イギリスのスーパーで店員とけんかした話
近所の大型スーパーには、
私が「つるさん」と密かに命名している、
おじいさん店員がいる。
なぜ「つるさん」かというと、
「つるさんはまるまるむし」
に似てるからで、その風貌からして、
一見して気が弱そうだが、実は、接客態度が最悪と悪評が高いひとである。
レジの客が長蛇の列になっていようとも、
仲の良い常連とはいつまでもしゃべる。
逆に、気に食わない客には商品を投げてよこす。
いつぞやはレジ列で、私がまぁまぁの量の商品を、全部ベルトに並べ終え、
はい、お次は私という所で、つるさんにバタンとゲートを閉められ、「もう俺は終わりや」とシッシと手で払われた。
並べる前に言えや!
とか、言いたいところであるが、
ここは、定年は軽くこえているであろう彼が、やっと掴み取った職場かもしれない。おもちゃを孫に買い与える彼を想像したりして、なんとかぐっとこらえた。
でも、怒っておりますという意思表示はしておきたいので、
「Yes, your majesty」(はい陛下)
と、うやうやしく、カーツィーをして、
他のレジに並び直した。
これは、後ろに並んでいたイギリス人夫婦には大ウケしたが、この日以降、レジでは私の商品も投げつけられるようになった。
そして先日、ビールを箱買いしたくて、またそのスーパーへ行ったのだが、運び係として、息子がついてきてくれた。
セルフレジで、ビールを通した時、
「アシスタントコール」のランプがついて、レジが止まった。
年齢確認に、店員がくることになっている。
きたのは、つるさんだった。
車の免許証を渡すと、わたしの顔を確認して、無言で返してきて、息子に「はい、アンタも」と手を出した。
「あ、彼は13歳なので、身分証なんて…」
と言いかけたら、
「なら売れん」と言う。
「いやいや、親の買い物についてくるのに、今までパスポートなんて持ち歩かせたことないですよ」
「売れん。だって、この酒はあんたが息子に買ってやっているのかもしれんしな」
今までこんなこと言ったことなかったのに。
先週は普通に売ったのに。
嫌がらせか。
そんなら私も、よしいくぞう。
「これは友人宅へもっていくために買っているんです。関係ないかもしれませんが、事実ですから一応。
で、確認ですが。
イギリスの法律では、18歳からアルコールはOKですよね?
16、17歳は親と同伴なら、レストランでの飲酒もOK。
そして驚くべきことに、
親の管理下なら、5歳から自宅での飲酒は合法とされている。
さすがにそんな親はいないでしょうが、
法律では認められているわけです。
しかしそれならば、
飲ませて良い、でも買わせない。
って矛盾していませんか?
自宅で密造しろとでも?」
未成年の飲酒を止めるためや、
大人の義務や、
と言う、つるさん。
「25歳以下のIDの提示は賛成です。
店側が、責任を問われるのもわかります。
だから、あのお母さんの横にいる小学生にも提示させてください。
あのベビーを抱いたお父さんにも。
あなたの主観的な判断ではなく、全員に提示を求めたらいいんじゃないですか?」
すると、つるさんが叫んだ。
「だいたいアジア人が何歳かなんて、
わかるかっ!」
言うたな。
言うたね、あんた。
口に出したらダメなことを。
もう、しょうがない。
大事にしたくないけれどもしょうがない。
「話にならない。店長を呼んでください」
「店長はわしや!」
おまえかい!
あんたが店長かっ!
ということで、
行きのつけスーパーをひとつ失った、
2021年年末。
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