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ギャラリー,イベントで出逢った作品

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偶然の出逢いも含めた、ギャラリーやイベントで出逢った作品たちを紹介した記事をまとめたマガジンです。
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#個展

フレームとその内部 -セルバン・イオネスク[Lisi]@NANZUKA 2G

 某日、渋谷。  セルバン・イオネスク「Lisi」(– 7/7)@NANZUKA 2G ポップなフレームに目を奪われて  今回の展示は6作品。  作品は原色の赤、青、黄のフレームに入っており、否応にも目を引く。フレームは帽子のようにも山のようにも、建物のようにも見える。 家と、その内部  ところで、描かれている人物?というか存在なのだけど、  目を奪われがちなフレームから視線を外して描かれているそのものを見るならば、そこにはまた別の印象がある。  描かれている

持続する線と身体性 -新井 碧 [AVOWAL]@Tokyo International Gallery

 某日。品川から天王洲アイルへ。  AVOWAL(〜6/29)@Tokyo International Gallery 生きてきた身体の記憶 1年の時間を経て  新井碧作品を初めて鑑賞したのは、昨年6月、銀座の蔦屋書店の個展だ。そのときの展示作品を思い起こしてみれば、展覧会概要のなかの「より身体の機能にフォーカスしたモチーフを描いた新シリーズの作品」という意味合いもわかる。  当時のnoteに、こんなふうに書いた。  1本1本筆跡の追体験に加えて、今回はその筆を繰

ガラスケースの中の暴力,生命-アンゼルム・キーファー[Opus Magnum]展

 某日、表参道から青山通り。  アンゼルム・キーファー「Opus Magnum」展(-7/13)へ。  ガラスケース内で展開する立体作品と、水彩画が展示されている。 "鎮魂"の芸術家 アンゼルム・キーファー アンゼルム・キーファー。ドイツの歴史上の記憶を揺り起こしたと、下の記事にある。  6/21より、ヴィム・ヴェンダース監督によるドキュメンタリー映画『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』も公開。  また来年2025年には、世界遺産・二条城の二の丸御殿台所・御清所

新しい神話の断片- 久保寛子[鉄骨のゴッデス](-6/9)

 某日、銀座。  銀座一丁目。ポーラミュージアムアネックス。  作家のステートメントから。 青い尖底土器 シリーズ  自然光が射し込む空間。工事中のようにグリーンの網が張られ、入り込む光は柔らかだ。  「土器」が並ぶ。素材は工事現場などで見るブルーシートと糸。  土器は、土器であるがゆえに、(また、長い年月を経たり、出土したときに欠損することで)その形そのものの美しさを見ていなかったと思う。こうして違った素材で形だけが再現されることで、「用の美」であった土器の、シ

根ざすことと"根こぎ"と -クリスチャン・プーレイ "Geographies of Love"

 某日、千駄ヶ谷から原宿方面。  千駄ヶ谷小学校と向かい合う、「ギャラリー38」。  クリスチャン・プーレイ " Geographies of Love " (- 6/30) 抽象のなかに消え入りそうな緊張感  白い空間に、美しい色彩の風景?画。一部が抽象化された作風のようだ。  描かれている作品の解像度がだんだん粗くなり、細い筆が太い刷毛に変わって画面を覆い尽くしていくのではないかというような……という、静けさのなかに「動き」のある作品。人物の近くにまで迫ったその

光の予感, 音を観る-[GOMA ひかりの世界]@GYRE

 某日、原宿。  「GOMA ひかりの世界」(-6/29) 「ひかりの世界」  展覧会のタイトルどおり、作品には  光が広がっていた。 生と死の境界にある「ひかり」  その源泉は、作家のプロフィールにある。  会場で配布されていたパンフレットには、作家が楊枝のような細く尖った道具を用いて一筆一筆、作品を制作している静かな写真が載っていた。 映像作品に没入する  紹介文にもあるように、会場は「音」に満ちている(ウェブサイト内で聴くことができ、これを書きながら、

Atsushi Kaga個展「眠っている猫に触っているとあなたがそこにいるのがわかるような気がするのです。」(-6/1)

 某日。裏原宿から、  外苑西通り方面に歩き、かなり急な階段の先に  その空間はあった。  Atsushi Kaga個展「眠っている猫に触っているとあなたがそこにいるのがわかるような気がするのです。」(~6/1) 6枚の絵が創る世界  「靴を脱いで、上がっていただけます」というギャラリーのスタッフに声をかけていただき、上がりこんでみた。茶室を思わせるような空間に佇む。 小さなものたち  足元には、小さなものたちがいた。  かがんで、目線を落としてみる。  彼

世界と内面を記す"絵日記" -モリマサト「ヒゴロノオコナイ」@NANZUKA UNDERGROUND

 某日、裏原宿。  モリマサト「ヒゴロノオコナイ」(~7/7)  エレベーターで階上へ。 自画像彫像作品  ギャラリー2階で目に飛び込んでくるのは、  ブロンズ製の自画像彫像作品と、その背後の自画像。  2階の展示は、作家が語るところの「絵日記」が、より掘り下がった感じを受けた。  本展は、ひとりの作家の内面を巡る旅だという気がしてくる。言語化されることを拒絶して、ダイレクトに迫ってくる何かがあった。

瞳のなかの世界 -yuta okuda solo exhibition

 某日、六本木ヒルズ。  このウィンドウに惹かれて、六本木ヒルズA/Dギャラリーへ。  作家はTAKEO KIKUCHIでの4年間の勤務を経て、2016年よりアーティストとして活動、という経歴。下のリンクのサムネイルが「線のみで構成された細密画」の作風ということだろう。 ”with gratitude”シリーズ  「混ざり合う絵具から生まれる偶発性とペンによる緻密な必然性を織り交ぜた世界」。近寄ると、ふんだんに使われた絵の具による立体感がある。  そこからくるふしぎな

抽象化された形,その中身 -ススム・カミジョウ個展@MAKI Gallery

 ある休日の午後、@天王洲アイル。  ススム・カミジョウ個展「帰って来たら When You Come Home」(-2024/06/08)@MAKI Gallery(天王洲, 東京) 抽象化で付与される、あたたかさ  ホワイトキューブを贅沢に使った展示空間は、鑑賞用に椅子も用意されていて、心地よい。  プードルは写実的に描いてもかわいらしいと思うけれど、解像度を下げて抽象化され、一本の線に収れんされていくうちに、その線と色塗られた丸みのなかに、かわいらしさが内包され

深い青色,画面から広がる宇宙 -伊藤咲穂[BEGINNING of WORSHIP ‒ First Beheld the Blue ‒]

 伊藤 咲穂 個展「BEGINNING of WORSHIP ‒ First Beheld the Blue ‒」@ Tokyo International Gallery(天王洲)(-2024.5.18) 「青色」の世界へ  作品はすべて青色。白い空間に、青い窓が開いているようにも見える。   距離、角度、光で表情を変える  「⾃⾝で研究を重ねた独⾃の漉き⽅によって⽣まれる錆和紙により、⾃然を想起させる⾊鮮やかな作品を制作する」と、さきの説明にあった。その制作手法

二次元上の三次元表現 -アレックス・ダッジ個展@銀座 蔦屋書店

 アレックス・ダッジ個展@銀座 蔦屋書店、5/15まで。Maki Fine ArtsのほうのPart1は見逃してしまったので、Part2のほうを。 奇妙な立体感に、嵌る  ポップアートの展示か~、などと、軽く通り過ぎようとし、  えっ? と思ったとき、もう作品世界にくぎ付けになっている。  作品は1枚のボードに描かれている。  それなのに、この立体感は?  画面のなかで、世界は楽しそうに崩壊していく。  そうかと思えば、  今度は画面に、階段が現れる。 手を

光を描いて -Michiko Van de Velde@東京アートアンティーク

 東京アートアンティーク(4/25-27)。敷居の高い日本橋界隈の画廊が、この3日間だけ、フレンドリーに門戸を開くとても貴重な3日間。  都内在住ならばぜひ行ったほうがいいと、アートの師匠と仰ぐ方から強烈にリコメンドされて、その只ならぬ雰囲気に、友人を誘って行ってみたら  本当に、こんな面白いものはない、というくらいの経験をした。  通常、「どこか見覚えがある」は、その流れをくんだ作家の作であることが多いはずなのだけど、  無造作に壁にかけられた掛け軸にどこか見覚えが

繁田直美 展 -[不在のしるしとしての影]-絵を買う,再び

 4月某日、都内。  日暮里駅を出て、  谷中霊園を通り抜け、  古民家カフェを眺めながら、  その画廊へ。 繁田直美展  足を運んだのは全部で3回だ。まず、アートを愛する仲間たちと、2度目と3度目は、ひとりで。  ウェブサイトで作品を観たとき、作風に惹かれ、ぜひ鑑賞したいと思った。油彩、アクリルと画材はさまざまながら、その抽象画にはふしぎな奥行きがある。とても惹かれるのだが、たとえば画面越しであっても、作品を観ていると、何か(自分を)覗き込んでいるような気分に