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10章 魔界の扉


謎の囚人


エリカは、ギャラクシアの園庭で勉強していた。
潜入捜査の任務を兼ね備えている為、部屋に籠ることを許されなかったのだ。

そこは、雲の上に、実の成る木が生え、おしゃれなベンチやテーブルがある、楽園のような場所であった。

そこで、生徒たちは、勉強をしたり、休憩をしていたりしている。

ハープの音がどこからか聞こえてきて、心地よい風が顔に当った。

しかし、エリカの顔は暗かった。

三回生として、膨大な量の課題に苦しんでいたが、それだけではない。

鬱々とした気持ちを紛らわせるために、明るい園庭を選んだものの、少しも気分は晴れなかった。

その原因は、先日の被験体を使った実験にあった。

"マリアやフランチェスカは、危険な人物である。
危険な行為の荷担はしたくない。"

その思いを立ちきるかの如く筆を走らせていたが、ふと顔をあげた時、
懸念していた人物の1人が、折よく目に入った。

マリアが園庭の東側を歩いていたのだ。

禁止領域へ続く小道の付近である。
たまに人が通ることもあるので、特段不信がる必用はないが、だがしかし、相手はマリアだ。

その時、マリアへの注意を剃らすかのように、更なる不信な人物が目に入ることとなった。

2人の学生がひそひそしながら歩いている。

「ジャスミンにエヴァン、、、」

「、、、やっぱり、あの2人はおかしい」

2人は別々の国民だ。
国家間の目論見に巻き込まれているのだろうか。

意を決して、尾行してみることにした。

ほぼ木しか無かったので、尾行は中々難しかった。

2人は、園庭を出て行き、入学した時に通過した、門扉へと向かっていた。

エリカもそっとついていく。

丁度いい場所に(都合よくあった)オブジェの影に、身を潜めた。

2人は、門扉の前で足を止めていた。

ジャスミンが囁いているのが聞こえた。
「門扉の魔物さん。
お願いです。
目を覚ましてください。」

エヴァンも言った。
「お目覚めください。」

しかし、何も起きない。

ジャスミンがコンコンと叩く。

暫くたっても何も起きないので、エヴァンが苛つきを隠しきれない様子で言った。

「こんなただの石の塊が話すかよ。」

「、、、でも、逃げ出そうとした、元人間の魔物に、この門扉が恫喝していたの、見たよ。」

「今から逃げ出そうとすれば、話すとでも言うのか?」
エヴァンはそう呟くと、扉の隙間に手を入れた。

力を入れてこじ開けようと(しているように見せかけて)しているエヴァンを見て、ジャスミンが言った。
「、、、今日はやめる?
気分じゃないみたい」

エヴァンは扉を睨み付けながら言った。
「全く気難しいやつだ!」

その時、ずしりと重い声がした。

「おい、ガキども、静かにしろ。」

門扉には、巨大な顔が浮かびあがっていた。
二人を睨んでいる。
立派な凱旋門に相応しい大きさだが、それに相応しくない冴えない顔立ちをしていた。
立体的な顔は、まるで粘土に埋め込まれているかのように柔軟な動きをみせた。

ジャスミンもエヴァンも、その怪奇な現象に怯む。

エヴァンが思いきって聞いた。
「ここに、囚人が来ませんでしたから?」

門扉は思い出すような素振りを見せた。
いたって普通の反応だが、ここまで巨大だと迫力がある。
門扉は口を開いた。
「囚人、、、?
あぁそれらしき男が入ってのはみた。」

「どんな囚人か、覚えていますか?」
ジャスミンが聞いた。

「囚人てのは、みんな同じような格好してるからな。

だがしかし、、、

名前を忘れたと頭のおかしいことを言っていたぞ。

それだけは覚えている。」

2人は顔を見合わせた。

ジャスミンが言った。
「やっぱり、ゴルテス様が昔雇っていた、航海士だよ。
私たちはその頃生まれてないし、その人のこと知らないけどね。」

エヴァンは頷いて言った。
「雇われてた頃から、口癖は、名前は忘れた、だそうだな。」

物陰から身を潜めていたエリカは、ゴルテス゛様゛という言葉に眉を潜めた。

ジャスミンは、門扉に尋ねた。
「彼がどこにいるか知らない?」

「知るものか。
オレは門を出入りする人物のことしか知らない。

もういいか?
寝たいんだよ。」

エヴァンは、その言葉を乗り越えて尋ねた。
「何か、他に言っていませんでしたか?」

しかし、門扉の顔は次第に薄くなっていく。
「知らんと言っておろうが、、、。」
そう言い残して、門扉の顔は完全に消えた。

ジャスミンは、エヴァンを見て言った。
「彼は、ゴルテス様を魔界へ案内しようとした航海士だよ。
見つけ出せば、長老を探す手間が省ける。」

エヴァンは言う。
「そいつを見つける手間も加味すれば、ドッコイだろ。」

2人は立ち去っていった。

エリカは、その場に残ったまま自問自答していた。

政府に通達すべき、、、?
けれども、下界とやりとり出来ない。

ならば、、、。

そして決断した。

エリカは、園庭を闊歩しながら、校舎へと向かった。

誰かとぶつかる。

「どうしたの?そんなに急いで、、、」

優しげな声でそう言ったのは、マーシャであった。

「フランキー少佐はどこにいるか知ってる?」

マーシャは小首を傾げた。
「ごめんね、分からない。
でも、、、学生と軍人とのやり取りは出来ないよ。
見つかれば、魚に食べられるってラベンダーさんも言っていたでしょ?」

そうだ、忘れていた、、、。

ならば先に、囚人とやらを探さなければならない。

2人に先を越される前に。。。

おっとりと話す彼女を尻目に、エリカは「ありがとう」と立ち去る。

「ラベンダーさんの許可が取れれば別だって言っていたような、、、」
マーシャはゆっくりと話す性故に、
この言葉を発した時には既に、エリカはいなかった。

魔物の知能


エリカは今、校舎の廊下を足早に歩いている。

人気のない廊下、、、。
向かい側からやって来る通行人をふと見た時、目があった。
マリアである。

先程まで禁止領域にいたのに、、、。

エリカが疑念を抱いていると、
マリアは、軽く会釈をして通り過ぎようとした。

同輩とは思えない態度に若干、憤りながらも、エリカはマリアの腕を軽く掴む。

マリアが止まるとエリカは伝えた。
「ジャスミンとエヴァンがゴルテスと繋がっています。

ゴルテスは帝国への間諜でしたよね?
更には公国への間諜である可能性も浮上しています。
つまり、2人も両国への間諜を図っている。

公国民のジャスミンと、帝国民のエヴァンが結びついているのも不可解です。

更なる報告があります。
かつて、ゴルテスを魔界へ誘おうとした人物がおり、それはここに連れられて来た死刑囚だったようです。」

マリアは、微笑を向けて言った。
「そうなのですね。
報告ありがとうございます。
今から私も、それを確認しに行きます。」

エリカは驚いて尋ねた。
「牢獄の場所を知っているのですか?」

「知っているも何も、私と護衛が連れて行ったのです。
牢獄へ繋がる用水路までですが。」

「私も、行きます。」
エリカの言葉に、
マリアは頷いた。
「承知しました。」

「ところで、間諜2人をフランキー少佐に報告したいのですが。」
エリカは思い出したように言った。

「既にマークしていましたよ。
暫くは泳がせているようです。」
マリアは落ち着き払って答えさた。

エリカはほっと胸を撫で下ろしたが、心は晴れなかった。
同級生が間諜であったのだ。


その後エリカは、ずっと続く廊下を、マリアに続き歩いていた。

微かに、水の流れる音が聞こえてくる。

前へと進んでいくごとに、音は次第に大きくなり、水源に近づいていくのが感じられた。

そのまま暫く歩いていくと、大広間に出た。

天井が高く、先頭アーチの窓が並ぶ壮大な造りをしている、

水の音源は、中央を一直線に通る用水路であった。

水音以外に、人々の話し声が聞こえる。解放的な構造故に、広場にいる複数人の声が響いているのだ。

看守達である。
それに紛れて、神父や修道女、学者なども散見された。

マリアは用水路沿いを歩いていく。

後ろを歩いていたエリカは、水の中を見て度肝が抜かれた。
水面から、大きな魚の陰がいくつか見えたのだ。

エリカは、その大きさと恐ろしい外見に顔を強ばらせていた。

その様子に気づいたのか、マリアは言った。
「問題ありません。」

「問題、、ない、、、ですか。」

咀嚼しきれていないエリカを、気に止める様子もなく、マリアは歩き続けている。

暫くすると、
小舟が停めてある渡し場が見えてきた
2人は、そこで歩を止める。

マリアは止め縄を外すと、船に乗るように、エリカに促した。

不気味な用水路の船など、乗りたくないのが正直な気持ちだったが、乗るより他に選択肢が無い。

エリカが乗ると、マリアも続いて乗る。

すると、突如、水面が泡立ち始めた。
それに合わせて船も揺られる。

何かが、水底から沸き上がってくるのを感じた。

そして、遂にそれが姿を現す。

それは、予想通りな反面で、外れてほしかったものだ。

先ほどから、用水路を泳いでいた巨大な魚である。

「何ですかこれは。」
唖然とするエリカ、、、。

「この魚は、人間だった時、牢獄の番人でした。」

「なるほど、了解です。」

言葉とは裏腹に、エリカの顔は凍りついていた。

しかし、頭が追い付く前に、事態は進行した。

魚が巨大な口をガッと開いたのだ。
中には無数の歯が見える。
しかも、それは人間の歯であった。
舌や口蓋垂も見え、人間であった頃の残片を不気味な形で残していた。

魚は、その口で船尾にかぶり付いた。

船体が大きく揺れ、エリカは体勢を崩し船縁に手をかけた。
一方でマリアは、強靭な体幹で体勢を維持していた。
華奢な骨格に反して、筋肉は鍛え上げられているようだ。

魚は尾っぽを動かし、その力で船体は前へと動き始めた。

水流とは逆向きである。

穏やかに見えて、流速があるのか、ゆっくりゆっくりと前へと進む。

「この魚、本当に私たちを餌だとは思っていないんですよね。」

「、、、どこまで人間としての理性を残しているのか分かりません。
しかし、この番人無しには、牢獄へいくことが出来ません。」

エリカは苦笑した。
「そういうことは、先に言ってくださると助かります。」

「申し訳ありません。
では、先に言います。
この先の水流が逆になる箇所までは、水はおちた物を全て呑み込みます。
底の方では、激しく水がうねっていますから。」
マリアは、謝意を伝えつつ、追い討ちをかけてきた。

エリカは、水深の分からない用水路を見て、震えあがった。

用水路は、広間の壁のトンネルから流れていた。

小舟は、流れに逆らって進んでいき、そのトンネルに入っていく、、、。

中は、一寸の光もない暗闇。

マリアはランプを灯した。

ふいにエリカが尋ねた。
「長老はどこにいるのでしょうかね。
そもそも、長老とは何者なんでしょう。」

マリアは答えた。
「用務員のラベンダー・スミスを執拗に尾行してみましたが、長老と接する様子はありませんでした。

しかし、1つだけ分かったことがあります。

長老は魔法物理学の元祖だと、彼女は言っていました。

そこから推察するに、
長老は、純粋な魔物ではない。
人間が魔物になり果てた姿、魔人まびとでしょう。

彼は、人間であった時に魔法物理学を発明したのかもしれません。」

エリカは納得いかない様子で尋ねた。
「?
ギャラクシアを与えた魔物が、元祖なのでは?」

マリアは言った。
「魔物は、ギャラクシアを提供しただけ。
魔法を直接人間に授けたわけではありません。
人間は、ギャラクシアで魔法物理学を創りあげ、魔法(疑似)を得たのです。

この学園の魔法が、人間の限界を超えた理解力を与えるからです。

一方で、純粋な魔物は、人間のような論理的思考は持ち合わせておらず、魔法物理学などは到底理解出来ないのです。

しかし彼らは、そのような学問など理解せずに魔法を行使する、、、。
それこそ、本当の意味で、魔法を扱うことが出来るのです。」

エリカは納得したように言った。
「魔物は、
ブラックボックスのように、原理を知ることなく魔法を扱うのですから、
魔法物理学の元祖は、やはり人間と考えた方が辻褄が合いますね。」

それからエリカは、肩をくすめて言った。
「私達は勘違いしているのかもしれませんね。
人間が手に入れたのは、✔️✔️✔️✔️であり、本当の魔法ではないのですかね。」

「その辺りは、微妙なところですが、概ね先輩のおっしゃる通りかと思います。」

その時急に、前からの力がかかり、倒れそうになった。
エリカもマリアも、舟淵につかまる。

小舟の進む速さが増していたのだ。

振動でランプの光が消えた。
真っ暗闇の中、スピードを上げて走行する舟。。。

そして、ふっと突然、視界が開けた。
あまりの眩しさに、思わずエリカは目を閉じた。

どうやら、トンネルを抜けたようだ。

そっと目を開けると、そこは、建物外であった。
頭上には青空が広がり、陽の光が綺麗に水の色を反射させている。

しかし、空の色以外に外の様子は見えなかった。
用水路の幅は、先程の何倍にも広がり、
両側は、水が透明な壁を作るようにして、遥か上空から流れおちている。

その水の壁の向こう側は、光が反射して、ぼやけている。

綺麗な景色とは裏腹に、流れおちる水の轟音が響き渡っていた。

エリカはハッとして青ざめた。

「、、、滝です!!」
そう叫んだ声も、水の音に掻き消されてしまう。。。

エリカの示す滝というのは、両側の水の壁のことではない。
それは、2人の乗るこの舟の行く先にあった。

視界の端には、それを示唆する水の境界線が見える。
つまり、その先は真下へと水がおちていくということだ。

水流は、先程とは逆向きに、つまり進行方向へと向っていた。

「、、、どうしましょう。」
狼狽えるエリカと違って、マリアは無表情で行く先を見ていた。

「なぜ平気でいられるのです?!?!」
焦りを露にするエリカに、
マリアは涼しい目を向けて言った。
「降りることも出来ませんし、仕方ありません。」

その言葉に、エリカは干からびた声が出る。
「とても素敵な造りですね、、、」

「囚人が簡単に脱獄出来ないようにするためです。」

「そうでしょうね!」
エリカが投げやりにそう言った時、
遂に、水の切れ目がやって来た。

滝の上部から、落下境界線に差し掛かり、一気に落下する、、、。

ゾワゾワとした浮遊感しか感じることが出来なかった。

自分がどのようにおちていっているのか、
そんなことは気に止める余裕もなく、
垂直落下する体の恐怖をひたすら味わされていた。

2人は船と共に一気に滝つぼにおち、生身の体のまま水中に沈んだ。

そして、その先にあるトンネルの中へと、凄まじい速さで流されていく。

エリカは、ひたすら水中で手足を動かしもがいていた。

すると、足が地面を蹴った感覚がする。
そのまま水流に押されて進んでいくと、水が浅くなっていくのが分かった。

水面から顔を出せる水深になると、爪先立ちになり思いっきり息を吸った。

大量に水を飲んでしまったが、幸いなことに窒息せずに済んだようだ。

水流に従い進んでいくと、完全に足が付くようになった。

再び、建物内に入ったようだ。
辺りは完全に壁と天井に覆われ、陰鬱な証明に照らされていた。

咳き込みながら歩いていると、背後から声をかけられる。
「ご加減いかがですか?」

マリアが平然とした顔で立っていた。
このような状況でも彼女は常に平淡である。

「大丈夫です。
行きましょう。」
エリカは、マリアの平常運転に慣れつつあった、、、


魔界の位置


そのまま、2人は、浅くなった水路を歩いていく。

水底は次第に高くなっていき、遂に地面が顔をのぞかせた。

濡れた通路を歩いき、突き当たりのT字路に来たとき、ずらっと牢屋が並んでいるのが見えた。

何やら、男の呻き声が響いている。
右手の通路から聞こえるその声は、囚人のもので間違いない。

エリカとマリアが近づくと、足音が谺し、それに気づいたのか呻き声はぴたりと止まった。

そして、ガンと鉄格子の音をさせ、柵に手を引っ掻けて顔を見せる。

2人は、その囚人の前で足を止めた。

男は、すがりつくように訴えかけた。
「じょ、嬢ちゃんたち、
ここから出してくれ。
何でもするからよ。
ここは、ここは、いやだ。」

「それは、陛下が決めることです。」
マリアが静かに言い放った。

その言葉に、男の表情は固まり、絶望を顕にする。

エリカは、柵ごしに近づき、尋ねた。
「あんたが魔界から生還した、たった一人の人間なの?」

「、、、なわけねーだろうが。」

その顔をみる限り、本当のようだった。

エリカは更に尋ねる。
「ゴルテスを、昔魔界へ案内しようとしていたんでしょ?」

「だから、そんなやつは知らないって言ってるだろうが!」

「では、先輩、帰りましょう。
彼はやはり関係なかったようです。」

マリアはそう言うと、「お騒がせしました。」と囚人に背を向ける。

立ち去ろうとするマリアを、エリカは困ったように見つめた。

男は、焦りを露にして声をあげた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」

そして、訴えかけた。
「魔界への行き方を知っている。」

マリアの足がぴたりと止まる。
「それは、本当ですか?」

男は答えた。
「死領域となる海のど真ん中だ。

魔界の扉とは、かつて、秘少石のエネルギーで魔界と繋がった場所なんだ。」

それから、男は話し始めた。
「航海士だったオレは、潮の流れが不定期におかしくなる箇所を見つけた。

それは、ほんの些細な違和感だったし、普通の航海士じゃ見逃す程度のものだった。

妙にそこが気になったオレは、海水中に棒を入れたり、様々な調査をしてみた。

それで気がついた。

潮の流れがおかしくなった瞬間決まった方向に、一寸の狂いもなく進むと、海が坂のようになっていくことをね。

奇妙な現象だったよ。

オレはそれから恐ろしくなって、そこの調査をやめた。」

それから、男の顔の表情が急に固まった。

一点を見つめたまま話し出す。
「思い出したぞ。
ゴルテスってやつをな。
航海士のオレは、異国へ用のあったヤツを乗せて航海をしていた。
その時に、例の箇所を通りかかり、見つめていると、ゴルテスに尋ねられたんだ。

でオレは話した。

すると、ヤツは驚いた表情をして言った。
それは魔界の入り口に違いないとな。

一見バカみたいな台詞だが、あの現象を自分の目で見たんだ。
否定しきれなかった。

大量の金貨に吊られてオレは契約し、魔界への船を出した。

ギャラクシア開校前だった当時は、魔界との繋がりが少しずつ弱くなってたからな、入り口を開く瞬間はそうそう現れなかった。

しかし、遂に入ることが出来たんだ。

そこから先は覚えていない。

あまりの恐怖で逃げ出して、遭難し、記憶を失った。

ヤツはオレを恨んでいるに違いないな。」

エリカが聞く。
「で、そこはどこなのですか?」

「、、、それが忘れたんだ。」

「はい?そこ1番肝心なとこですよね!」

男は、焦りを露にした。
「しかし、!!

入り口へ入る高度な航海術はオレにしか出来ない。

場所さえ分かれば、お前らを魔界へつれていける。」

そう言って必死に訴えかける彼に、マリアが静かに答えた。
「分かりました。

その場所が分かり次第、
私たちへの協力を絶対条件に、解放するよう、
研究長を通して陛下に進言します。」

エリカは、危険な雰囲気を醸し出している男を見ながらマリアに言った。
「ギャラクシアの開校で、魔界との繋がりは強くなったのです。
この囚人の力を借りなくてもいいのでは?」

マリアが微笑を浮かべて言った。
「それは、人間が魔界に入りやすくなるであろう、確固たる理由とはなりません。
本囚人に、利用価値がないとは断言出来ません。」

エリカは、囚人を怪奇な目で見て言った。
「、、、ということなら、、、
囚人さん、よろしくお願いします。」

男は、希望にすがるような顔つきになった後、2人に言った。
「その呼び方はないぜ。」

エリカが言った。
「では、どのような呼び名をご希望で?」

「⚓️船長って呼んでくれ。」
男は、誇り高そうに言った。

「それでは、、、船長さん、よろしくお願いします。」
エリカは、手を差し出した。

が、

肝心なことを思い出して声をあらげた。
「、、、じゃない!!!
なぜ罪人となったのです!?」

男が言い渋るのを見てエリカが捲し立てた。
「それも忘れたのです?
遭難もしてないのに。」

男は観念したように言った。
「帝国の宮殿に侵入し、護衛を1人殺ったんだ。

侵入の理由は大したことじゃない。
幼なじみに会いに来ただけだ。

陛下の実母だ。」

エリカの目が見開かれる。
そして、言いにくそうに口を開いた。
「これは、帝国民の者から聞いた話ですが、
魔族は、血を濃くしすぎない為に、普通の人間と婚約する。
けれども、普通の人間が魔族を妊娠するのは負担が重い。
お妃様は、いえ、いまや母后様は、エレン様を生んですぐ、亡くなられました。」

「、、、そうか。
そうなんじゃないかと思ってたさ。」
優秀な航海士の日に焼けた顔は、寂しさの中に怒りを秘めていた。

牢獄から出ることは、更に困難な構造になっていた。
入りにくいなら、更に出にくくする。
それが、囚人を監禁する牢獄というものだ。

2人は、通路の狭い階段を上っていた。
人1人がやっと通れるほどに、狭い。

エリカは、長い階段を上りながら、
前を行くマリアに話しかけた。
「かつて、秘少石の力が放出された箇所、そこがあの囚人のいう、魔界の入り口ということでしょうか。
しかし、私は思うのですが、その箇所に限らず、
死領域は全体が、魔界と繋がっているのではないですか?
人間にも扉を開いているのが、その一ヶ所だというだけで、、、、。」

「、、、おっしゃる通りかと思います。

死領域は、秘少石のエネルギーが拡散した領域であり、
そこでは空間が大きく歪んでいるのでしょう。」

「?
魔界は、空間の歪みの先にあるということでしょうか。」

「それは分かりかねますが、
死領域は全体に空間の歪みが生じている可能性が非常に高いです。。
更にはその歪みが大きい箇所が、例の囚人の供述していた海の只中にある、魔界の扉。」


「しかしですよ?
人により、歪みに引き込まれたり引き込まれなかったり。」
言いかけて、エリカはハッとした。
「もしや、、、悪魔が人間を拐っていっているのでは、、、?
それならば、説明がつきます。」

しかし、すぐにその考えは、マリアにより打ち砕かれた。
「僭越ながら、、、その可能性は低いかと思います。
歪みに引き込まれた人間は、
引きずり込まれたのではなく、
まるで道を間違えたかのように何の抵抗もなく消えていったのだと、報告書にあがっています。」

その時であった!!!!!!!!!!!

「伏せてください!!!」
マリアが恫喝した。

エリカは突然のことに頭が追い付かなかった。
事態を飲み込む前に、
上腕部に激痛が走った。

そこで気づいた。
後ろから何者かに発砲されたのだと。

それを機に、容赦ない銃弾の嵐。

狭い通路で、当たらないわけはなかった。
銃弾は、エリカの右腕に命中した。

激痛の中、
意識は途絶えた。。。

一般人の潜在魔力


激痛の中で意識を取り戻す。

エリカは、固い石の上に寝かされていた。
一瞬、助け出されたのかと期待したが、すぐに状況に気がついた。
両手両足が拘束されているのだ。

仰向けのまま、天井を見上げる。
非常に高い、、、。

ここがどこか気づく。
大聖堂である。
牢獄へと向かう際に通りかかった場所だ。
中央を流れる用水路の音が微かに聞こえる。

足音も話し声も一切聞こえない。
視界に届く範囲には、
看守も、神父も、学者も、見られなかった。
行きはざわめいていた大聖堂。
今は静寂に包まれている。

その時、誰かの足音が響いた。
こちらへと向かってくる。

敵か味方か、、、!
全身に緊張が走る。

エリカの視界の中に、遂にその人物が入ることとなった。

その者は怪しい出で立ちで登場した。
全身フードを被り、口元をベールで隠した女である。

残念なことに、敵のようだ。

味方かもしれないという微かな希望もあった。

しかし、それは見事打ち破られたのだ。

女は、エリカの横に立つやいなや、声を張り上げた。
「話しなさい!!
活性化酵素の居場所を!!!」

「活性化、酵素?」
突然の尋問に戸惑う。

「とぼけるな!!」
再び恫喝をくらう。

聞いたこともないような声である。
エリカの知る人物ではないだろう。

「知りません、そんなもの!」
そう叫ぶより他なかった。

「ならば何故、女帝が魔術を施行した、時に、苦しんでいたわけ?」

エリカは顔色を変えた。
開校の日に、ヴァイオレットが施した魔法。
それにより、エリカは髪の呪いに苦しめられていたのである。
どこかで見られていたのだろうか、、、。

勿論、そのことは言えるはずもない。

「だから、それが何なの?」

エリカの動揺ぶりに、女は確信したように言った。
「酵素の耐性がつくまでは、他者の魔力により、遺伝子が傷つき、苦しむことになる!」

「意味不明!!
さっきから何なの。
酵素だの、遺伝子だの!」

エリカは苛立ちを顕にした。
本当にそのことに関しては知らないのだ。

「本当に、知らないのか、、、?」

女は遂に、エリカの言葉を信じたようだ。

そして、銃口が向けられる。
用無し認定されたのだろう。
口封じされる、、、!

体が小刻みに震える。
抗える状況などではない。
運命に委ねるより他ない。
しかし、頭は追い付かなかった。

覚悟も何も整わないまま、
2発の銃声が響いた。

一発目は、何と、女の胸を撃ち抜いていた。
そして、もう一発目は、体制を崩した女による発砲。
2発目は、空を切って消えていた。

体を強ばらせていたエリカは、
突如、女が倒れたことに驚いていた。

誰が胸を撃ち抜いたのだろうか。

その人物の者であろう足音がこちらへと近づいていた。
聞くところ、1人の足音ではないようだ。

忙しなく聞こえてくる足音。
恐らく、走ってきている。

それは、予想外の人物であった。

ジャスミンにエヴァンである。

しかし、直ぐに思い出した。
2人は間諜スパイであることに、、、。

エリカの寝台の元にやって来たジャスミン。

「エリカ、ごめん!」
ジャスミンが小さく呟いた。

エヴァンが拘束具を外す。

助け出してくれている、、、?

2人の行為にエリカは戸惑う。

エヴァンが小声で囁いた。
「立てるか?
今の内に逃げろ」

2人に状況を問う気力もなかった。
エリカは、体を起こすや否や台からすべりおちた。
全身に激痛が走り、とても動ける状態ではなかった。

その時であった。
再び、誰かがやって来る音が響く。

エヴァンもジャスミンも、硬直したまま動かない。
エリカは、動けない。

その者は、先程の女と同じような出で立ちをした男であったが、
丁度死角になっているエリカには見えなかった。

男の方も、寝台の影に潜んでいるエリカの存在には気づいている様子を見せない。

彼は、2人の目の前に立つと、
血だらけの寝台を見て、恫喝した。
「奴はどこだ?」

「脱走しました。」
エヴァンが言う。

「重症の人間を逃すとは!
間抜けが!!
直ぐさま探し出せ!!」

「はい!」
「はい!」

返事はしたものの、その場を去ろうとしない2人に男は再び罵声を浴びせた。

「早く行け!!!」

その勢いに負けてしまったようだ。
ジャスミンとエヴァンは慌てふためきながら命に従った。

2人が行った後に、男は寝台を疑い深く見つめた。
寝台は、エリカの血で汚れていた。
男の視線は、その血の流れを辿っていく。

寝台の下にはエリカがいる。
息を潜めたが、意味はない。
どこにも隠れる場所がないのだ。

遂に、男が覗いた。

その瞬間!
銃弾が彼の首元に食い込んだ。
エリカが銃を構えていたのだ。

男は、寝台に倒れ伏した。
彼は悶絶しながら、懐から何かを取り出す。

それは、、、
                 注射器であった。

彼は首元にそれを差し込む。

信じられぬことが起こった。
独りでに流血が止まり傷口が塞っていったのだ。

脳裏にふと、”活性化酵素”という言葉が浮かぶと共に、エリカは再び発砲していた。
男が復活する恐怖で何発も、、、。

遂に、男は動かなくなった。

エリカは、力を振り絞り、寝台の上に手を掛けた。
そして体を起こし、うつ伏せになっている男の胸に手を入れた。

、、、あった、、、。

3本の注射器が入っていた。

先程男が手にしていたものと中身は同じだろう、、、

エリカはそれらを手に、再び寝台の陰に身を潜めた。

それから、傷が修復されていく光景を思い浮かべる。

半信半疑になりながらも、右腕に注射針を刺した。

正体不明の液体が、静脈に注入される。

もしや毒物ではなかろうか、と一抹の不安が過った時、、、
負傷部位に異変が起こった。

先程と同じように、傷口が修復していく、、、。
信じられない光景だが、魔法に慣れてしまったのか、目の前の現象を飲み込むことは出来た。

ふと男の方を見ると、懐から何か羊皮紙が覗いていた。

不可解に思いながらも、取り出す。
開いてみると、それは手紙であった。

羊皮紙に目を通そうとした時、どこからともなく、声が聞こえた。

発声元を探す間もなく、
声は話し始めた。

「遺伝子を構成するDNAには、イントロンという、謎の領域があります。
それは、厳密に言えば使用されない部分なのです(*)

遺伝子とは、人間の設計図と言われています。
神のみが読める遺伝子の言語。
人間は科学により解読に成功した。

そして徐々にいくつかの設計図は読みとかれていますが、未だに設計図として使用されないにも関わらず、存在する謎の領域があります。

イントロンもその1つ。
(厳密に言えば、完全に使用されないわけではありませんが、)設計図としての役割は全くの不明でした。

奇妙であり、不気味であり、そして神秘的なイントロン。
その未知の領域に手をつけたのが、魔法物理学の元祖です。

つまり、自然の摂理に反してイントロンを活性化し、設計図にさせてしまう。
そのような酵素がギャラクシアにはあります。

イントロンが活性化すると、とんでもない事が起こることが分かったのです。

意識が強化され、物理的なエネルギーに置き換わるというのです。
つまり、魔法が誕生するのです」

、、、イントロンの、、、活性化?

エリカはとんでもない話に意識を取られたが、それよりも今考えるべきは、この声は誰の物か、ということである。

寝台からそっと覗くと、
そこには、神父が1人立っていた。
見た所、それはどこか普通の人間とは異なる様相をしている。
体が半透明なのだ。

「あなたが話しているのですか?」
エリカが訪ねると、神父は頷いて言った。

「私は、この場に記憶されたフォログラムのようなものです」

「フォログラム?」
そう呟いた時、突如にして激痛が走った。

見ると癒えていた傷口が開いている。

あの謎の注射器は、正に魔法のような特効薬だと思ったが、
一時的にしか効果を発揮しないのであった。

そう考えた時、あることに気がついた。
あの注射器には、例の酵素が含有されていたのではないかという、、、。

意識が肉体を飛躍的なスピードで治癒させたのだという、、、考察にすぎないが、謎の確信があった。

「もしかして、魔力が強いものは外傷や病を完治させる力があるのでは?」
疑問を先程の神父に投げる。

しかし、彼のフォログラムは消えていた。

エリカは痛みに耐えながらも途方に暮れた。
この体では動けない。
身を潜めることしか出来なかった。

恐らく酵素と思われるあの注射器を打っていなければ、耐えきれぬ痛さに意識を失っていたであろう。

エリカは、何も出来ず、どうすることも出来ずにいたが、
男の懐から取り出した手紙の存在を思い出した。

開いて読む。

『ゴルテス様

例の酵素はやはり、ギャラクシアにありました。
この場に棲ぐらう魔物の体内に、、、。

奴等は元人間であり、魔術の使用に際してはその酵素が必要不可欠でした。
魔物となり果てた際に、酵素も体内に焼き付けられたのでしょう。

奴等は人間だった頃、注射により酵素を補っていました。
しかし、外部から摂取せずに済む方法が発明されたのです。
それは、酵素を摂取した状態で、放射線であるγ線を浴びること。

放射線は遺伝子を破壊します。
ところが、イントロンが活性化された状態で放射線を浴びると、
意識エネルギーと衝突し、粒子が対生成されます。』(*2)

『繰り返し、被爆することにより、その粒子が体に蓄積するのです。
通常、魔法粒子と呼ばれています。

意識を集中させた時、その粒子が波動に変換され、意識エネルギー=魔力となり、魔法を可能にするのです。

そして、γ線は、禁止領域を埋め尽くしています。
更には」

その先を読み、エリカは震えあがった。

「大聖堂の複数ある照射口から照射され、覆いつくされます。」

ふと、床を見ると、四角い窪みが等間隔に点在していることに気づいた。
エリカの座る場も、窪んでいた。

体を引きずりながら、窪みから移動する。

更に絶望的なことが起こった。

複数の足音が近づいてきているのだ。
もう幾度となく、足音に脅かされたことだろうか。

エリカはどうすることも出来ず、地面にへたりこんだ。

どうにでもなれ。。。

匙をなげる反面で、恐怖も負けじとエリカの心を蝕んでいく。

遂に、足音の者と対峙しなければならないときが来た。

姿を現したのは、
エヴァンとジャスミン、、、。
を捉えた、フードとベールの男女。

「お前!
このガキを逃がしたな!!」
エヴァンを拘束する女が恫喝した。

「そんなことはしていません!」
必死の形相で訴えるエヴァン。

「ならば、、、こいつを殺るんだ!
息絶やすことが出来たなら、信じてやろう!」
女はそう言うと、エヴァンの拘束を解き、銃を手渡した。

そして、彼の背中に銃口を当てる。
力ではなく威圧による拘束だ。

「あんたもだよ!」
ジャスミンを拘束していた女も言った。
エヴァンと同様の措置が取られ、彼女も決断に迫られることとなった。

今エリカは、同級生であり同い年の2人から、銃口を向けられている。

エヴァンが、遂に、
引き金に手をかけた。
「エヴァン!?」
ジャスミンが声をあげるも、彼女は男に威圧された。

容赦ない発砲が三発。

2発は外したが、一発はエリカの体に食い込んだ。

銃弾は右腕に命中していた。
こともあろうに、先ほど銃創を負った全く同じ箇所である。

「どこを狙っている?
頭と心臓だろ!!!」
女の恫喝に、エヴァンは顔を歪めた。

その時であった。

突如女が頭を打ち付けたように倒れる!!
見ると何者かの発砲により、前頭部が撃ち抜かれていた。

それを機に、次々と男女らが倒れていく。

銃弾は、綺麗に、フードとベールの者だけを狙っていた。

銃弾は、上から降ってきている。

それに気づき、エリカは見上げた。
吹き抜けの2階には、少女がいた。

マリアだ。

この時ばかりは救いの女神のように思えた。
逆光も合いまり、その陰影が雰囲気を醸し出していた。

エリカがその姿に見とれていると、
複数人の足音がやって来た。
今度こそ、味方の足音だった。

フランチェスカと、フランキー少佐率いる配下軍である。

「確保!!」
倒れてた男達に次々とが手錠嵌められていく。

エヴァンとジャスミンは無傷のままでいたが、勿論同様の措置が取られた。

「よくも、私の酵素を盗み出してくれましたね」
フランチェスカが、男達に憎みを込めた笑みを見せる。

エリカは安堵と共に、負傷部位の痛みを強く感じた。

痛みに耐えていると、可愛らしい声がした。
「遅れてしまい、申し訳ありません。
封鎖された通路から脱出するのに手間取ってしまいました」
マリアであった。

いつの間にか2階から降りてきていたのだ。

「いえ、ありがとうございます。」
言葉を発するのに精一杯であった。

「強い鎮痛剤を打ちますので。」
マリアはそう言うと、太い注射器でエリカの上腕に薬を打ち込んだ。

それから、
懐からケースを取り出し薬品を調合する。
公国独自に開発した血液凝固剤である。

「止血します。」

応急措置が取られ、
随分と体が楽になった。

その時、地面が大きく揺れた。
みなが体制を崩す、、、!

「窪みから離れて!!!」
エリカは思わず発狂していた。

γ線の照射口が開口してしまう、、、、!

点在していた四角い窪みは、凄まじい勢いで深く沈み込んでいく。

窪みの上に立っていた者は次々とらっかしていった。

エヴァンもその1人であったが、
辛うじて、床に手をかけ留まっている。

その彼の前頭部に銃口が向けられた。
エリカである。

エヴァンは、絶望的な表情を見せたが、どこか諦めのような顔をしていた。

エリカは、引き金に指をかけたが、
その銃口は手錠に向けられた。
発砲され、音を立てて外れる。
彼の手は解放された。

「後は、自力で上ってください!」
言い残して去っていく。

「さすがにそれは難しいです。」
マリアがエリカとすれ違いながら言った。
彼女はエヴァンの元に向かっていき、手を差し出そうとしていた。

その後ろ姿を見て、一瞬罪悪感を感じたものの、浸っている暇は無かった。

床に倒れ意識を失っているジャスミンが見えたのだ。
駆け寄って揺すると反応するが、おぼつかない様子、、、。
意識レベルがかなり低い。

「少佐!助けてください!」
エリカが要請する。

フランキーがそれに気づき彼女を担ぎあげた。

一方で、エヴァンは、マリアの手を借り、上りきっていた。

その時であった。
照射口に手をかけ留まっていた者達が、苦しみだした。
苦悶の末に、手を放しらっかしていく者達、、、。

いよいよ、γ線の照射が始まったのだ。

エリカが呆然としていると、マリアが腕を掴んだ。
「逃げますよ。」

そう言って、引っ張っていく。

エリカはマリアに連れられて、
ジャスミンはフランキー少佐に担がれて、
エヴァンはその後を追い、
フランチェスカは生き残った従軍を引き連れ、みな広間の外へと急いだ。

その最中、あの鐘の音がどこからともなく、聞こえてきた。
この学園のどこかで、不定期に鳴らされている鐘。

その音色を聞きながら、
エリカ達は走って、走って、、、ひたすらに出口まで、走った、、、。

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