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大切なものをはかることのできる物差しはどこ?


しんと静まりかえる廊下
ひたひたと
自分の足音だけが響き渡っている
窓の外から
ふわりと鼻を刺激する金木犀の香り

香りは不思議だ
心の奥で眠っていた想い出を呼び覚ます
金木犀は亡き父の気配をつれてくる
母の匂いはメンタムだ
幼い頃
膝枕してもらったときに
いつも匂っていた

祖母はナフタリンの匂い

それぞれの香り
想い出を引き寄せる強さは
比べられないし
はかれない

でも
香りは時々側に来て
懐かしさや切なさを置いてゆく

からっ
からっ
がたんと
図書室の扉を開ける
ここの扉は開けるのにコツがいる
まるで
手慣れた者にしか招き入れない
そんな意志をもっているかのようだ

開けると
ああ
本の匂い

少し湿った部屋の匂いと重なる
この匂いはいつか
学生時代の
想い出の引き出しにしまわれるのだろう

まもなく旅立ちのときを迎える

卒業すると
もうここには来られないな

少女は呟く

図書室の匂いは
いつも気持ちを落ち着かせてくれた
今の私の切なさの深さを
はかったらどれくらいなのだろうか


心の扉の強度を測る
すごく元気な日のサイズを測る
心の闇の程度を測る
あなたの励ましの効力をはかる
悲しみで濡れた僕が乾く時間を計る
思い出の重さを量る
幸せを吸いこむ力を測る
笑顔を守れる腕力の強さを測る
過去のことは水に流すのに
       必要な水量を量る
真実を見抜く視力を測る
積み重ねたいいわけのもろさをはかる

「はかれないものをはかる」工藤あゆみ著
より一部抜粋

この本は
心を揺らした本のうちの一冊だ

「はかれないもの」は
世の中になんと多いことだろう
「はかれないもの」は
なんと大切なものが多いのだろう

不安に押しつぶされそうになったとき
その不安の重さは
はかれなかったし
他の人と比較することもできなかった

嬉しさで自然と笑顔になったとき
言葉で
その大きさを表すことは難しかった

未来という世界の大きさは
はかれない
可能性や伸びしろも
はかれない
心の成長速度も
これから出逢う人たちとの絆の深さも
はかれない

はかれないものが
世の中に溢れていて
それが世の中を支えている

幸せや哀しみ
思いやりの心と憎しみ

少女は息を大きく吸い込んだ

旅立つときは
刻々と近づいている
今を楽しもう

はかりきれない未来の輝きは
何ワットだろう
周りの人たちとの信頼の固さは
何ピッカースだろう

希望をもとう
自分の未来の可能性を信じよう
はかりきれない希望と未来


カタンと音が鳴る

いつの間にか
西日が窓から差し込んでいた

ごめんね
待ったぁ?

友が笑顔で図書室に入ってきた
風が髪を揺らす
ふんわりとシャンプーの香り
ここにも
はかりきれない存在がある

今手の中にある確かなものを
大切にしよう
今を大切にすることは
きっと
未来を大切にすることだと
少女はぼんやりと思う


友情の固さ測れずピッカース
シャンプーの香は宇宙を漂う







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