【書評+α】 結局、交渉って…?
こんにちは。あーさと申します。
働く人がやすらげる空間を探し続けています。
最近は、"交渉" について読書をしてみました。
はじめに
生きていく上で、利害関係の調整は避けられませんよね。
あなたは、交渉が得意ですか?
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「明日10時までに、仕上げて」
ある日の夕方、上司の指示に耳を疑いました。
(こんな機械、本でしか見たことない…。あと18時間でどうしろと?)
上司が別部署から交換条件として受けた案件は、あまりに唐突で理不尽。翌朝、どうにか間に合わせた後、怒りと疑問が残りました。
どうして、こうなった?
どうしたら、二度と繰り返さないで済む?
(きっと、交渉の仕方が悪かったに違いない。)
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そういえば私は、交渉らしい交渉をした記憶がありません。
…という訳で、交渉の関連本を読んでみました。今回読んだ3冊を、感想とともにご紹介します。
『戦略的交渉入門』
この新書、その名のとおり入門にオススメです。
ハーバード・ロースクールで学んだ著者が、交渉学についてわかりやすく解説した一冊。タイトルは硬派ですが、本文は口語体でした。
次にご紹介する『ハーバード流交渉術』をたびたび引用しており、まさに入門書といった位置づけ。パワープレーへの対策、コンフリクト(対立)のとらえ方に多くのページが割かれていて、より日本向けだと感じました。
交渉学が提唱しているのは、短絡的な駆け引きや譲歩に陥ることなく、お互いがより満足できる合意の可能性を探すために必要な方法論なのです。
もちろん、お互いの利益を反映させる合意であっても、そこにできるだけ自分の利益を反映させていく工夫が必要です。そのためには、多少の駆け引きや、心理戦術も必要となります。
第1章 2 発想の転換 より
戦術的なテクニックやその対応策について、具体的に書かれているところが気に入りました。世の中、綺麗事ばかりじゃないですからね(笑)
中からひとつ、本文の引用でご紹介を。
まず、最も有名な交渉戦術として、グッド・コップ、バッド・コップ(Good Cop Bad Cop)というものがあります。
これは、二人の交渉者が、悪意に満ちた意地悪な人物と、交渉相手に好意的な人物を演じます。バッド・コップが相手を脅し、怒りをぶちまけて動揺を誘う一方、グッド・コップが相手に同情し、時には相手を擁護するそぶりを見せつつ譲歩を迫るという戦術です。ちなみにコップとは警官のことです。
第5章 4 交渉戦術への対応策 より
『ハーバード流交渉術』
"交渉" で検索すると必ず出てくる、この一冊。
交渉には、ソフトでもハードでもなく二つを融合した第三のやり方も存在する。それが、ハーバード大学交渉研究所で開発された「原則立脚型交渉」だ。
はじめに より
その「原則立脚型交渉」について解説したのが本書。なんとまぁ…親しみづらいキーワードですね(笑)
なお、"優れた合意" というのは、お互いの正当な利益を可能な限り満たし、対立する利害を公平に解決できているものを指す。
第1章 より
日本語版の訳者による冒頭の解説が、本文よりわかりやすかったです。
原書のタイトル『Getting to Yes』が示すように、いかにして「複数の利害関係者が寄り沿い、『イエス』にたどり着くか=全体としてベストな結論を導き出すか」という「合意形成のための説得術」が述べられているのです。
正直いいますと、私は読後に、本書の内容がほとんど記憶に残らなかったです。エピソードやセリフが多くて理解しやすい分、焦点がぼやけて思い出しづらい気がするんです。例えば、前述の「グッド・コップ、バッド・コップ」戦術の箇所は、このような記載でした。
ごまかしの要素も含む心理戦術の一つに、いい人役とコワモテ役の役割分担をするものがある。一番わかりやすいのは、古い警察ものの映画によく出てくるシーンだ。片方の刑事がまぶしいライトを当てて…(以下略)
第3章 より
うーむ、情景は浮かびますが、インパクトがありません(笑)
とはいえ、交渉学の先駆けとなった一冊です。お時間のある時にどうぞ。
『PRE-SUASION』
『影響力の武器』のロバート・チャルディーニ博士による著作。
PRE-SUASION(プリ・スエージョン)とは、著者による造語です。説得のための "下準備"、つまり
受け手がメッセージに出会う前から、それを受け入れる気になるようにする行為
なのだそうです。この「プリ・スエ―ジョン」を解説した本書は、一般読者が読んでおもしろく、応用できる行動科学的情報を伝えるのが目的だそう。
…というのが、一般的な紹介。ここからは、個人的な感想です。
私は、この「下準備(プリ・スエージョン)」という概念に、新しさを感じませんでした。むしろ、この概念を作ることで、ややこしくなっている気が…。理由は二つあります。
著者の代表作『影響力の武器』では、社会的影響力に大きく関わる6つの概念が紹介されていました。返報性、好意、社会的証明、権威、希少性、一貫性、の6つですね。
日本語版の紹介文では「第七の武器がついに明かされる」と書かれてあります。その言葉に、納得がいかないんですよ…。
もし、返報性、好意、社会的証明、権威、希少性、一貫性という概念に(メッセージを発する前とメッセージを発している最中に)注意を向けさせることで、受け手に影響を与えて同意させやすくできるのが本当だとすれば、それぞれの概念がどう働くのかを再検討し、最新のものにバージョンアップすることは理にかなっています。そのため、本章は主な焦点を下準備(プリ・スエージョン)のプロセスには置いていません。
第10章 より
たぶん著者は、『影響力の武器』で述べた6つの概念と「下準備(プリ・スエージョン)」を同列に扱ってないと思うんです。私の勘違いかも知れませんが…。本書を読んだ方がいたら、ご意見を伺いたいです(笑)
「下準備(プリ・スエージョン)」に新しさを感じない理由の2つ目として、有名な心理学的効果・手法の組み合わせではないかと。
ここで、ノーベル経済学賞の受賞者たちによる名著を2冊、ご紹介します。
『ファスト&スロー』では、たくさんの心理バイアスが解説されています。
そして、『実践 行動経済学』に代表される「ナッジ」理論。まるで、ひじで軽く突いて注意をうながすように、さりげなく働きかけて自分の意志で行動するよう導くことですね。
これらの組み合わせ(たとえば、プライミング効果 × ナッジ)で、ほとんどの「プリ・スエージョン」は説明できてしまう気がしました。
本書の第13章は「倫理的使用」について。悪用されないように、との著者の心遣いです。が、「有名な知識の組み合わせだから、皆とっくに使ってるでしょw」と思ってしまいました。…はい、性格が悪い自覚はあります(笑)
以上、ツッコミばかりでしたが、本書を読んで損はないかと。著者お得意の、暗黙知の分析(特に、いくつかの要素に分けること)は健在です。知識の整理ができる一冊でした。
おわりに
交渉の知識を得るため、これら3冊を読みました。
ところで、はじめに述べたエピソードには、後日談があります。
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「黙って見てる訳にはいかないだろ!
誰もやらないなら、俺らがやるしかねぇよ。」
上司の一言で、当面の長期戦が決まりました。他の5部署が、手の施しようがないと諦めたある案件。私の部署が引き受けたところで、状況が改善する見込みはほぼ0でした。
(資源、専門性、…分が悪すぎる。こんな事例、聞いた事さえない。)
翌朝、私は、その案件を見捨てた部署の方から話かけられました。
「あの件、なぜ手を付けないんだ。このままだと、本当に終わるぞ。」
「そちらの担当者は昨日、何も出来ないから任せると仰いました。なので、当方で奔走しているところですが?」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。うちで引き取る。」
「…そちらの今のお考えはわかりました。伺っていたお話と違うので、一度、持ち帰らせてください。」
そこで私は、先日に難題を押しつけられた原因に思い当たりました。
(…そもそも、交渉じゃなかったんだ。)
交渉とは、相手との意見や立場の違いを前提にした"対話"のこと。どちらかが前提を共有する気がないなら、交渉とは呼べないでしょう。
相手を度外視して、正論を突きつける。交渉にならない事態もあるんですね。
使命感に駆られたアツさは好きです。ただ、いつも巻き込まれていたら、私は身が持たない…笑。
ところが、その報告を聞いた上司は、晴れやかな顔をしていました。
「最初から、てめぇらでやれってんだ。
でも、あいつ、なかなか腹のすわった奴だな…」
熱量も、アツさの方向性も、似たもの同志。今後は、お二人で直接話してもらいたいと思いました。
「さっきの方、○さん(=上司)と同じ出身県らしいですよ。諦めない熱心さも似ていると感じました。」
「そうかな…。タイミングが悪かったのかもな。」
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そういえば私は、交渉らしい交渉をした記憶がありません。
意識しているのは、リスクを事前に潰すこと。そして、相手がチャンスと捉えてくれる提案をすること。
そのために、"下準備" は必要でしょう(笑)?
より良い結果を招くためなら、ね。
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フィクション…か、ご想像にお任せします。
お読みいただき、ありがとうございました。
あーさ
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2020/09/30 1st edition