道草って人生を豊かにする魔法だと思う
道草が好きだった。
学校からの帰り道、まっすぐに家に帰れたことがない。
それだけ我が田舎の通学路は魅力的なもので溢れていた。
道草は今の私の妄想癖を作り出した代わりに、自然の営みの美しさや摂理を教えてくれた。
そして
道草は人生には必要不可欠なものだと思っている。
決まっている慣れた道を行く安心感より、よくわからない道を行くわくわくは人生を豊かにしてくれるのだ。
春は
土筆を見つけては夢中になって摘んで歩いた。気づくと通学路からずいぶん外れた畑の中の畦道にいた。
蒲公英もあのふわふわした白い綿毛で私を誘惑する。
あの綿毛をふうっ~と口で吹くと、春の日差しに吸い込まれていく。それを見て、妄想の世界に浸るのだ。
たとえば
あの綿毛のひとつひとつが妖精で、追っかけているうちに小人の国に紛れ込む。
そこでは私も小さくなって、羽根が生えて、綿毛と空を飛んでゆく。イヌフグリの小さな青い花がぎっしり咲いて、まるで花畑の海みたい。れんげの花々も競うように咲き誇っている。
夕日が沈みかけている。
はっと我に返る。
もうダッシュで家路を急ぐ。
母のカミナリを恐れながら。
夏は
木陰で少しだけ休もう。
そんな気持ちで百日紅の木の下にすべり込む。真っ赤な花びらが降り注ぐ。涼やかな風。小川の水の音がさらさらときこえてくる。
そこには木陰から逃れられない罠がいっぱい仕掛けられていた。
あ、メダカ。
おたまじゃくしもいる。
なんて澄んだ水なんだろう。
1人だけの夢の世界。
そこはときめきの世界。
カラスの声を聞く頃
やっと通学路に戻る。
だけど
もう少し。だって足元にありの行列が何かを運んでいるのを見つけてしまったから。
何処に行くのだろう。好奇心が止められない。
ちょっとだけついて行ってみよう。道草の延長だ。新しい世界はわくわくをくれる。
そして
その結果
母は愛のお小言をくれる。
秋は
秋の空は表情豊かだ。
鰯雲、ひつじ雲、うろこ雲
雲は形をどんどん変えて子どもたちを魅了する。
あ、うさぎ!
いやソフトクリームだよ!
それに白熊もいる!
なんて魅惑的だろう。
うっとり。
そして
秋の夕暮れといったら
もう
最高。
そこには逆らいがたい吸引力が存在する。すっかり私は虜になる。
そして
家に帰るなんて、思いもつかなくなるのだ。
雲間の太陽の光が徐々に色を変える。山に近づくときには辺り一面を紅色に染めていく。その様子は飽きることなくずっと見ていられる。
太陽が沈んでしまった後もなんともいえない余韻が残る。
普段、道草をしない子さえ、立ち止まって見てしまう。いわんや、、、をや。私は釘付けになる。
怒っている母の顔が頭の中で霞むほどの力がそこには秘められている。
冬は
木枯らしが吹くと一気に冬将軍の登場だ。
寒いので、急いで家に帰る唯一の季節といえる。
ところが
雪の日だけは特別だ。
いつもとまったく違う世界が目の前に広がる。
触れて雪の冷たさを知る。
どこかの玄関先に
置かれた雪だるま。
その家には、きっと幼い子どもがいて、楽しげに雪遊びをしたのだろう。その姿を想像するだけで微笑ましい気持ちになる。
空想の世界の入口に立った私。
戻ってこられるのは
すっかり暗くなってからだ。
冬の日の短さを恨めしく思った。
道草は人生に必要な回り道だと思う。
先日
新聞である中学の「道草」に対しての取り組みを知った。
その記事には
「より道下校」花が咲く
という見出しがついており
道草をしながら、自然を愛で、
友と語らう。見慣れた風景の新しい一面を知る。
そんな「道草のすすめ」が載っていた。
その学校の校長は、自分が幼かった頃の楽しかった道草の経験を生徒にもさせたいと職員や保護者を説得したという。そして年に二回だが、「道草の日」が誕生した。
この記事を読んで
思い出すのは
私自身の道草の想い出だった。
さまざまな考えはあるだろうが、
道草が私にくれたものは小さくなかったように思う。
思うに
道草のない人生はつまらない。
目的地にまっすぐに伸びた道は安全で確かだ。
しかし
思いがけない発見がない。
寄り道しているうちに、自分が目指した目的地より、もっと素敵な目的を見つけるかもしれない。
安全な道では得られない出会いが待っているかもしれない。
大人は子どもたちの未来に向かう力を信じて、おおらかに寄り道を見守る余裕がほしい。
少しくらい回り道したっていいんだよ。
結果が直ぐに出せなくても
長い人生の中ではたいしたことではないんだ。焦らなくて大丈夫。
ほら
周りを見渡してごらん。
美しい世界が君の回りに溢れているから。
道は何通りもあるんだよ。
道草は子どもたちに語りかける。
ぶつぶつ言いながらも私の道草を容認してくれた母に感謝する。
私は
道草のある人生を楽しんでいる。
道草って
人生を豊かにする
魔法だと思う
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