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『そんなつもりじゃない!』


 「そんなつもりじゃない!」
 強い口調で祐樹が言った。
 「あ、ごめんなさい」
 心からあやまる。祐樹がそんなつもりじゃなかったのに責めてしまった。
つき合ってからその繰り返し。

 「今日は時間もお金もないから、究極に食べたいお惣菜をひとつずつ買う!ご飯は炊いてある!」
 わたしの提案で夜ふたりでスーパーに行く。祐樹はめんどうくさそうに手近の野菜炒めをチョイス。わたしはかなり時間をかけて本当に自分が食べたいホッケの干物を選んだ。
 「いただきまーす」
 食卓へお茶を運ぶあいだに、あっというまにホッケと野菜炒めを祐樹に完食された。
 グーーーー。
 お腹を鳴らし、手にはご飯茶碗。
 「あーーーー。金もねえし、メシたりねえなー」
 「祐樹!!わたし一口も食べてないんだけど」
 「え?まじか?早く言えよ。おれ、えんりょなくガシガシ食っちゃったぜー!!ハハハハハハ!」
 「すごい誇らしげなのは何で?生きてるんだから何も食べなきゃわたし死んじゃうよ?一緒に仲良くごはんを分け合いたかったのに」
 「おれだってたりねえし!」
 「〝足り〟ねえからといって私が空腹でもいいって意味?」
 「そんなつもりじゃない!」


 「浮気したでしょ?」
 わかりやすい浮気をされた。
 「そんなんしてねえし」
 「ごまかさないで!どうせわたしなんてたんなるカネヅルなんでしょ?」
 「そんなつもりじゃねえし!!」


 「ねえ。私の口座から十万円が勝手に引き落とされていたんだけど」
 「しらねえし」
 「警察に被害届を出してもいいんだね?」
 「オメエ殺すぞ!」
 「ひとの口座からお金を盗んで、よくもまあ殺すぞとか言えたもんだね。いまの発言録音してたからね」
 その瞬間、祐樹がこぶしを思いきりわたしの顔にたたきつけてきた。
 わたしはうしろの壁に激突し…しばらくして顔をおそるおそるさわる。
 …たぶん鼻が折れてる。
 さわろうとしたら、ドバっと血が出た。
 「おい…おまえ…鼻が…す、スゴ…お、おれそんなつもりじゃなかったんだ‼」

 立ちあがると、ゾンビを見るように「ヒッ!」と床にへたり込んであとずさりをはじめる。
 なんだ…この男は、相手に対する責任や愛情じゃなく、見た目やフィーリングなどで態度が変わるのか?
 「ほ、ほんとうにさ…そんなつもりじゃかなったんだよ!ごめんな、な?な?」
 じりじりあとずさりをつづける。
 「オイオイオイ…!おまえの『そんなつもりじゃない』とわたしの『そんなつもりじゃない』とはまったく違うなあ?!よーし!いまこれから、死刑になってもいいつもりでおまえを叩きのめす!」
 鼻血がとめどなく吹き出し、しゃべるたびに口から血しぶきが飛び散った。手近にあった黒くて重い炊飯器を引っ張ってコンセントをブチ切り、高々と掲げて祐樹に向かって振り下ろす。
 「ギャーーーーーー!」
 
 炊飯器は広げてる足の間に思い切り叩きつけてやった。弾んで足を飛びこえてキッチンのシンクの方へゴロゴロころがってゆく。

 ライトグレーのラグが、祐樹のあたりだけグレーになる。

 「オイ!!」
 祐樹が「ヒイイいいッ!」と硬直する。
 「わたしはお前を殺したりしない!なぜって『そんなつもりじゃない』じゃないからだっっ‼」

Fin


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最後まで読んでいただきありがとうございました。

自己評価の低い、頑張り屋の女性の幸せのために。
そんなつもりじゃない男は避けてください!



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