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『ぼくらが旅に出る理由、ぼくらがタビに出る理由。』[Part 4](第1版, 500字, 私小説ショートショート, W011)

ぼくらの住むこの世界では 旅に出る理由があり
誰もみな手をふっては しばし別れる
小沢健二『ぼくらが旅に出る理由』

――歳ばかりり不惑なった、まだ雨降らぬ6月の朝。
先輩は口下手な人だから、こういうたちの悪いやり方で僕の溶け流れつつある記憶にくびきを刺しにきたのだろう。

「わかりました……貴方が主役heroで何かものを書きますから」

左側に残った皮膚感覚はいよいよかすれ、先に立つものを朝のせいにして、横木のようにベッドに倒れたまま僕は呟いた。
与えられたそのクビキをマストにたて変えて、海を飛ぶカモメのように帆をひろげ、時の流れに逆らって僕は書かねばならないようだ。

くたびれた寝室のカーテンの隙間からそそぐ朝日に、チリが星のようにきらきらと垂れている。決して掴むことのできないそれに両手を伸ばしたとき、近くのかほそい寝息の向こう、遠くに鳴く一羽のサギの声が霧笛のように響き、静かな僕の町を起こしていった――

[The End of Text.]

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『ほしあいのカニ』(w009)


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