中でも、政務活動費を原資にして、各事業者への便宜を図る行為は、公金を使って贈賄をしていると言っても過言では無いので、かなり悪質な行為だと言えるでしょう。


さらに、役所の無駄遣いに関しては、1995年と、昔の話になりますが、食糧費と言う名の下に、40都道府県の秘書課、財政課、東京都事務所において、約27億8000万円相当の不正会計が行われていたとの事例もあります。


3.改善策

実際に存在する対策

実際に、世界各国で行われている、汚職に対処する方法としては、

・汚職が蔓延してる部署の全公務員職員を一旦クビにし、採用制度を刷新してから、再度職員を採用し直す
・特定者との癒着を防ぐため、役人を定期的に移動させる

という方法があるようです。

ちなみに、後者の対策に関しては、実際に、日本においても導入されており、各公務員は、2~4年で強制的に人事異動になるそうです。


私案

①国会議員・地方議員の領収書や報告書を展示する図書館の創設

まず、国会議員や地方議員の基本給与については、透明性を求める必要はありません。

その一方で、資金の透明性が必要なのは、第二の給与第三の給与と呼ばれるものになります。

例えば、国会議員であれば、文書通信交通滞在費(月100万円)、立法事務費(月65万円)、政党交付金(議員一人当たり年間約4000万円)が挙げられます。

地方議員であれば、政務活動費です。

そういった、第二の給与第三の給与については、領収書詳細な報告書を徹底的に求める必要があります。


現在、各役所内には、国会議員や地方議員の領収書や報告書を請求する窓口はありますが、図書館のように、一般人が立ち入って、その場で大量の資料が読めるスペースは存在しません。

ですから、各議員の図書館として、各議員の領収書や報告書を本や資料としてまとめ、簡単に誰でも閲覧できるような、議員図書館の開設をすべきだと思います。

実際、スウェーデンにおいては、議員サービス(Ledamotsservice)と呼ばれる、議員の情報が見れる施設があるとのことです。

費用面において、物理的な施設を用意するのが難しい場合は、ウェブサイト上にて、そういった議員図書館のようなサイトを用意するのは十分可能であると考えます。


②新オンブズマン制度の導入

スウェーデンをはじめとするいくつかの諸外国には、オンブズマンと呼ばれる、行政に対する苦情への対応や、不正会計の調査を、専門的に行う公務員が存在します。

一方、現在の日本においては、市民オンブズマンという、有志の民間人による監査団体が存在しており、行政に対して、情報公開法に基づいて、開示請求を行い、役人や政治家の不正を暴いております。

ですが、今後も、日本政府は大増税を計画しており、大きい政府となるため、現状の民間の有志に頼るやり方では不十分であると考えます。

ですから、私は、日本にも、オンブズマンを導入すべきだと考えます。


私の考えるオンブズマンの役割を要約すれば、"情報公開の請求が無くとも、自主的に情報公開を行う役職"であると言えます。

現在では、基本的に、開示請求をしなければ、行政や議員の出費の状況を知る事が出来ません。

ですが、前項の議員図書館の話で述べたように、今後の日本においては、国民が誰でも、能動的にそれらの情報を知るのではなく、受動的に情報が得られる状態にすべきだと、私は考えております。

なので、具体的には、オンブズマンが、行政の出費や、各議員の領収書や報告書を調査し、議員図書館なり、ウェブサイトにて、国民に解りやすく公表するという事を行います。

ここでポイントなのは、監査自体は、国民や各地の住民が行うという事です。

勿論、地方自治体の会計については、税理士などの会計のプロが監査しなければ、不正は見抜けないので、一般市民が行う事は難しいと思いますが、国会議員や地方議員の領収書や報告書であれば、一般市民でも、行う事は十分に可能です。

仮に、オンブズマンが、監査まで行ってしまうとなると、オンブズマンと議会や役所との癒着が起きた場合、監査機能は一切無効となり、自称オンブズマンの人件費という余計な税金だけかかると言う結果になる事が想定されます。

ですから、理想のオンブズマンの役割としては、情報公開に徹するべきであり、監査自体は住民が行うべきだという事です。

なので、本質的には、現在の市民オンブズマンをベースにした監査制度と大差ないと言えるでしょう。


4.地方分権に伴う汚職の防止策

地方分権改革が実施されれば、地方政府の権限が大幅に拡大するため、当然に、汚職のリスクは増加します。

確かに、地方分権によって、経済成長が起こるのは、ほぼ間違いありませんが、現在の中央集権体制は、各地方自治体で、汚職を防ぐという重要な役割を担っているのも事実なので、官僚達の監視に代わる、新たな制度が必要だと言えます。

そこで、"国は、地方自治体について、日本社会や日本国民の法益を守る上で、見逃す事が出来ない重大な不作為があった場合、当該地方自治体について、課徴金を課す事が出来る"という法律を作ります。

勿論、課徴金を課す場合は、その実施の可否とその金額伴に、議会の承認を要するようにします。

ただ、基本的には、地方自治や住民自治を優先すべきであると思うので、その決議要件は、出席者の3分の2である会社法で言う特別決議にすべきであると思います。


番外編.どうやって中抜き構造を打破するか?

オリンピックの汚職事件を見るように、日本の官僚や政治家達は、オリンピックやその他国の事業を民間企業に発注して、パソナグループ(派遣会社)等の大手民間企業に、一部の額を懐に納めさせるという手法で、合法的に賄賂を行っている訳です。

更に、そういった合法的汚職が起こる場合は、大概、元請け企業が、下請け企業に仕事を投げ、2次3次と、多重請負構造が出来るのが通例です。

そこで、具体的に、どうやって中抜き構造を摘発するか?という方法をお教えすると、"多重請負の最末端の企業に、いくらで仕事を請け負ったか?を確認する"と言う事を行います。

そうする事で、元請けに発注した際の発注額と、最末端の企業が受け取った受注額が求まりますから、その差額が大きい場合は、大胆な中抜きが生じていると言える訳です。

そして、中抜きの疑いがある場合は、多重請負に関わる全ての企業を明らかにして、問題業者を摘発すれば良い訳です。

また、元請け企業が一社で実務を担っている場合は、その一社のみを監督すれば良いだけです。


まとめ.

先ず言いたい事は、今のような、公金の無駄遣いの制度や風習を作り上げてきたのは、自民党・立憲民主党・日本共産党・公明党といった既存政党の議員達です。

各党、国政においては、対立姿勢を見せていますが、地方議会においては、"結託して、公金を騙し取る"ような活動を続けています。

なので、既存政党を排する事無しに、改革は成し得ない可能性が高いという事です。


また、冒頭でも述べた通り、公務員の取り扱う資金の透明性を高められなければ、公金の無駄遣いは減らず、それが転じて、賄賂の横行にも繋がりやすくなるという事です。

一般的に、賄賂の横行というのは、賄賂が慢性化している国と全く賄賂が行われていない国で、極端に二分化されるとのことです。

つまり、ブロークン・ウィンドウ理論のように、賄賂が一定数存在していると、それが全国的に広がり、やがては、警察官や一般職の公務員までもが賄賂を行うようになってしまうという事です。

現行制度のままでは、公的資金の透明性が高いとは言えず、日本経済が更に落ち込んだ時に、賄賂が横行する国になってしまう危険性は十分あるでしょう。


最後に、税金が今後引き上げられるとして、国会議員や地方議員が、海外視察多種多様な無駄遣いを行ったり、役所の不透明な資金の使い方をしていては、国民は絶対に納得しないでしょう。

ですから、大増税をするのであれば、それに伴って、公的資金の透明性の向上を図る制度改革は必須であると考えます。

そのためにも、政治家や役人に厳しい政治を行える議員達を、一人でも多く、当選させる他ありません。


参考文献.

・開発と汚職――開発途上国の汚職・腐敗との闘いにおける新たな挑戦

・コラプション:なぜ汚職は起こるのか

・社会を変えた情報公開 ドキュメント・市民オンブズマン

・武器としての情報公開 ──権力の「手の内」を見抜く (ちくま新書)


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