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凱旋(中編)


バイーヤ州 シャパーダ・ジアマンチーナ国立公園。何十億年もかけて築かれた奇跡のような絶景の宝庫。


サンパウロで再合流する予定の腐れ縁Mと、ここで帰国する望遠職人のTに別れを告げ、古都サルバドールから長距離バスに乗る。ブラジルの長距離バスというはすごく快適で、ほぼフルフラットになるゆったりとしたシートの大型バスだ。電車がほとんど無い分こっちは進化している。


街を出ると窓越しにファベーラ(貧民窟)が沢山見えた。

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随分とカラフルで、35年前よりファベーラも立派になったなあと思う。これもブラジルらしい風景の一つだ。


それからしばらく地層が剥き出しになった山肌の中の道を進む。小学校の遠足でこんな道すがらの地層を調べてまとめるという課題が出たのを思い出した。あれは、、最後までよくわからなかった。だって僕らからしたら場所も良く分からない通り過ぎるだけの景色の話だ。

7時間のバス移動でそんな記憶が呼び戻されていく。

車窓を流れる風景を横目で見ながら遠い記憶を数え、いつしか眠りに落ちていた。

シャパーダ・ジアマンチーナのベース基地となるレンソイスの街に僕らのチームが辿り着いたのはもうすっかり日が暮れてからだった。


そうそう、そのバス出発の前夜、面白い電話がきた。

「いよいよ明日から後半戦だ。そういえばロスから来るカメラマンTTは明日の朝サルバドールの空港で合流して一緒にバス移動だっけな」、と思っていた矢先、電話がなったのだった。

出てみるとTTだった。
あれ、今頃飛んでないとおかしくないか、ん? まあとにかく

「もしもーし、あしたからまってるよー」

「南雲さん、それが、なんか、どうやら、飛行機が出ちゃったみたいなんですよ、、」

「はい?」

「なんか、12時間フライトの時間を間違えて認識してて、、昼のフライトのつもりでいたら、昨晩の深夜便だったみたいで、、、まだ家にいたりして、、」

「あ、あんたねえ、、」

「いや、ほんとすみません。えーと、どうしましょう、丸一日半ぐらい遅れそうなんですけど、もはや来なくていいとか、そんな感じですか?」

「、、、いや、来て。這ってでも来て、いないとだめだから」

「は、はい、なんとか合流します、、」

「うん、待ってないけど、待ってる」

と言うわけで、ここは笑って堪える事にして(⌒-⌒; )

その事をみんなに告げると面白いように目が点になった。でも笑い飛ばす、余力がある。

一人足りない状況で後半戦のスタートとなったのだが飛車と角がいる安心感はこういう時何事もにも代え難い。

無事バスも目的地に着いたし。 

「さあ、飯食って寝よう。」
明日は肩慣らしのトレッキングを一本予定している。

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資料によると片道6km、断崖絶壁の岩山の上から細く落ちていく滝が見えるポイントが今日の目的地だ。まあ、このチームなら楽勝だろう、
そうそう、言い忘れた訳ではないが今回のロケ、前半戦から現地のドローンチームを帯同させている。ところがコイツらときたら全く持ってちゃんと飛ばす事ができない。カメラを搭載する所から大苦戦。。前半戦でドローン撮影できたのは、、3秒ぐらいか、、全然だめなのでほぼ整備に当たり続けている。途中からはいないも同然なので逆に撮影はスムーズに行っていたような所がある。

時間をかけて散々調整を行ったというので、シャパーダにも一応連れてきているが、、どうなることやら。

このトレッキングにも同行させてみたのだが、こいつら歩くのがおそい、巨漢ふたりのチームでトレッキングには全く向いていない。おかげで全くペースが上がらないので途中から先行した。

6kmのトレッキングは想像よりハードで、カメラを抱えているのもあるが、高低差のあるルートは膝にダメージをあたえてくる。
岩場、ガレ場、薮、川渡り、川の水は植物のタンニンで濃い紅茶のような色をしている。そして天気がよくて暑い。

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「まだまだこんなの肩慣らしだ!」
なんとかモチベーション高く頑張って、良いペースで目的地に向かっていく。

目の前がひらけた。恐ろしいばかりのストンと切り立った絶壁、その落差は500m、そのどーんと抜けた谷のまわりにいくつものテーブルマウンテンが望む。



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「来たぜ秘境シャパーダ・ジアマンチーナ!!」

なかなかの絶景にしばし固唾を飲む。
だが写真にするのがむずかしいロケーションでもある、細い滝が谷底からの風で逆に上に舞い上がっていく。
谷底を覗くには断崖絶壁の縁に寝そべり顔を出さなくてはならない。
落ちないように足に角(カク)のMを座らせて重りがわりにする。

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うろうろしながらアングルを探しまわり、一通り撮影したころに汗だくのドローンチームがやってきた。もうベトベトになって悲壮感が漂っている。やれやれ、
ドローンは、断崖絶壁から飛ばして絶景をカメラにおさめるプランである。
しかし、風が強い。ドローンは風の影響をモロに受けるのだ。
一応ドローンチームに判断させたが結局そこでは飛ばせないというので、飛ばしやすそうな場所でとりあえずテストフライトする事にした。
まあ、上に上がって見れば見えなかったアングルも見えてこよう。

カメラを搭載して、いざ離陸。

ゆるゆるとドローンは地面を離れていく。5mほど上がった所でカメラを向ける方向の指示を出そうと思ったらドローンの挙動が乱れ始めた。傾いている、大汗と冷や汗をかきながらドローンパイロットが必死に操作して姿勢をもどそうとしているが、そのまま斜め下に下降し始めて落下、もんどりうって僕の足元に転がってきた。。

やれやれ、断崖絶壁でやらなくて本当に良かった、、とりあえずカメラを回収して動作チェックだ。

幸いカメラはノーダメージだったが、ここでもドローンは不発に終わった。

さて、ドローンチームはここでドローンを墜落させる為に巨体を揺すってベトベトになりながら山道を登って来た事になったわけだ。そう思うと若干不憫に思えたが、、ここがブラジルじゃなかったら僕の逆鱗に触れていただろう。よかったね君たち。

帰りのルートで、綺麗な夕焼けがみれた。角のMが撮りたいというので少し脚をとめて僕も撮影した。
日が暮れる前にチームを帰そうと少し焦っていた僕の目線をMが良いタイミングで上に向けさせてくれた。

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本当にいい空だった。この脚をとめて真っ赤に照らされた数分は、その時の気持ちといっしよに強く僕の記憶に刻まれた。

情けない事に、宿に戻り車から降りると立てないぐらい疲れていた。荷物を抱えたままエントランスのコンクリートに座り込む。冷んやりと気持ちがいい、そのまま座り込みチームで話をしているとロスのTTがもうすぐ合流出来そうだという連絡が入った。

こんなとこまでよく一人でたどり着けるもんだ、いや、這ってでも来いって言ったのは俺か、

程なく、TTはやって来た。


「いたーぁ!、南雲さーん。来ましたよー!ごめんなさいー」

僕は最後のカードを笑顔でお出迎えした。

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シャパーダロケはここから本気モードに突入する。

わずかな時間、光が差すタイミングでブルーに光る地底湖
巨大なテーブルマウンテン
そして、
一番の秘境と言われる
「Cachoeira da Fumacinha /フマシーナの滝」
この未知なるフマシーナの滝を撮影する事そこ、最大の目的だ。


1958年、聖市セントロで産声をあげたトヨタ デ ブラジル初のランドクルーザー、通称バンデイランテ。ブラジルの悪路を走破する為に作られた無骨な4輪駆動。それが僕らのロケ車両だ。

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バンデイランテとは17世紀中頃の南米ブラジル(サンパウロ)における「奥地探検隊」を意味する。

ものすごく古い車だが完璧に整備され、快音と共に僕らを乗せてシャパーダ・ジアマンチーナを爆走する。
赤い土煙をあげ、川を渡り、延々と続くブラジルの大地を駆け巡った。


ここでのスケジュールは最大の目的地フマシーナの滝にアタックする事を中心に計画した。


なにせここの写真や情報はずば抜けて少ない。現地に来るまで詳細が決められなかったのだ。
しかしその数少ない写真は凄まじい迫力を伝えてくる。

「 この目でみたい、そして撮りたい。」

トレッキングもかなりハードらしく地図もないので現地の屈強なガイドと一緒にいくのだか、悪天候ではたどり着けないらしい。またルートによってかかる時間が数時間単位で違う。

現地のエキスパートが何人もあつまりプランを出し合う。
「地形、向き、季節、太陽の位置、幅、高さ、」少ない情報の中で撮影の設計をなんとか進める。ガイド達はルートについて話している。ルートといっても基本的にトレッキングルートのような道は無い。自然の地形の中をどう進んで行くか、、と言うことだ。

最初のアタック予定日は天候の問題でキャンセル、
地底湖の撮影にチェンジした。

ブルーに光る地底湖は、洞窟に光が差し込むわずかな時間だけその美しさを見せてくれる奇跡のような池である。楽観的に言えば、その時間さえ見計らって行けば見るのは容易いはずだ。

いざ、行かん!

バンデイランテ号は赤土の道をかっ飛ばし、地底湖のある洞窟近くで僕らを降ろした。

良いタイミングで青空が広がる。地底湖に光が刺す時間は決まっていて、ちょっと待機する必要がある。僕らはその場で絞ってくれるサトウキビのジュースを飲みながらタイミングをまった。

「そろそろいきましょう」

コーディネーターのkの声に、僕らは意気揚々と洞窟の入り口で借りたヘルメットをかぶり、ぞろぞろとみんなで地底に降りていく。
冷んやりした空気、この地底湖の底からは沢山の動物の化石が発見されたという。なかでも5mのナマケモノの化石がでたとか、、

暗闇のなかでチームに撮影指示を出した。各々がポイントで三脚を立てる。

じっと地底湖の前で光が射すのを待つ。

あと、15分、10分、5分、1分

「来るぞ」

池の底がブルーに滲みはじめた、初めてその透明度の高さが浮き彫りになる。水面の境目がわからないぐらいだ。段々と光の束は太くなり地底湖に青く光る宇宙のような空間が現れた

暗闇にシャッター音が響く、フォトグラファーというのはこういう時な意外と冷静なのもで淡々と撮影を進めていく、外に出さない分感動をカメラの中に封じ込める。

光の束は思ったより早く広がり、湖をブルーに輝かせて、そして収束していった。

これは、たしかに幻想的な美しさだ、チーム全員でこれを目の当たりにし、撮影出来たことは幸運だった。

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こうして一つのミッションはこなす事ができた。

しかし、どうにも心が落ち着かない。僕の気持ちはすでにフマシーナの滝に傾いているのだ。


心に大きな不安がのしかかっていた。

本当にアタック出来るのか、ちゃんとたどり着けるのか、撮影できるポイントはあるのか、みな無事に帰って来れるのか。


ロケも日本を出てから2週間を過ぎるころだ、残りの体力を考えるとそろそろアタックをかけたい。緊張の糸が張り詰めている。

その後も撮影をこなしながら、決断する時がせまっている。
全てに思考を巡らせ、、明日がラストチャンスだと思った。

何度となくスタッフとミーティングを重ねる。フマシーナの滝はV字型に切れ込んだ巨大な谷間に存在する。光が入る時間は南中の1時間ほどだろう、それまでにたどり着かなくてはならない。
出発の時間はコースによって全く違う。現地ガイドは最短ルートを提案してきた、それならば早朝の出発でギリギリ間に合うという。最短ルートとは、もっとも険しい道という事だ。

わかっている事をもう一度問う。

「明日の天気は?」

「悪くない。」

「みんな体調はどうだ?」

「、大丈夫です、行きましょう!」

「、、、、、よし、 腹をくくるぞ」

チーム全員の目が光る。。いざ決戦の時だ。


翌朝4時にバンデイランテ号は宿を出発した。

暗闇に豪快なエンジン音ががなる。僕の心臓の音はこのエンジン音がなかったら皆んなに聴こえていたかもしれない。


後編に続く


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