あの時計は止まったままでいい
昔付き合っていた人に誕生日プレゼントでもらった腕時計が止まった。
きっと電池が切れたんだろう。
もらったのはもう何年も前のこと。すでに何回か電池切れで止まったことがあった。
「また時計屋さん、持っていかなきゃな」
別れたからと言って思い出をすべて捨てることもなく、いただいたプレゼントはいまだ大切に保管しているし、有難いことにいくつかはスタメンよろしく現役バリバリで使わせてもらっている。
時計をくれたその人はとても好きだった人で、もしその人に何かあれば今でも地球の裏側まで飛んで行ってもいいと思っているほど。
別に未練とかじゃない。ただ自分の人生を色鮮やかにしてくれた一人だから感謝の気持ちはずっと心に消えないんです。
話は変わって、先月、私もようやく27歳の誕生日を迎えました。
誕生月には小旅行に行くのが今付き合っている人との恒例行事。
今年も例にもれず石川県まで気ままなぶらり旅。
穏やかで、美味しいものをいっぱい食べた素敵な時間になった。
旅行中、誕生日プレゼントをいただきました。
掌に載せられる程の小ささ、上品な包装・・・
ワクワクしながら包みを開けると中身は腕時計だった。
ピンクゴールドで文字盤は数字が書いていないシンプルな造り、ベルト部分は金属製でひっかけて使うタイプ。
可愛らしくて、それにシンプルで使いやすい。とても気に入った。
そしてそれは昔付き合った人にもらった腕時計によく似ていた。
色合いも、デザインも、形も。
思い出した。そうだ、あの時計は止まってしまっている。
そのときふと思った。
私の人生はもう次の章へ進んでいるんだ、と。
思い出を大切にするのは私の性分。
変えるつもりは毛頭ないけれど、私の人生は止まることなく先へ進んでいるんだ。
止まってしまったあの時計を直す必要はもうない。
今の私にはこれがある。
また新しい時間を刻んでいける。
あの時計は止まったままでいい。それでいい。
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