ソーセージとマッシュポテト

「結果的にそうなっても仕方ない。」彼はそういった。

終電までズルズルと粘ってしまったふたり。一緒にいたかったふたり。ただそれだけだった。ふたりともきっと互いに惹かれ合っていたのだと思う。けれど、答えなど出してはくれなかった。やっぱり私は、0か1か2の選択肢しか渡すことができない。もう嫌いになって彼を忘れてもう二度と会わないか、このまま流れに身を任せてそのまま愛し合って今夜眠りに就いてその夜限りか、今夜、答えを出してもらい次に進むか、その選択肢だけ。自分を守るための選択肢。もうこれ以上、悲しい思いをすることを選択したくない。悲しい思いをする選択肢を率先して選ぼうとする人はいないだろうが。

ここでいいたい。私は惚れやすすぎると心から思う。

 彼とあったのは初めてでマッチングアプリでマッチングし、連絡を取り合い、意気投合するまでにはそこまで時間を要することはなかった。週に1,2回ほど電話をしながら彼に惹かれていった。そんなある日、一緒に飲むことが決まり、それが昨日の夜のことであった。とても楽しみにしていて前の日には、まるで修学旅行や遠足の前の夜のように眠れない夜を過ごした。
 そして、当日待ち合わせの時間ぴったりに向かい、彼と初対面を果たす。イメージと変わらない彼。一通りの会話を交わして、楽しい時間を過ごした。今日になってもまだ楽しかったと思える。我ながら愚かである。一軒目から二軒目に足を運ばせる。彼が私に触れようとしてくれていることがわかったけれど、わざと知らないふりをして2軒目のお店にたどり着いた。

じんわりと時が過ぎていくのを感じる。

 お店の閉店の時間になり、お店を出たが、外が寒かったために、風の当たらない地下街を2人で散歩した。彼は3軒目に行きたがっていたが、私はそこまで飲みたくはなかったし、この雰囲気は飲みに行くような類のものではないと私の女としての勘が教えてくれてしまった。そんなこと知りたくなどなかった。
 ぷらぷらと歩きながら座ることのできる場所にたどり着き、またふたりで話し始める。どうやら彼は気持ち良いくらいに酔いが回っているようだ。そんな私たちが駅前で別れを惜しんでベタつき気色の悪いゴミカップルのようになるのには時間を要さなかった。

気がつけば、彼と私の唇は重なってしまった。

 しばらくぶりの唇。しばらくぶりに誰かに抱きしめられただろうか。私はどうやら、しばらくぶりのせいか、それまでの蓄積のせいか、それだけで、心の奥底で彼が欲しいと自分で自分の心を締めつけてくるのがわかった。胸が苦しい。愛おしい。そして久しぶりの好きという感情が全身を駆け巡るのを自分で感じ、理解してしまう。なんて愚か。会って一日、更に言えば数時間のふたり。なぜ、そんなにも簡単に心を許して好いてしまえるのだろうか、私は。
 でも。自分でこのストーリーの結末を選ばなければ行けないようだ。いっそのこと、選択肢など渡してくれずに多少強引でもいいから私をさらって行ってくれれば、いいのに。と何度も考えた。そしたらいつもの通り勝手に言い訳を作って勝手に最低な男に降格させてさようならの手順が踏めるのに。それにするには彼は優しすぎた。

そんな優しさ私には、唐辛子のアイスクリームと同じようなものだ。甘いのに辛い。

彼は、そう一緒にいたかった。宿泊できる個室でふたりきりで。

彼女は、彼というカード切れなくて、葛藤して、葛藤して。その日は、このままキレイでいたかった。まだ汚れることなくまっさらな気持ちのままに彼とは。

最後の最後まで葛藤を続け、私は、彼の姿を振り返ることなく、終電の駅のホームへ向かった。見れなかった。見たらまた会いたくなってしまうのが怖くて。もうここで。お別れ。

ああ、またこうやって私は、踏ん切りをつけて、自分の心を踏みつけて次に進もうとしてしまう。自分の心に逆らって。自分の心に従える日がきてくれることを願う。今日の日に。

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