見出し画像

くだらない日常を鞄に詰めて旅立つんだ


窓から見える山並みの向こうに
青々と田んぼが広がっている

あぜ道には
クローバーとシロツメクサが
敷き詰められて
緑の絨毯みたい

小川に
朝日がきらきらと反射する

今年も
両岸のなだらかな土手には
土筆の帽子が風に揺られているだろう

ひよよひよよと
野鳥の声が聞こえる
近所の子どもたちの笑い声

旅立ちのときがきた

景色はいつもと変わらない

ここで
ずっと生きてきた
レンゲ草を集め
花かんむりを作り
土筆取りに夢中になった
藁を集め
木々を拾って
小さな秘密基地を作り
草の座布団でくつろいだ

旅立ちの時間
景色は変わらない

ここでずっと生きてきた
小さな虫を見つけて大騒ぎ
蝶や蜻蛉を追いかけて
転んで泥だらけ

神社の小さな赤い鳥居が
そんな私たちをそっと見ていた

おやつを買うにも
駄菓子屋はちょっと遠くって
汗をかきながら
みんなで自転車をたちこぎした
風が
頬を撫でて
かぶっていた麦わら帽子が
ふわりと飛んだ

なんにもないけど
なんでもあった
ここでずっと生きてきた

別れのときは
いつの間にか目の前で

なんでもないことに
笑いあった時間は
ただ
ただ
くだらなくて
愛おしい

明日
春列車に乗って
新しい世界に旅立ち立つ
ごみごみした町並みの中に
きっと
夢の欠片が
転がっていると信じて

くだらなかった日常が
きっと自分を支えてくれる

笑い合って
つまらないことで喧嘩して
仲直りして
また笑った
そんなくだらなくて
満ち足りた日常は
がらくたで宝物

ここで
ずっと生きてきた
だから
夢をもてた
それに向かって飛び出せた
進む先に
光が降り注ぐと信じていられた

くだらない日常が
支えてくれるときがある
思い出を
鞄にいっぱい詰めて旅立つんだ

私も

君も

進む先に
光がきっと降り注ぐ
そう信じて進むんだ

重い鞄をぎゅっと抱きしめながら


春うらら日常の先の非日常
  夢と出逢いと鞄がひとつ



この記事が参加している募集

今日の短歌

この街がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?