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いにしへの言の葉のエモさにひたる東雲(しののめ)は

十六夜を見上げる
望月を過ぎた十六夜は
木星を従えて
東雲の空に仄めく

人の心を種にして
言の葉は
大和歌となっていく

花に鳥に月に風に
いにしへから
人々たちは
生きとし生ける
森羅万象のものに
心を動かされ
すべからく歌の種とする

天地(あまつち)の神をも動かし
恋をも成就させ
もののふたちを慰めてきた
歌のもつ力

その言の葉の一語一語
表現の一節一節は
いと趣深し


ほおっと
長いため息とともに
少女は古今和歌集から
顔を上げた

古今和歌集の仮名序の文や
歌集に収められている
歌のひとつひとつは
なんとエモいのだろう

空を見上げる
夜明けに月を残し
柔らかなすじ雲が月を
わずかに隠している
その
玉響(たまゆら)に
しばし
少女は酔いしれる

お気に入りの歌

天つ風
雲の通ひ路吹きとぢよ
をとめの姿しばしとどめむ
         僧正遍昭


天女たちの姿を
もうしばらく見ていたいと
風に雲の通り道を
吹き閉じてくれと
天にお願いするのだ


月見れば
ちぢにものこそ悲しけれ
わが身ひとつの秋にはあらねど
         大江千里

そうなのだ
月を見ていると
それだけで切なくなる
私だけの秋ではないのに


ああなんと
いにしへの言葉にすると
美しいのだろう
少女は東雲に
いにしへのエモさに
どっぷりと浸っている

いにしへの
言の葉ひとつ手に取りて
東雲の月に乙女は遊ぶ






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