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【学習】「わかりやすい」が記憶を妨げる?

こんばんは。アカデミー神戸進学会の西富です。

まず最初に謝罪です。
先週にインタビュー記事をアップするよ
と予告してたんですが、インタビュー(音声)の文字起こしがえげつないぐらい大変でとっても時間がかかっております。
今しばらくお待ちください。ごめんなさい。

代わりに(?)今日は「わかりやすいが記憶を妨げる?」というテーマで書いていきます。

学習者の皆さんが陥りがちな罠について書きます。

これから勉強を頑張る人は是非知っておいて欲しい内容です。
できれば保護者の方にも、知っておいて欲しい内容です。


「わかりやすい」は正義か?

とかく学習者の皆さんは

あの先生はわかりやすい!
今日の授業はわかりやすかった!
この本はわかりやすい!

って感じで「わかりやすい」を絶対的な誉め言葉として使います。
まるで「わかりやすければ、学習しやすい」みたいな感じです。

でも本当にそうでしょうか?


浪人時代の失敗

これは僕の失敗談です。
僕は大学受験の際に浪人してるんですが(高校生活で遊びすぎたね^^)
化学が特に大嫌いでした。
化学が大嫌いなのに、化学が必須の大学を志望していたので、化学と向き合うことに。

そこで僕は当時「わかりやすい」と評判だった参考書を買いました。
(当時はamazonとか口コミとかないので、周囲のうわさです!)

確かにわかりやすい

めっちゃわかる!
めっちゃ進む!
これでついに化学攻略か!

意気揚々と読み進めて、1週間ぐらいかけて上下巻2冊を読み終えました。
そして

1ミリも問題は解けるようになりませんでした(笑)

すごくわかりやすくて、スラスラ頭に入ってくるんです。
でもスラスラ頭から抜けていくんですね。

まず学習者の皆さんに知っておいてもらいたいのは

わかりやすいからって、頭に残るとは限らない

ということです。


頭に残るかどうかは思考量が決めている

ここで少し心理学の実験を紹介します。
まずは1973年にロウアーさんが行った実験です。

これから2つの単語を書くので、皆さんはそれを覚えて下さい。

<パターンA>
ペットボトル  置き時計
<パターンB>
エアコン 鍵
(エアコンを切ってから部屋を出て鍵をかけた)
<パターンC>
本棚  財布
※この単語を使って短い文を作って下さい(パターンBみたいな)

ロウアーさんは日本語で実験したワケではないですが、
まぁだいたいこんな感じです。

パターンAでは覚えるべき2つの単語だけを示しました。
パターンBでは2つの単語と、それが含まれた文を示しました。
パターンCでは2つの単語を含む文を、学習者に考えてもらいました。

この中ではパターンCが記憶成績が一番良かったそうです。

実験をもうひとつ
1981年に日本で北尾先生・金子先生が行った実験です。

<パターン1>
どちらが夏に関係がありますか?
花火 ひまわり
<パターン2>
どちらが音がしますか?
花火 ひまわり

パターン1は少し困ってしまいます。「花火」も「ひまわり」もどちらも夏の風物詩です。おそらく学習者は迷った末に、どちらかを答えたでしょう。パターン2はわかりやすい問題です。明らかに音がするのは「花火」です。

この実験の場合はパターン1の方が記憶効果が高かったと出ています。

類似した研究は他にもいくつかあるんですが、
どれを見ても結論としてわかることは
頭に残るかどうかは考えた量が決めている
ということです。


「わかりやすい」は思考量を減らすことがある

この実験で、僕の浪人時代の失敗を説明することができます。

本がわかりやすかったから、考える量が減って、記憶に残らなかった

ということです。

わかりやすい説明というのは時として、本当は学習者が考えなければいけないことを肩代わりしてくれます。

学習者としてはとってもラクで、気分が良いです。
なんだかわかった気になります。
特に当時の僕のようなその科目に苦手意識を持っている人にとっては
もはや中毒性があると言っても良いくらい心地良いです。

でもそれは自分が考えてわかったのではなく
指導者が考えて、わからせてくれたのです。

そういう知識はすぐに抜けてしまいます。
費やした時間の割りに、効果が得られないので良くない勉強に分類されるでしょう。

以前記事に使ったフレーズですが
考えなければ、賢くなるわけないでしょ
という残酷で当たり前の結論から、どうも僕らは逃げられないようです。

「わかりやすい」は思考量を減らし、学習効果を下げることがある

特に自分の理解力・思考力に自信がなかったり、その科目に苦手意識を持っている人は要注意です。
ついつい「わかりやすい」を求めてしまいます。
その方が精神的にラクなのはとても良くわかります。

でもそれは、選ばない方が良い道です。


「上質なわかりやすい」は思考量を増やす

さてここまで
「わかりやすい」=「悪」
みたいな書き方になってしまいました。

でもそんなこともありません。
「わかりやすい」は思考量を下げることもあるだけで、
「上質なわかりやすい」は思考量を増やすこともあります。

例えばこの問題。
(問題の出典は 西林克彦著 『間違いだらけの学習論』より)

次の語句を年代の古い順に並べて下さい
① 墾田永年私財法
② 三世一身法
③ 荘園の成立
④ 班田収授法

正解は ④ ⇒ ② ⇒ ① ⇒ ③ です。
これをざっくり説明すると

班田収授法とは「お前ら田んぼ貸してやるから、取れた米を税として納めろよ。ほんで死んだら田んぼ返せよ」って法律です。税率がキツすぎるのと、死んだら返すんだったら自分の財産増えないじゃんってことで逃げ出す人が続出しました。逃げたらその田んぼは荒れ放題です。

そこで法律をちょっとゆるめて三世一身法で「新しく田んぼを耕した人は、3世代だけそこを私有地として認めてあげる」ということにしました。
人が逃げまくって田んぼが荒れまくっていたので、新しい田んぼを作りたいという意図もあります。でも結局返すんかいってことで、あまり効果はありません。

そこで大盤振る舞いで「新しく田んぼを耕した人は、もう一生そこ私有地でいいよ」という墾田永年私財法を制定。これはもう開墾した人はめっちゃ得なので、田んぼが増えます。でも私有地とは言え税はかかります。

そこでずるい人が「寺社や貴族の私有地には税がかからない」というルールを悪用し「ウチの土地、あなたのモノってことにしてくれない?」と寺社や貴族にお願いして税を逃れる作戦を編み出しました。こうやって寺社や貴族に預かってもらった土地を荘園といいます。

歴史の先生に怒られそうなぐらい四捨五入した説明ですが、
これは「言葉の意味や歴史の流れがイメージできる」ことを重視して書いてみました。

これらの言葉を知らなかった人が問題を見た時には「は?」となって思考停止です。
ここに解説を加えることで、言葉の意味歴史の流れがイメージでき、思考量が増えることがわかると思います。

解説することで思考量が増えることもある

ということです。
ちなみに僕はコーチングスタイルなので、ここからさらに思考量を増やすべく、上のような解説をすることはほとんどありません。代わりに

「班田収授法ってどんな法律なん?」
「え?わからん?じゃあ調べて教えて?」
「調べた?じゃあ班田収授法が敷かれたらどんなことが起こると思う?」

みたいな感じで問いかけることで生徒の思考量を増やす指導法を採っています。もちろんこちらがしゃべらないとラチがあかない場合はしゃべるんですが…。

結局はメタ認知能力

ここまで書いてきたことをまとめると

・頭に残るかどうかは、思考量で決まる
・「わかりやすい」は思考量を下げることがある
・勉強が苦手な人は「わかりやすい」を求めがち
・「わかりやすい」は思考量を上げることもある

という感じです。

じゃあ結局どうしたらいいねん

っていう話なんですが、これは

「わかりやすさ」ではなく、自分の思考量を基準にして下さい

ということになります。
仮に本や授業の説明がわかりにくいと感じても、自分の思考が流れているなら良い状態と言えますし
説明がわかりやすいと感じても、自分があまり思考していない状態であれば勉強は上手くいっていません。
あなたの勉強の良し悪しを決めるのは、あなたでしかない。

だから常に自分の思考を観察するクセをつけて下さい。
これをメタ認知能力といって、記事にも何度か書きましたし、授業では死ぬほど言ってます。

僕らは学習のプロです。
でも僕らが生徒たちの成績を上げることはできません。
自分の成績を上げるのは、あくまで自分自身なんだということをまず受け入れましょう。
考えなければ、賢くなるワケがないという当たり前の事実を受け入れるところから始めましょう。

ちゃんと自分は思考しているのか?

デカルトではありませんが「考える自分」を足場に自分の勉強を評価できるようになって下さい。問題が解けたとか、点数が何点だったとか、目に見える指標でしか学習を評価できないようではキツいっす。
自分の頭はちゃんと回っているか?
思考できてるか?
理解できてるか?
覚えられてるか?

常に自問自答しながら、自分で学習を進めていって下さい。

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