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悪意のない辱めほど恥ずかしいものは無い。


悪意のない辱めほど恥ずかしいものは無い。

僕がこの真理に辿り着いたのは、まだレッドロックのローストビーフ丼が人気絶頂だった、あの夏の日のこと。

僕はその日、手狭な1Kに佇むガジュマルの葉っぱが、カラッカラに干からびていることに気づいた。

健やかなほど安直だったと思う。
観葉植物 is ベスト。ガジュマルさえ迎え入れれば、僕の部屋もインスタでルームツアーなんぞをされる部屋に昇華されるはず。


まあもちろんそんなわけもなく、萎んだ葉っぱが実に似合う小汚い部屋に行き着いてしまったのだが。

そのせいだ。きっと天罰が下ったんだ。

初投稿記事でも僕のお腹の弱さに触れたのだが、何度でも、声高に言いたい。お腹がとってもデリケートなんです。

真夏の青空とは裏腹に、僕の腹事情は曇天真っ盛り。一日中トイレにこもっていた。
一向に収まらない腹痛、減っていくトイレットペーパー、上がっていく体温。

ああ、とっても生命を感じるなあ。


居ても立っても居られず、ほぼほふく前進で近所の内科へ泣きついた。

実を言うと、この医者はあまり好きでは無い。
以前花粉症で受診した時、ファッション目覚めたてほやほやだった僕の渾身の格好を見るなり、「変なズボンだねえ。」とニヤニヤ笑いながら言い放ったのだ。


都会に出てきて初めて履いたワイドパンツ。オシャレへの大いなる一歩。それを引っ掛けて転がしたのだ、あの医者は。これは罪深いぞ。

だから好きじゃないし、この医者にかかるのは色んな意味で「泣きついた」となるのだ。

だがそうも言ってられない。こちらは緊急事態だ。
仕方なく診察室へ入り、因縁の相手と対面した。


今日も相変わらずメガネの奥でニヤついている気がするな。
そんな僕の気も知らず、診察は進んでいく。
なんとか今日はファッションをディスられることもなく済みそうだ、と息を吐いたところで質問が飛んだ。

「お腹痛そうだねえ。最近変なもの食べた?
昨日の朝くらいから何食べたか教えてくれる?」

「たしか、昨日の朝はシュークリーム2個です。」

朝からシュークリーム2個だ。
いいじゃないか。朝からシュークリームとか朝からカップラーメンとか、そう言う感じ大学生ぽくて。

「それ腐ってないよねえ。ふ〜ん。じゃあ昼ごはんは?」

「えー、昼もおんなじシュークリーム3個です。」

「え、またシュークリーム?」

「は、はい。」

おお、やらかしたぞ、これは。恥ずかしい。
そこそこの大人が2食続けてシュークリーム。しかも朝から1個増えて3個食べているところがとってもいやしい。

顔が赤くなっているのが自分でもわかる。

だが、魔の診察は終わることなく、次の質問が襲いかかってくる。

「じゃあ夜ご飯は?」

「はい。。エクレアです。。」

いやぁー!!恥ずかしい!!穴があったら入りたい。恥ずかしさのあまり先生を見られず下を向く。


なんと堕落した食生活。体への労りも食への関心も見られない。本当に頭の悪い食事だ。
田舎のおっかさんに大事に育ててもらった集大成がこれか。

しばらくの沈黙のせいで不安になり、おそるおそる顔を上げて先生の顔を見ると、

「チョコ、かけたねえ。(ニヤニヤ)」

ぽーっ!!ヤカンから湯気が噴き出すかの如く、嫌な汗も尊厳も見栄も色んなものが飛び出した。

見ると隣でパソコンを触っている看護師さんにも笑われているじゃないか。


恥ずかし過ぎて、さっきまでズキズキと痛んでいたお腹さえもおとなしく縮こまっている。

「きみ、もうちょっとまともな食事摂りなさいね。(ニヤニヤ)」

「はい、、、」

なんだか、解熱剤とか腹痛を抑える薬とか色々をもらって病院を後にしたが、失ったものの方が絶対に大きい気がする。

なぜこんなにシュークリームを食べていたかと言うと、実際に頭が悪いのだが、Amazonで何十個と大量に注文したからだ。下宿の最大のメリット、自分の好きなように暮らせる、と言う魅力をシュークリームの暴食に見出してしまった。


本当に本当に恥ずかしい思いをした。


だが、一つ安心したことがある。


もし、あのニヤニヤメガネ先生に「今日の朝、何食べたの?」と聞かれていたら。

僕は力なく「シュークリームですぅ。」と答えるしかなかったのだ。


万が一、そんな会話をしていたならば、きっと先生はニヤニヤしながらこう言うだろう。

「チョコ、取ったねえ。」




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